第2話 危険すぎる
ここは荒野。熱帯のメキシコ。俺はしがない場末のアウトロー、アントニオ・マルヴェルデだったのだが、襲い掛かってきた刺客を返り討ちにした直後、スウェーデン製のトラックに轢かれて死んでしまった。そこまではメキシコにはよくある話で、取り立てて騒ぐような話じゃない。ところが俺の場合、フ〇ッキンジーザスの気まぐれか何かで、片手にはデザートイーグルを、片手にはハッパをもって、見た目はカワイ子ちゃんだが、中身は「俺」という闇鍋みたいな少女「アントニア」として謎の世界に転生し、今までの『罪』とやらを雪がなければならなくなっちまった。それにどうやらこの謎の世界は、メキシコ並みの修羅場のようだし、賞金稼ぎを自称するこれまたやべえ剣使いの女に懐かれちまった。まあ、メキシコの男は銃が強いだけじゃ生き残れないように、順応性が高くやっていけなければいけない。俺もそんな野郎の一人として、簡単にゃ死んじゃやらねえってもんよ。
ところで、この、ブロンドショートヘアのやべえ女、エレナとともに、町に向かう道すがら、まずは、ここがどんな世界なのか把握するとしよう。とにかくわかっていることは、治安が悪いということと、銃がない代わりに魔法があるようだ、ということだけだ。
「ねえ、ニアちゃん。あの無詠唱高速魔法<ラピタマギア>はどこで覚えたの?もしかして、あの持ってた奴はラピタマギアの杖?」
『ニアちゃん』ってのは、つまりは俺のことだ。咄嗟に女の名前が思いつかなかったから、アントニオの女性名アントニアを名のった。もう少し凝った名前でも付けられればよかったが、メキシコで生き残るためにネーミングセンスなんざ磨く必要はないから、そればっかりは仕方がねえ。ラピタマギアの杖ってのは、俺の拳銃を見てエレナが言った言葉だ。もしかすると、森の中にはエルフやホビットもいるのかもしれねぇ。これは、トールキンやスティーブン・キング、ギレルモ・デル・トロなんかが書いた物語の中って可能性もゼロじゃないな。もっとも、そういうジャンルはちゃんと読んだことはないから、受け売りだが。
「生きるために、死ぬ気で覚えたのさ。こいつはオレに合わせて作った特注品だ。オレにしか使えねぇし、迂闊に触らないほうがいい。」
たとえばこのデザートイーグルが、「使い方さえわかれば俺以外でも使える殺人機械」だとわかったら?銃を知らないこの世界の奴らは、保安官もアウトローも猫も杓子もこいつを欲しがるだろう。エレナが俺を殺してデザートイーグルを奪おうとするなんて思いたくはないが、俺にしか使えないと言っておいたほうが、都合がいいのではないか。俺は咄嗟にそうおもって答えた。この便利な道具を使えるという存在価値が俺にあれば、迂闊に殺したり裏切ったりできなくなるだろう。まあ、荒野で生き残るために、死ぬ気で銃を覚えて、死ぬ気で腕を磨いたのは本当だしな。まあ、たとえ剣の腕が立つエレナだろうと、一朝一日でデザートイーグルを使いこなせはしないだろう。
…それにしても、あのフ〇ッキンジーザスは、リベラル派と福音派のどっちの味方なんだろうか。もし銃の情報が知れ渡ってこの世界にもライフル協会が設立されて政治を牛耳るくらいの銃社会になっちまった場合、ジーザスは俺の罪を軽くするのか重くするのかはたしてどっちなんだろうか。いや、宗教のことを考えるのはやめておこう。死にたくなければ、ラマ牧場にあえてガラガラヘビを投げ込むような野暮なことはしない。なぜなら、後々自分がそのガラガラヘビに噛まれて死ぬことになるからだ。
「ニアちゃん・・・・」
まずい、何か怪しまれたか?メキシコのガンマンは別に完璧超人じゃあねえ。特に若いねーちゃんを相手にすると、心の機微がわからず、遅れをとることも多い。それを利用してハニートラップを仕掛けるやつがいるのもこの業界なのだ・・・。
「とても、とっても苦労したのね!!まだ若そうなのに、偉い!私も見習って、もっといっぱい殺せるようにがんばらなくちゃ!ま、私は、ちょっといろいろあって、魔法の能力がからっきしなんだけどね!」
なかなかに物騒な言い回しだが、人を疑うような奴じゃなさそうでよかった。まあ、そういう割り切りのいいやつこそ、荒野の決闘では最後まで立ってるものなのだ。
「なんだ、エレナは、魔法使えねぇのか?」
「そ、そうね。私は、その、ね。たしかに賞金稼ぎやってる人って、魔法が使える人が多いわよね。でも、べつに魔法使えない人もいるし、私にはコレがあるからね。」
ん?なんか気になる言い回しだな。何かコンプレックスでもあるのか?まあ、本人が言わないなら、追求はしない。それも荒野で生き残るための礼儀だ。
それより、この世界は魔法使えること自体はわりと一般的だってのは有益な情報だ。どんな種類の魔法があるかはわからないから、アウトローにでも襲われた際は、俺の知らない飛び道具が出てくるかもしれねぇってことに気を付けなきゃいけねぇ。
「まあ、そうだな。でも剣の腕には自信があるんだろ?さっきもあの人数で追われてたといっていたが、一人で何とかなったんじゃないか?そもそも、なんで逃げてたんだ?本当にめんどくさいだけだったのか?」
「実は、前に街中で暴れちゃったら、街の人に怒られちゃって。今回は迷惑にならないところに誘い出してから仕留めようとおもって、街道からそれた廃屋で待ち伏せしようとしてたの。そしたら、ニアちゃんが倒れていたのを見つけたから、拾ってきたのよ。」
おおむね想像は付く。エレナは殺すことに躊躇がない。むしろ楽しんでやがる。いざその状況になったら、周りは気にしないタイプなのだろう。そんなエレナは、俺の肩をなれなれしく撫でながら、笑みを浮かべた。
「それにしても、ニアちゃん。私の服、とっても似合ってるわ!その服、きらきらしててかわいいって、前の町で衝動買いしたんだけれど、ちょっと私に似合わなくて。なんというか、…持て余していたのよね!ニアちゃん、華奢で凛々しい顔立ちしてるから、似合うわね!」
たしかに、ゴシックというか、死者の日の女神カトリーナの喪服みたいだなとは感じていた。別に、童顔風の顔立ちをしているエレナが着ても違和感はないと思うが。
「そ、そうか。ありがとう。別にエレナにも似合わないってことはないとはおもうぜ。ま、俺にはちょっと大きいところもあるかな。」
礼を欠いたがために殺されることもある。礼儀も生き残る術の一つだ。俺は、ブリトー屋にお礼をしなかったがために.44マグナムで頭をサルサにされた奴だっている。
「そう!じゃあ、次の町で仕立て屋さんに行ってなおしましょう。一緒にお買い物ってのもいいわね。さっき倒した奴らの賞金、合計するとけっこうな額なはずだから、豪遊できるはずよ!」
どうも、このねーちゃんに気に入られたようでなによりだ。右も左もわからない場所では、友好的な奴は多いほうがいい。
「ほら、そんなことを言っていたら、町が見えてきたわ!あれがデクスターの町よ!」
さて、まずは最初の町だ。博物館でみるような、古そうなレンガ造りの建物が並んでいる。ベニート・フアレスが活躍してた頃のころの歴史の再現ドラマでよく見るようなレトロ感だ。そこまで活気づいてはなさそうだが、人影はまばらにはある。おっと、町の入り口の柵に死体が吊るされてやがる。この世界でもアウトローの命なんてそんなもんってこったな。アウトローぶって鍛冶屋や雑貨屋の嫁を誘惑して手を出したせいで、袋叩きにあってカタ玉潰されてガソリンスタンドに吊るされて泣いてたカルロスを思い出すぜ。まあ、なんにせよ、やりすぎはよくねぇ。それに女を泣かしたやつは死ぬ。これだけは忘れちゃならねぇ。まあ、今じゃ俺がかわいい子ちゃんだったな。尤も泣かされるつもりもサラサラ無いが。
「ニアちゃん、まず、私はギルドで懸賞金を清算して、ギルド宿舎に空きがないか交渉してくるからこのあたりで待っててね。変な人に声をかけられても、ついていっちゃだめよ!ま、ニアちゃんなら襲い掛かられても、大丈夫か。」
エレナは、さっき回収したバンダナや貴金属を持って、「Gremio de Mercenario(傭兵ギルド)」と威圧的な文字が踊る看板の建物に消えた。傭兵ギルドという名前のとおり、昔の銀行や金持ちの邸宅といった風情のがっしりとした建物だ。少したわんだ窓ガラスが夕陽を反射して、揺れているような錯覚に陥る。たしか、ガキのころ見た教科書に、昔の庶民の建物にはガラス窓は無かったと書いてあったから、傭兵ギルドとやらは金持ちの組織なのかもしれない。それに、目つきが悪くてガタイの良い奴らが門を警備している。カウボーイみたいな恰好しているのにも関わらず、誰一人ガンホルダーを装備していないので、時代劇ショーの成りきりのように見えてしまう。
さて、俺はどうするかな。建物の壁に地図と街の案内図がかけられている。えーっと、ここはシウダー・ド・デクスター(デクスターの街)、デクスター鉱山と林業の街。なるほど。炭鉱で成り立っている地方都市ってところか。たしか、中南米の鉱山都市では、欧米や都市部のでっかい会社が儲けを殆どもっていっちまって、地元にうまみが残らないって話を聞くな。この町も、見た限りそこまで活気があるわけでもないところ、そういった世知辛い事情があるのかもしれないなどと、余計なことを考えていると、建物の中からエレナの大声がするじゃねえか。
「ちょっと、お金が出せないってどういうこと?」
おっと、ひと悶着あったみてえだ。コワいコワい用心棒様の目を掻い潜り、こっそりと中に入るとしよう。潜入芸には多少、心得がある。
「おい、どうしたエレナ。」
「ごめん、ニアちゃん!心配させちゃったね!それがね、ここのギルド支所長がね、懸賞金を出さないっていうのよ」
「そ、そうじゃない、今、現金が出せないだけなんだ。」
エレナは、支所長と呼ばれたおっさんに、今にも斬り殺しそうな剣幕で詰め寄っている。やれやれ、殺るのはアウトローだけにしておけよ、後々やっかいなことになっちまうぞ。
「まぁまぁ落ち着きなって。どうしてそうなっちまったんだ?オレにもわかるように説明してくれないかい?」
思わず、首を突っ込んでしまったが、今度は俺に火の粉が飛んできてしまった。
「なんだ、このお嬢さんは!?ここは傭兵ギルドだ。子供の来るところじゃないぞ。ヴィジランテさん、もしやあんたの娘か?」
「バカいわないでよ!私、こんな大きい子供がいるような年に見えるの?」
ああ、火に油を注いじまったか。このおっさんも、メキシコでは生き残れないタイプだな。ねーちゃんには、年齢に直結するような話はしちゃいけねぇのさ。後ろから撃たれても文句言えねぇぜ。とはいえ、ここでエレナがおっさんを殺しちまったら俺までお尋ね者になりかねない。
「オレが誰の子供だろうとどうだっていい。まずは、なんであんたがエレナにすごまれているのか、その理由を教えてくれないか。そして、エレナも落ち着いてくれ。」
おっさんは渋々、経緯を話し始めた。
「さっきから、ヴィジランテさんにも言っているんだがな、出し渋って懸賞金を出さないっていってるわけじゃないんだ。そもそもこの支部にまとまった現金がなくてな。帝国ペセタも連邦ペソも無いんだよ。」
なんだそりゃ妙だな。賞金首を倒したってのに、賞金が支払えない?支払い能力も無いのに依頼を出したってなら、そりゃ詐欺だ。詐欺師は砂漠のサボテンに括り付けられて射撃練習の的にされるのが関の山だ。
「つまり、報酬は出せないってことか?」
「いや、報酬が出ないわけじゃない。というか、ヴィジランテさんの共通預金口座になら振り込めるし、ギルド共通手形でならいくらでも支払える。つまり、『現金』では支弁できないってだけなんだ。経緯を話すとな、近頃この辺りで、魔石を使って襲撃を繰り返す強盗団が現れてな。町の門柵のとこに、吊るされてた奴を見ただろ?あれの仲間がわんさかこの一帯を荒らしているんだ。」
成程、それで街に活気がなかったわけか。さしずめ、見せしめに吊るしたはいいが、効果がなかったか、奴らを逆上させたかってとこだな。
「このあたりは鉱山が多いだろ。鉱山も酷い荒らしようだったんで、鉱山防衛のためにギルドメンバーだけじゃなくて、ギルド非所属の腕っぷしにも声をかけていたんだ。そいつらの雇用費用が嵩んじまって、一時的に金庫の現金がカラになっちまったってワケさ。」
「一時的ってことは、補填される見込みはあるのか?」
「そのはずだったんだ。昨日、本部から現金を補填してもらうため現金輸送馬車が来るはずだったんだが、いつまでたっても来やしねぇ。もしやと思って探しに行ったら、本部の傭兵たちの死体と空っぽの馬車をみつけたってわけよ。」
「そいつはその、魔石を使う盗賊団とやらの仕業か?」
「ああ、もちろんそうだ。」
なるほど、読めてきたぜ。つまりその魔石の盗賊団をとっちめればすべて解決するわけだ。しかし、気になるのはエレナが引き下がらなかった理由だ。
「ちょっと待てよ、現金は出せないが、共通手形は出せるんだよな?なんでエレナはおっさんと揉めてたんだ?」
「何を言っているの、ニアちゃん。ギルドに所属してない人に共通手形は出せないじゃない。バンダナの奴らはニアちゃんとやっつけたんだから、ギルドに所属していないニアちゃんにも平等に報酬を分けようとしたら、現金でもらうしかないじゃない。」
ああ、なるほど、エレナは俺に気を使いって暴走しかけていたというわけか。ならば、致し方ない。俺の問題だっていうならば、俺も解決策を出さねばなるまい。
「つまり、オレもギルドに登録すれば、共通手形で報酬を清算してもらえるってことだよな?それならエレナもオレに気を遣ってゴネる必要はないだろ?取り分はエレナの言い値でいいぜ。」
当ても身寄りもないよりも、組織に所属しておいたほうが、情報も集まるだろうし、行動しやすくなるかもしれない。せっかくの機会だ。
「たしかにそうね!むしろニアちゃんに入っておいてもらえると、私も仕事がしやすくなるわ!50/50でいいかしら?」
「え?あ、ああ。」
「まあ、たしかにこの子も登録すれば、現金が無くても清算は可能だが、こんな女の子には危険すぎる仕事ですぜ、ヴィジランテさん。それに、あんたほどの人が、こんな良くわからん子供と報酬を折半だなんて正気ですか?」
登録自体はできそうで一安心だ。だがまあ、普通の人間なら、こんな得体のしれないガキにみすみす自分の手柄の半分をやるなんてやつは居ないよな。エレナが普通の人間じゃないってことだ。俺にとってはありがたいことだが。
「危険すぎるなんてことはないわ。私だってこの仕事してるわけですし。それにニアちゃん、こう見えて無詠唱高速魔法<ラピタマギア>の使い手なのよ!」
「ラピタマギアだって?たまげたな、一体、どこの生まれなんだ。じゃあ、デクスターに来たのも、魔石を求めてかい?」
「ん?いや、べつに?」
「ニアちゃんほどの魔力の持ち主なら、魔石なんていらないと思うけれど…」
「とにかく、加入には保証人と保証金、それにギルドに認められるだけの功績が必要だ。」
成程、みかじめ料と保証人、そして貢献できるか否か、か。そりゃそうだ。ただで入れるほど甘くはない。俺は身寄りもなく、そもそも一文無しで、売れるものはデザートイーグルとハッパしかない。尤もこいつらを売ってしまったら俺はそこでおしまいなわけだが。さて、どうしたものか。
「もちろん私、エレナ・ヴィジランテが保証人になるわ。保証金なら、ギルドに預けてある私名義の帝国ペセタから必要な分引いておいて。保証人なんてなったことないから、いくらかかるか知らないけれど、足りないなんてことはないはずだわ。ここがペセタが通用しない田舎だってなら別だけど?」
「恩に着る。が、オレには今渡せる対価はないぞ?」
「大丈夫、私と一緒に仕事してもらうための先行投資みたいなものよ。ちゃんと回収させてもらうから。」
ハハハ、一瞬、なんてお人よしなんだと思っちまったが、こいつは怖い。タダより高いもんはねェからな・・・。
「まあ、いい。手続きの形式はそろった。あとはこの書面にサインをしてくれ。まずは見習い契約だ。仮口座にバンダナの報酬の半分を登録しておく。残り半分はヴィジランテさんの口座でいいな?」
エレナが頷きながら尋ねる。
「いくらか共通手形を発行してもらって買い物でもと思ったけれど、さっきの話だと、そういうことできるような街の状況じゃなさそうだし、そうね。全額口座で良いわ。」
「まあ、店やってるやつらも、武器もって警備に駆り出されてたりするからなぁ。」
俺は書面にアントニア・マルヴェルデと署名するが、一文字違うだけなのに、どうにもなれないもんだ。それにしても、この世界の言語がスペイン語で良かったぜ。所々古い単位や言葉を使ってるのが気になるが。えっと、ジョブ?ジョブか。さっきのエレナの話からすると、とりあえず魔法使いを選べばいいのか?俺が書き終えて羽ペンを置くと、続いて、エレナが、懐から年季の入った万年筆を取り出して、保証人欄にサインをする。エレナ、こう見えて、けっこう金持ってそうだな。おっさんが、書類を確認すると、俺にすかさず紙片らしきものを渡してきた。
「これは仮会員証だ。ギルド関連施設で買い物するなら、こいつを見せな。術式でコーティングしてあるから、店にある魔石に翳せば、買った分だけ自分のギルド口座から引かれる仕組みだ。あんまり高価なもの買おうとすると、仮会員証だと断られちまうかもしれないが、飲食物なら大抵大丈夫だ。そんで、ギルドからの依頼を規定以上こなしたら晴れて正式加入ってことだが、そんときは正会員のギルドタグと交換にしてやる。たまに仮会員証がボロボロになっても正会員になれない奴がいるが、その時は才能が無いと諦めるんだな。」
「そのことで提案なんだけど、魔石の盗賊団と頭目の討伐って依頼はギルドから出せないかしら。私とニアちゃんでそれをこなしたら、ニアちゃんの正式加入を認めてくれない?」
「まあ、オレは望むところだが。おっさん、どうだ?」
少し考えてやがるな、おっさん。まあ、どこの馬の骨ともとれない小娘に対しては順当な反応だ。でも、こういうナマモノなやりとりは、その場の勢いで乗っかっちまってもバチはあたらねぇってもんさ。
「初心者の初仕事としてはレベルが高すぎるが、まあヴィジランテさんが一緒なら大丈夫だろう。わかった。ギルドの依頼として認めよう。そして、アントニアのお嬢ちゃんの正式加入と、取り返してくれた金額の5%が二人合わせた報酬だ。すぐ手配書を作成するから待っててくれ。」
あっさりと認めちまった。それだけエレナが信頼されているということか?
「20%よ。私10%、ニアちゃん10%で20%」
「そりゃないよ。むむむ、3%/3%で6%…」
「誰かが取りかえさなかったら、1センターボも帰ってこないわけだけれど、こんなことできる人いるの?5%/5%で10%はどうかしら。」
「・・・わかった。それで頼む。今回はそれこそヴィジランテさんくらいでないと解決できなさそうだしな。それにしても、ヴィジランテさん程の手練れが、正体のよくわからん子供に入れ込むなんて一体どうしたんだい?」
「私にはわかるの。ニアちゃんは、最高の賞金稼ぎになるって。」
エレナのその自信と俺への期待がどこからくるのか、俺自身にはよくわからないが、期待されるってのは悪い気分じゃねぇ。結局、俺にはデザートイーグルしかねぇから、こうやって悪人を倒して地道に金を稼いでりゃフ〇ッキンジーザスが俺に課した「禊」もそのうち終わるんじゃねえか?つまり、エレナと一緒にアウトローをぶっ殺していけば、いつのまにかジーザスの宿題も返せて晴れるって寸法よ。
「そうと決まれば、倒しに行くわよニアちゃん!まずは、その魔石の盗賊団ってやつらの情報を集めましょう。支所長さん、いままでギルドが把握してる情報をくれる?」
「ああ、スクラップブックがあっちの棚にまとめてあるから、自由に見てくれ。」
「あと、上の部屋は空いてる?」
「鉱山の防衛で人を呼んでるから、だいぶ埋まっちまってるが、デカいベッドがあるゲストルームが1つだけ空いてたはずだ。現金がなくて迷惑かけたからな、好きに使ってくれ。とりあえず鍵をわたしてしておく。」
上の部屋とは?ああ、なるほど、この傭兵ギルドの建物けっこうでかいと思ったが、2階部分に寝泊まりできる宿屋みたいになってんのか。それにこの支部、よくよく見ると、敷地の中に酒場や武器屋なんかも併設されているようだ。さながら軍事基地みたいだ。おそらく賞金稼ぎたちの情報交換の場なのだろう。
「もちろん、食事代や酒代は・・・」
「致し方ない。全品半額で良いが、口座からきっちり引くからな」
「そうこなくっちゃ!!」
エレナは、どうもこういうところがちゃっかりしているようだ。それに、反応から見るに、エレナはギルドからもかなり頼られているようだ。おそらく『傭兵』が天職なんだろう。
「とりあえず、私は荷物をゲストルームに置いてくるから、ニアちゃんは向かいの酒場でご飯でも食べてまってて。」
一体エレナが背負っているバックパックの中には何が入っているのだろうか。今俺が着ている服もあの中から出てきたんだ。それこそ魔法か何かで時空が歪んでいて、家のタンスが丸々一つ入っているのかもしれない。そんな不思議な荷物を背負いなおし、エレナはギルドのエントランスを抜けて階段を昇って行った。
さて、俺は酒場に向かって、もう一度頭を冷やして、これからのことを考えるとしよう。頭を回転させるのに必要なのはハッパと、燃料・・・そう。酒だ。
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