僕「癌だった…」
@oppaigasky
第1話 僕と第三人称、病室にて
僕はそういうと両親の顔は苦悩、憐れみ、絶望を顔に渦巻かせながら、とうとう母は堪えきれなくなったのか、その場にしゃがみこんで嗚咽し始めた。
あぁ、これが嫌なんだ。余命宣告を医者から食らおうと僕はどうでもよかった。自分が死ぬのはどうでもいいし、生に執着するのはみっともないからだ。
でも、でもこれがいやなんだ。知人が僕のことを想ってくれて、悲しみに暮れることが。自分が死ぬのは怖くないのに、知人の苦しみを見ることが昔から僕には耐えられなかった。
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さてこんにちは。私は第三人称です。小説の多くに置いて第三人称が全知全能のナレーターとして知られていますが私もその例外に当てはまらず、小説内の人物の心情と雰囲気の全てを知っていますね。それで何が私の仕事かと言いますと、作品内の情報をいかに上手く表現でき、いかに正確にそれを伝えられるか、というものになります。だからもちろん場に合わせて語り口調を変えるなんてこともザラにあるのでそこはご了承ください。
しかしまぁ語り手というのは私の腕の見せ所ですね。あっ、ちなみにもしも私がひとつでも間違った情報を提供することになりますと、話に高揚をもたらそうとする場合を除いて、私は死ぬことになります。一つのミスが命取りになる職業なんです第三人称というものは。
まぁでも、全知全能、いわば神の私です。そんなことはないでしょうが…神にも慢心はあるものですよ。
では私の自己紹介はこれほどにしておいて、この哀れな青年の様子でも語りましょうか。
彼は何の変哲もない少年と言えば大袈裟なのかもしれませんが、特に何の変哲もない少年です。小さい頃に幸せな家庭に生まれ、不自由を知ることなく大学生になりました。本当に他の人と何ら変わりありません。小学生の頃は初々しいのも束の間、すぐに友達ができ毎日を外で友達と遊び呆ける日々。中学生で初恋を経験するもその味は苦く、高校生のときに初めて異性との交際の始終の経験を経る。大学で海外の大学に進むことになったならば空港では両親や彼の友達とは涙と抱擁の別れを喫し、海外へと旅立っていきました。
本当に他の同年代の人とは何も変わりありませんね。ただ現実というのは一人には甘く、一人には厳しいものです。ここでの一人というのは本当に一人で、そこにはその人物の性格や素行は関係しません。罰当たり、神、天国や地獄というものは所詮善行を重ねても厳しい現実と向き合わなければいけなくなった人間たちが作り出しただけのただの希望なのです。
だから、現実の対義語は本来、空想ですが、私は希望だと思います。
さて彼は惜しくも厳しい現実を引き当ててしまったのです。入院したと聞き、わざわざ海外まで押し寄せてきた両親に対し青年は言いました。何の感情も込めずに。
「癌だった」
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