第36話

盗賊一味ひと組が女の不思議な力によって

一網打尽にされる以前、盗賊一味のことを

村長(祖母)と少女に女が打ち明けホトトギスが

鳴いた直後のことだ。

女性は話が無事にすみ安堵の気持ちから

気分転換も兼ねて静かに外に出た。

相変わらずホトトギスが流暢な声で鳴いていたが、ふと気になってホトトギスが鳴く反対側の森を向いた。

その森の僅か上空にこちらに向かってくる

ものがあった。

次第に近づいてくるため目を凝らして見ると

色艶の良いとても精悍な鷹が女性の方へ

向かって来た。

近くまで飛行して来た鷹はとても賢く

女性に気づいたのかやや方向を転換して近寄って来た。

鷹は女性の差し出した手の少し上の右腕に止まると爪を立てないように自分の足に付いている筒を見るように顔を動かし促した。

女性は鷹の指し示した筒を取り中身を見ると

短い伝言が記載されていた。

女性はその伝言を見てやや表情を曇らせた。

女の記憶が戻らない以上、歓迎すべきことか判断しかねたのだ。

その気持ちを察したのか鷹は短く低い声で

泣きながら女性に擦り寄ってきた。

「ごめんなさい。

お前が悪いわけではなのに。

でも慰めてくれてありがとう。」と

女性は上品に優しく鷹の頭を撫でた。

鷹は喜び短く嬉しそうに鳴いた。

女性は鷹を連れて再び村長の家の戸を開けて中に入った。

女を除いた村長と少女は立派な鷹が女性の腕に止まるっているのに驚いたが短く事情を説明して女に事の次第を説明した。

女は確認も兼ねて自分には記憶が無いことや間近に迫った村の大事があるため

その伝言の件は残念ながら後回しにする他ないと判断した。

鷹は女と目を合わせると女性に接した以上に大喜びし翼をバサバサさせながら飛び

女の肩に留まった。

鷹はクークーと喉を鳴らすように女に擦り寄り甘えたが当の女は「ごめんなさい。お前のことも覚えてないの本当にごめんなさい。」と上品により一層優しく鷹の頭を撫でた。

鷹はその気持ちを察したのか女を励ますように鳴くと更に女に擦り寄ってきた。

「お前、私を励ましてくれるのね。

ありがとう。」と女は鷹の頭を手の平で優しく包みながら頬に引き寄せ触れた。

女の頬にあたる温もりは生き物の体温と匂いを感じさせた。

一同がその美しい状況に見惚れていたが

女がそれに気づき少し頬を高潮させながら

村長(祖母)と少女に(孫娘)そして女性に言った。

「皆さま方。これからが大変です。

村長、村の方々をお集めください。」

村長は「まず村の重要人物を集めて話し合いの機会を設けたく思いますが。」と女に対して提案すると

「それで結構です。よろしくお願いします。」と女は労い(ねぎらい)の言葉をかけた。

今、盗賊一味を撃退すべく女と村人の計画が始まったのだ。



それから3日後のことだ。

全ての盗賊一味の部下たちに渡りをつけた

蛇に似た女は村へと急いでいた。

盗賊の頭(傷の大男)に言った通り、直ちに村の様子を探るためである。

急ぎ歩むと夕暮れではあったが村に到着した。

村の様子をうかがいながら村人に見つからないように歩みたまに会うと明るく挨拶をしてその場を逃れた。

数百人はいる村人同士を全員名前と顔を一致させすぐに憶い出せる者はあまりいない。

蛇に似た女はそれらも利用して巧みに

村の様子をうかがったのだ。

一通り村の様子をうかがった蛇に似た女は

ほぼ自分の予想通りの村の様子に安心したのか盗賊の隠れ家(アジト)への帰路に着くべく

村の出口の門へさしかかった。

事前の下調べの通りこの時間帯は夕食時でもあり門番はいなかった。

なんなく門を抜けた蛇に似た女は村を出たが

少し歩くと自分をつけて来ている者の存在に

気づいた。

村人が数人自分をつけて来ていたのだ。

蛇に似た女は「私に何か用かい旦那方!」と

よく通る声で話しかけた。

それを聞いた村人の男達の1人が「よう!今から森を抜けて隣り村にでも行くのかい!」と問うた。

蛇に似た女は「そんなところだよ。」と

問いに答えたが村人の男達は口々に

「そいつはあまり関心しないな。まだ夕暮れで明るいがもうすぐ日が暮れる。」

「夜道を女の独り身で歩くのかい。それにこの森は思ったより深い。物騒だぜ。」

「そうだよな。明日にした方がいいじゃないか。」と言葉をかけた。

「あいにく私は結構足が速いしこの辺の地理も詳しいんだ。

ある程度暗くなるのは仕方ないがさほど夜が深まらないうちに家路につけるさ。

まあ心配してくれてありがとうよ。」と

蛇に似た女は村人の男達に言った。

それでも村人の男達は何か言いたそうにしていると「何だい!私に何か用かい!

ははーん!あんた達、私に気があるんだね!

それならそうとお言いよ!誰から私の相手をしてくれるんだい!」と蛇に似た女は体をくねらせてシナをつくり村人の男達を誘った。

村人の男達は一斉に全身が総毛立ち

「いや!すまなかった!本当に余計なことだったな!」と蛇に似た女から後退り距離を置いた。

「何だよ!せっかくその気になっていたのに!イケスカないね!まったく!」と

ぶつぶつ言いながら蛇に似た女は村人の男達から向きなおり森に入って行った。

呆気に取られていた村人の男達は我に帰り

追ったがとき既に遅く何処にも

蛇に似た女は見当たらなかった。


それから半刻もしないうちに蛇に似た女に

話しかけていた村人の男達が村の中央広場のような場所に戻って来た。

そこには女と女性と村長と少女が知らせを聞いて待っていた。

村人の男達は広場に着く早々

「すいません!姫さま!予想以上の難敵で

気づいた時には姿を見失いました。」

女は「御苦労様でした。」と労いの言葉をかけ村の男達は顔を高揚させ照れていた。

(それにしても姫さまとは真逆で恐ろしいやつだったな。)

村人の男達は女を見てこの姫さまがあの蛇に

似た女と同様の生き物かとしみじみ思い

頬を高揚させながら女に見惚れていた。

女は自分の力では起きる出来事と

いる場所は特定できてもそこに至る道のり

まではわからない。

思案していると自分の肩に留まっている鷹が目に入った。

鷹で蛇に似た女を追跡できないか思案したが

深い森の奥にあるであろう盗賊の隠れ家を

発見するのは難しい。

色々と思案している時ふと自分を呼んでいるような気が女にはした。

女は皆に断り告げると女性を伴い

村の出口までやって来た。

そんな女が見たものとは。


第36話序章 完


※姫さまとは村人達が女につけた愛称である。




















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