天使ララエル、今日もやってます。

@YA07

『アンバース』編

第1話 プロローグ


 ララエルは絶望していた。果報は寝て待てと言うが、寝て待っていた結果やって来たのが果報ではなかったからだ。


「いやまあ、それは当然なんだけどさ……」


 独り言のようにそう呟く。

 当然というのも、ララエルは天使──いわば神の使いであり、果報を寝て待つ側ではなく、寝て待っている側に幸福を運ぶのが仕事だったからだ。


「はぁ……でもまあ働かないと天界追放されちゃうしなぁ……」


 ララエルが今回上司から命じられたのは、『アンバース』という世界に希望の光を届けることだ。アンバースではなんでも強力な魔物が蔓延っている上に、何やら魔王とかいうのが合わられたらしい。そう調査書に書かれている。


「あーあ。見習いだった頃に戻りたい……」


 ララエルは調査書を適当に読み流しながら、そんなことを思っていた。

 というのも、この調査書を作成しているのが見習い天使なのだ。見習いということで、もしミスをしても大したお咎めはなし。ララエルも当時は変な嘘を書き込んだりして遊んでいたものだ。

 それが正式な天使になってからはどうだろうか。サボりやすくはなったが、こうして定期的に仕事を任される。よしんば見習い時代の成績が良かったため、任される仕事もそれなりに面倒なことが多い。


「……」

 少しめんどくさそうなアンバースの調査書を読みながら、ララエルは上司の顔を思い浮かべていた。

 ララエルは、優秀だ。それは本人も強く自覚しているところで、それを驕ったりもしない。ただ、その自分の優秀さを当てにされるのは少し嫌いだった。


「はぁ……アイツのことだから、こういうのは私に任せとけーっててきとーに割り振ったんだろーなー」


 鮮明に思い浮かぶそんな上司の姿に、ララエルは酷くやる気を損なった。

 きっと、アイツは私が失敗するなんて露ほども思っていないだろう。そう思ったララエルは、ふと今回の仕事に対する悪戯心が湧いてきた。

 今回の仕事の目的は、アンバースで生きる人々に希望の光を齎すこと。別に、ララエルが天使として人々を導くとかそう言った話ではない。


「んー……なーんかアイツの思い通りに働くのは癪なんだよなー」


 別に上司のことが嫌いなわけではないが、それはそれとしてララエルは想定内というものが嫌いだった。期待されれば裏切りたくなるし、上手く物事が運んでいると邪魔をしたくなる。逆に絶望に染まっている人には幸福を味わわせてやりたくなるし、見向きもされてないと活躍してやりたくなる。ある意味それは困難に立ち向かう人々を導く天使としてはうってつけな性格かもしれないが、少し困った性格であることに変わりはない。


 現に、ララエルはどう上司の困り顔を引き出そうかなどというどうでもいい余計なことを考えながら、アンバースへと下界していっていたのだった。

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