「鼻毛」と「美人」



 主婦である私が近所のスーパーへ買い物へ行った時のこと。

 買い物カゴを持って前方に見える野菜コーナーへまっしぐら。

 そこには同じく買い物をカゴを持った知人がいた。


「あら、元気だった?」


 まあ大体そんな挨拶からの流れで立ち話が始まった。

 その会話の途中で、遠慮がちではあったものの彼女は唐突に言った。


「あのね……美人でも鼻毛気にしない人っているんだね」


――美人の鼻毛?

 

 心の中で問う。


 もうそれだけで可笑しいというのに、基本、どんな時も真面目である彼女の顔色がいつもと同じだったせいもあり、私の脳内では、冗談や笑い話ではない――と判断を下した為、平常心を保ちながら話の続きを聞くことにした。


「あー、どうなんだろね」


 当たらず触らずな返答しかできない。


「この前、ある人と話してたら鼻毛が出ててね。美人でも鼻毛気にしない人っているんだなぁ、って思って」


「へー……いるんだね」


 知人と共通しそうな美人を頭の中でカシャカシャと素早く巡らせたが、誰もストップしなかったので、私の知らない美人なのだろうと思うことにした。

 きっと知人は美人から鼻毛が出てしまっていることにかなり驚いて、誰かに話さずにはいられなくなったのだろう。


 確かに、美人で鼻毛出ちゃってる人を見たことがない(と思う)けど、今までにあの人は鼻毛を「気にする人」or「気にしない人」なんだ……と、考えた事すら一度もなかったから、少々頭の中が混乱した。 

 ほんの一瞬だけ悪口を聞いているような気分になってしまったのは、大きな声で話せない内容のせいだろうか……。


 私の性格上、マイナス的なものを感じる会話すべてに突っ込むことが出来ないので、それ以上「美人の鼻毛話」は発展しなかった。

 それから互いに「じゃあね」と笑顔で手を振り別れ、買い物を続行させた。

 遠くから私達を見ている人がいたのならば、きっと真面目な話でもしているように見えていたかもしれない。


 美人の鼻毛って、口ひげとか鼻毛をいたずら書きされた教科書の中の偉人達と同じレベルの不自然さがあるけれど、だからといってnot美人が鼻毛を出してても驚かれないということはないだろう。

 どんな気取った美人だったとしても、鼻毛の処理を怠らない人もいるだろうし気にしていない人だっているかもしれない。多分、私の鼻から鼻毛が出ていてもコソコソと言われることはなく、笑い話として提供されてゆくのだろうと思った。

 どちらにしても、歓迎されない場所の毛は処理するに越したことはないのだろう。


 そして今年、「美人と鼻毛」をどう書こうかぼんやり考えていたら、なんとテレビから聞こえてきたのは鼻毛の話だった。


 そのタレントさんいわく「フランス人の鼻毛はナチュラルで……」と。


 耳を疑い、テレビに釘付けになった。お国柄で鼻毛はナチュラルな扱いになる?

 勝手にはえてくるのだからナチュラルと言えば当然かもしれない……。


 美人にもイケメンにも、みーんな平等に鼻毛ははえる。


 これから日本の経済や環境がどう変化しようとも、飛び出した鼻毛がナチュラルだと思う文化になることはないだろう。


 とにかく「○○のお母さん鼻毛出てた!」と子供が笑われることのないように、鼻毛の処理はちゃんとしている私だ。






 

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