第2話 笑顔の裏に潜む感情
泣き崩れる母を横目に僕は遠くとも近い過去の出来事を思い出していた。目の前の張り裂けるような両親の顔の輪郭を、過去の思い出を自分の眼に写すことでボヤしたかったからだ。
とは言いつつも僕の人生は幸せではあったがつまらないものでもあった。むしろつまらない人生を幸せと呼ぶのかな?波乱の中で生きる人生に憧れていた僕は大学生までの尖っていない人生を変えようと海外の大学に行こうと必死になった。砂の数全てが幸せの粒である砂浜にいるより、乱れ狂う波の中で佇む幸せのかけらを見つけたかったんだ。
それで高校生2年生の時から英語を学ぼうと必死に努力したあまりに初めてできた彼女に振られたのも、海外に来れたことを考えるとそう悪くなかったのかもしれない。
でもそうか…波乱に塗れた人生っていうのは病気になるって意味じゃなかったんだけどな。そもそもこの状態自体僕にとってはそれ程大きな波にはなっていない気がする。この頃すごく疲れやすくなっていたし、普通に歩くだけで息切れを起こす上に咳をするときに喉がひどく痛んでいたから病院に行ったんだ。そしたら案の定癌だって。ドラマの中ではよく主人公が
「何でよりによって俺なんだよ、何で俺ばっかなんだよ!」
って怒鳴り散らかすのを見て悲劇の踊り子みたいでかっこいいなって思ってたんだけど、僕がいざその場に置かれるとそこにあったのは虚無だけだったな。その虚無も絶望からくる虚無じゃなくて無関心からくる虚無だったんだ。空笑いさえ出てこなかったよ。だって自分が死ぬのは怖くないからね。
ただ僕は優しすぎるんだよな。昔からよく他人に優しい人だねって言われるし、自分でもその自覚はある。何より僕は他人の笑顔が好きなんだ。それを見ると心が安らいで胸の奥がほんのり暖かくなる。だから笑顔を裏に潜み隠れ、今か今かと出てくる機会を窺っている苦しみや悲しみ、涙といったものは嫌いだった。
今僕の目の前に笑顔はどこにもない。全ての負の感情が病室を支配し笑顔を覆い被せてしまった。あぁ、僕の体がひどく重いのは癌のせいじゃないんだろう…
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