第2話『有頂天昼休み』
俺、
すると、
「太志、お客さんだぞ」
スマホの画面をオフにし、言われるがままその方向へ体と視線を向けた。
そこには早紀が立っていた。それと、珍しい人がもう一人。
「あーさー、ちょっと話したい事あるんだけど、ご飯食べ終わった?」
「ああ、終わってる」
その一言を聞いた途端、明と浩平は「俺達はちょっと飲み物買いとトイレ行って来るわ」と言い、食べ終えた弁当箱を鞄に入れてこの場からそそくさと消えて行った。
早紀は脇目も振らずに目線を向けているが、もう一人は去って行く二人に目線を送って「あ」とだけ呟いていた。
「あ、あのせっかくお友達とお話ししていたのに、割り込んじゃってごめんね」
申し訳なさそうに気落ちしたトーンで喋り掛けて来たのは、クラス委員長の
方に乗っかるショートロングな黒髪がゆらゆらと揺れて良い香りが漂っている。
この時間を堪能したいと思っているとはつゆ知らず、早紀は何事も無かったかのように話を進め始めた。
「さっき、今日行くとこの話題になってさー、
「ふーん、良いんじゃないか、一緒に行っても」
「良かっ――」
「え! ホントに!? ありがとう太志くん!」
「っ!」
香苗は早紀の言葉を遮り、勢いよく太志の手を両手で握った。
早紀は当然だが、太志もその勢いに気圧されて、すぐに言葉が出てこなかった。
「最初はね、早紀ちゃんが一人で行くんだって思って、じゃあ私も! って軽いノリだったんだけど、まさかまさかの太志くんと一緒に行くって聞いて、断られるんじゃないかなって思っちゃってたんだけど、あぁ! 良かったぁ、放課後が楽しみ!」
「あはは……そうだねぇ~」
「ちょ、香苗ってばっ! あたしも居るの忘れてないですかー? それに、太志もいつまで仲良く手を握り合ってんの! それに鼻の下伸び伸びで猿み出てるよ」
「あっ――――ご、ごごごめんなさいっ!」
早紀の言葉で我に返った香苗。自分の手と太志の目を三度見してから、雪のような肌を真っ赤に染め、慌てて手を背中に回し隠した。
「うぅ……本当にごめんなさい」
顔を完全に下に向けてしまい、髪の毛が垂れて表情は見えないが、飛び出た耳が真っ赤に染まっているのが見えた。
普段の落ち着いた雰囲気で、何事にも真剣に取り組んでいるような真面目な子の新たな一面を見れて、それだけでかなり満足。
「じゃあ、放課後授業終わったらそのまま行く感じだから、そのつもりでよろしく」
「うん、わかった! ありがとうね!」
顔を上げて満面の笑みを浮かべた香苗はそう言って席の方へ戻って行った。
早紀もそれを追う形で「んじゃ」とだけ言い残し戻って行った。
あぁ、マジかよあの立花香苗と一緒にお出掛けかよ!?
マジかよマジかよ最高じゃん!
かぁ~、何かの偶然、いや奇跡でも起きて連絡先交換とか出来ねーかな!
あぁ! 今から放課後が楽しみだっ!
太志は小さくガッツポーズをした。
込み上げてくる嬉しい気持ちが一杯で、居ても立っても居られなくなり、二人の後を追って教室を出た。
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