第3話『放課後ハイテンション』
待ちに待った放課後がやってきた。
心臓の鼓動がバレないか、ただそれだけが気がかりだ。
せっかくの移動時間での会話が曖昧な返事しか出来ず、内容もほとんど覚えていなかった。
話せるタイミングを常日頃探っていた太志。
気になり始めたのは一カ月前。クラス委員を決める時に皆が
それからは時折、視界に入る度に目で追っていた。
そんな意中の子と今一緒にお出掛けしている。太志にとってはまさにチャンス到来というわけなのだ。
目的地に到着した三人は混んでいない店内に安堵した。
黒を基調としたオシャレな制服に身と包んだ店員に案内され、テーブル席に着いた。
三人は早速メニューを開き始めた。
「うーん、どれにしよっかなー」
「ねー! うわあ、これとか、あー、これとかも美味しそうだし、あっ、これなんかも可愛い~」
「やっぱいいね、ここの店選んで正解だったよ。マジ映えっ」
「全部美味しそうだな。確かに早紀の誘いに乗って良かった」
目を輝かせながら、あれやこれやと目移りしている香苗。
スマホでせっせと写真を撮って保存している早紀。
そんな二人に視線がバレないようにメニューから二人を覗く太志。
この状況、俺が写真撮りたいんだが。撮っても許されないかな。記念撮影的な感じで。
いや、立花さんに変な誤解をされたくない。
ここは慎重に、慎重に……。
「ねえ、立花さんってこういうの結構好きなの?」
「実はそうなんだーっ。けど、こういうところに一緒に行ってくれそうな友達が居なくて……」
「なるほどねぇ、じゃあ一緒に来れて良かったね」
「うんっ、早紀ちゃん、太志くんありがとうね!」
「いいって、いいって。そんなことよりそろそろ決めちゃおー」
三人は各々メニューを注文し終え、早紀が電話の用事があると言い出し、席を立った。
何を話そうかと思考を巡らせていた太志に、香苗の方から声のボリュームを落としながら話題を振って来た。
「太志くんって、や、やっぱり早紀ちゃんと、付き……合ってるんだよね」
「っは……はい?」
「だ、大丈夫だよ? 私、口は堅いから」
太志はかなりの突拍子もない内容に、香苗に焦点を合わせて硬直した。
目と目が合った香苗は小恥ずかしそうに目線を下げている。
このまま沈黙を続ければ、肯定していることになってしまう。誤解を解くために太志はハッキリと言葉にした。
「いいや立花さん、俺と早紀は付き合ってないよ。これは嘘偽りない本当のことだよ」
「え、そうなの?」
「ああ、間違いない事実だ」
俺は姿勢と正し、立花さんに真っ直ぐな眼差しを送り続けた。ここで目線を逸らしてしまえば、若干でもしこりを残してしまう可能性がある。そんなことにならないためにも俺は誠心誠意で答えた。
香苗は視線に気づき、目線を上げると、予想以上の熱い視線に驚愕し、再び目線を下げた。
「そ……そうだったんだ。私ったらてっきり、二人はそういう関係だとばっかり思ってたから。あっはは、なんだか勝手に早とちりしちゃってごめんなさい」
太志の誠実な対応に香苗は、疑いの考えが晴れ、太志の言葉が真実だと信じることにした。
そして恐る恐る、ある提案を持ち掛け始めた。
「じゃあ、もし、もしも太志くんが良かったらなんだけど……あの、れ、連絡先を交換してください!」
「お、お願いします!」
予想外の提案につい食い気味に即答してしまった。
だが、願っても無い申し出に前言撤回せず、流れるままに連絡先を交換した。
それから程無くして早紀も用事を済ませ合流。少し雑談を挟んだところで注文したパフェやケーキが運ばれてきた。
完食後、まさかの展開が訪れた。
なんと、早紀からの提案で、三人が一枚に収まる写真を撮ることになった。
写真撮影中、ふわふわした気持ちで情けない顔をしていたに違いない。撮影後の写真を見て先が微笑んでいたのを見た。
だが、それでも良かった。今日はとても楽しい日になって良かった。
家に着いた俺は一人悶えていた。
ベットの上で悶えていると、先程撮った写真が早紀から送られてきた。
俺はそれを見て、体を捻じり、伸ばし、更に悶えていた。
俺は今日一日で全ての運を使い果たしたんじゃないか。
あぁ、凄い物静かな子だと思ってたけど、案外いろんな事で話しが合ったなぁ。
しかも、あの一口一口幸せそうに食べる姿、くぁ~、写真に収めたかった!
あー、あー、あー! しかも連絡先交換しちゃった! うぉー!
今日の夜とか連絡してみようかな。あ、いや、待てよ、がっつき過ぎるな俺。焦るな俺。
落ち着けー、ここは焦らず、あちらから連絡来てからが勝負だ。ここは我慢だ我慢。
俺は確信した。
俺はあの子が好きになってしまった。
こうして太志は立花香苗という一人の女性に惹かれていくのだった。
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