第35話

女を絶賛して送られた愛称が姫さまであった。

女も自分に記憶がなく自らの名前すら憶い出せない状況では村人がせっかくつけてくれた愛称をことさら否定するわけにもいかなかった。

女の周りの大気をも身にまとって降り立ったような様は一本の絵巻物語の冒頭を思わせるようで壮麗な姿だった。

その余りにも神々しい姿に3人の男たち(盗賊一味)は見惚れてしまっていた。

女が辛辣な言葉を盗賊一味に掛けるまでは。

「あなた方(がた)はそこに暮らす人々の日常を

邪な企てによって奪おうとしたのです。

決して許されることではありません。」

「その邪な企ての象徴である武器を捨てなさい。」と女は言葉を発した。

見惚れていた男たちは女の言葉に我に帰り

「ふざけるな!なんで俺たちがお前たちの

いいなりにならなきゃならない。

お前たちこそ俺たちの報復を恐れるならとっととここから解放しろ。」と盗賊一味は

体の痛みもあり一層気が立っており迫力のある怒号で女と村人を脅した。

村人がやや怯みがちに対して女はまるで臆することなく無人の野をいくが如くそれでいて

静かな内に秘めた怒りが盗賊一味に向けられ

その迫力に盗賊一味は怯んだ。

絶世の美貌を持つ女が本気で怒るとより一層の迫力が加わるのだ。

盗賊一味には天より舞い降りは天女がいきなり女般若へと変わり自分達を殺そうとしていると思ったに違いない。

「あなた方(がた)がそのような行いをされるならこちらもこのような対応をしなければなりません。」と女はゆっくりと上品に左手を上げた。

すると数十人の村人が現れ手に収まる小さいサイズとはいえ投石を始めたのだ。

小さいとはいえ雨のように降り注ぐ石に

あたりどころが悪ければ死にかねないのだ。

盗賊一味はあっさり降参した。

その際「隠している武器も全部捨てるのです。

今から縄を投げます。

その2本の縄で2人を縛り引き上げ最後の1人はこちらの落とす縄梯子を登りなさい。ただし穴を出た際変な真似をすれば数十人いる村人が一斉に押さえに掛かります。

無事ではすみませんよ。」と女は美声で上品だが静かでいて迫力のある言葉で盗賊一味を

威圧した。

「姫さま!まずは1組目!この調子で

いきましょう!」と村人の1人が言った。

女は「そうですね。もう一息です。頑張りましょう皆さま」というと村人は

「よーし!姫さまと共に頑張るぞー!」と

どこからともなくかけられた掛け声に一同は

共感して声を上げた。


第35話序章 完

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る