閑話の小ネタ集③

【その血の運命】


「そういえば言及されなかったけども、ミオのお母さんはどういう方だったのかしら……」

「母……ああ、あの巨大生物の妻ですね。のちに届いた手紙によると、シャイナ中央大陸の生まれで、名前はユイ。元はライトニング・ゴリラ・ゴリラサイドの雇われ暗殺者だったそうです」

「な、なるほど、そちらも一角の人物ね」

「ストロンガー氏に襲いかかったのが初めての出会いで、まあ、男女の何かがなんだかんだとあって、情が移ったのだそうです。現在はゴリラ陣営を抜け足を洗い、仲良く暮らしているのだと」

「ご存命なら、顔を出して下されば良いのにね」

「元闇の住人ですからね。しかしときどき娘(わたし)の様子を見に、グラナド城に潜んでいたそうですよ」

「そっかあ、グラナド城に……。……えっ!?」

「私も二十年あまり気が付きませんでした。しかし今、存在を知った以上、気配を感じられるようにはなりました。近いうちに必ず捕獲してみせますよ」

「ミオ、なんかもうなんでもありになってない?」



【ソング・フォー・マリー】


「マリーさんの音痴は、やっぱり家庭環境のせいよね。するとあのお姉さんも?」

「いえ、アナスタジアお姉様は貴族の家に嫁入りするための教養として、色々教わっていましたから」

「ああそっか、マリーさんが物心つくまでは『女傑のサーシャ』がいて、家計に余裕があったんだものね」

「はい。そうでなくても元が快活なので、歌ったり踊ったりしてました。たしか絵画も上手なはずですよ――お父様に似て」

「……おとうさま?」

「ええ。言ってませんでした? 父はその方面だけはよく出来るひとでして。機嫌が良いときの鼻歌は本当に上手でしたし、月が綺麗な夜には、よくヴィオラを弾いていました……」

「ごめんマリーさん、笑うとこじゃないかもしれないけども、一回笑うわね」



【お姉様のふわふわ】


「お姉様は、わたしが物心ついたころからロングヘアーだったから、今はなんだか不思議なかんじですね」

「そうねー。バッサリ髪を切って身軽になったのはいいけど、癖っ毛のせいで爆発状態になっちゃった。後ろ髪の重さで抑えられてたのね」

「いいえその髪型もとても素敵です! 輝く髪が四方八方に拡がって、まるで年に1度満月の夜にだけ咲くという月下美人の花のよう」

「マリー、たぶん本気で言ってるんだろうけど、俺には育ちすぎたタンポポにしか見えないぞ」

「あははっ、僕には並外れて毛深いヒヨコに見えるなー」

「私には数年ぶりに動かしたキャビネットの裏から出てきた埃の塊に見えますね」

「あんたら全員、ひとの頭をなんだと思ってんの?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る