異世界メキシカン ー転生アウトローは魔法と無法の世界でメキシコの夢を見るのかー
アダチガハラ
第1シーズン 転生アウトローは魔法と無法の世界でメキシコの夢を見るのか
第1章 キャンディ・オア・ヘル
第1話 人殺しの気持ち
ここは荒野、熱帯のメキシコ。俺の名はアントニオ。アントニオ・マルヴェルデ。昼間は農家、夜はデザートイーグルを相棒にする、ハッパを愛するただのチンピラだ。クズ野郎を始末するだけの簡単な仕事を終えた明け方、撃ち殺されたウォンバットみたいにベッドに倒れこんで、薄汚い部屋で目を覚ましたらもう昼間だ。きれかかった電球は、瞬くたびに俺をいらつかせやがるし、ギラついた太陽は、サボテンすら逃げ出すような視線を向けて、俺のサトウキビ畑を焦がしている。フ〇ッキン、畑に汚ぇバラバラ死体が打ち捨てられていやがるぜ。やれやれ、俺の畑はゴミ捨て場でも葬儀場でもないんだが。サトウキビは上に高く育ち、鬱蒼と生い茂るおかげで、死体の隠し場所としては最適だ。だからたまにこうやって人んちの畑に死体を捨てていくバカがいる。もしくは俺に対する嫌がらせかもしれねぇ。なんせ、夜の仕事のせいでだいぶ恨みを買っちまってるからな。まあ、どちらにせよこの辺りではよくある話だ。騒ぐほどの話じゃあない。
とはいえ、いくら細かいことを気にしねぇ俺といえども、このまま死体を放置するとサトウキビの生育に悪い影響を及ぼす。適当に片づけて近所の採石場にでも放り投げて、コンドルの餌付けにでも使うか。夜は能動的に死体を片付け、昼は受動的に死体を片付ける。一日中死体を片付ける。メキシコじゃ日常茶飯事だ。そういえば、自宅の庭に死体が転がってるってポリ公に届けた隣町の正直者ハビエルは、殺人罪のあらぬ疑いがかけられて警察に追われておっ死んじまったとさ。さて、俺も、サツに嗅ぎ付かれる前に早いところ肉片を片付けて一服と行くか。肥料用のバケツに指輪がついたままの左腕を放りなげたら、休憩だ。ガンベルトからハッパを取り出して火を付ければ、待っているのはフ〇ッキンユートピアさ。
おや?見かけない黒塗りのキャディラックが止まってやがるな。ノッポ、デブ、若いの。ゆかいな3人のギャングガイが仲良く肩を並べて降りてきやがった。おいおい、こいつは穏やかじゃないぜ。全員銃をもってやがる。まあ、狙われている自覚はあるからな、そこは抜かりなく、すぐにガンベルトに手を伸ばせるようにしておく。
「ヘイ、ガイズ!ここは俺の畑だゼ。この死体みてぇにサトウキビの肥料になりたくなァけりゃ、フ〇ッキンゴーホームしてママにシャブってもらいな。」
「貴様が、掃除屋(バスレロ)のアントニオだな?」
「いかにも、そいつぁ俺のことだが、まずはそっちから名のるのが礼儀だァぜ?ブラザー。ママと一緒じゃなきゃご挨拶もできねェのか?」
「プローディゴ・ファミリーと聞いたらわかるな?」
「さぁてナ。弱小クランの名前なんざ、いちいち覚えちゃいねェのさ。」
「や、ヤロォ!」
俺の煽りに逆上したのか、一番若そうなニーチャンがマシンガンを構える。一般市民がマフィアの抗争に巻き込まれておっ死んじまうことはよくあることだが、逆に市民から反撃されて風穴あいちまうってのも無くはない。まあ、俺は一般市民ではないし、幸いここにはデザートイーグルがある。ここは後者のシナリオってわけだ。
BANG
静寂を貫くのはいつだって俺の銃声だ。デザートイーグルが吐き出す.44マグナムは、堅実に敵の頭と眠気を吹き飛ばしてくれる。まずは一人、一番血気盛んな若い奴だ。
「くそ!G.G.がやられた!構わねえ、殺しちまえ!」
BRTTTTTTTTT
いくらマシンガンとはいえ、相手の目も見ねぇで出鱈目に撃つなんざ、やっぱり俺が覚えとく価値もねぇ奴らだってことだ。ノッポが俺に向かって乱射するが、かすりもしねぇ。ほどほどにしといてくれよ。家の壁が穴だらけになっちまったら誰に修理代を請求すりゃいいんだ?お前らの遺族にか?
BANG
2人目。せっかくのノッポも、脳みそを吹き飛ばされちゃただのカカシだ。おっと、最後のデブ野郎、車に逃げやがった。ギャリギャリ嫌な音を立てて急発進するキャディラックは75年式のセビルで、ところどころ塗装がハゲてるがそこそこ綺麗な状態だ。そんな車を台無しにしてしまうのは少し心苦しくはあるが、俺は躊躇わずに窓ガラス越しに運転席に狙いをすませる。
BANG
射撃の腕には自信がある。まあ、夜のほうの仕事は、これで飯食ってるんだから当たり前っちゃ当たり前なのだが。主を失ったキャディラックは、糸の切れたカイトのように。対向車線の電柱にぶつかって止まり、炎上した。はあ、ハッパキメ直して、増えちまった死体を片付けるとするか。それにしても、うるせえクラクションだなあ。
ふと、車道のほうを振り返ると俺は、炎上キャディラックを寸でのところで回避しこちらに突っ込んでくるタンクローリーの運転手と目があった。フ〇ッキンジーザス。
・・・・・
あれ、俺はどうなっちまったんだ?ああ、なるほど、そういうことか。どんな凄腕のガンマンだって、タンクローリーに突っ込まれて無事なやつなんていない。なにせおれは、ダニー・トレホでもチャック・ノリスでもない。ジーザス、なんてこった、つまり、俺は・・・
“アントニオよ、アントニオよ。敬虔なる神のしもべ・・とも言えないが、善良ではないとは言い切れない程度のアントニオよ。聞こえるか。残念ながら、お前は死んだのだ。”
どこかから声が聞こえやがる。おい、お前、フ〇ッキンジーザスだな。バカをいうんじゃねえ。あんなふざけた死にざまがあるか。最後に見た景色は何だと思う?トラック会社のエンブレムのどアップだぞ。いずれ、ここメキシコで死ぬとは覚悟していたが、最後に読む文字がスウェーデン語だとは思わなかったぜ。
“うむ、なんとも不甲斐ない死にざまであったな。“
言ってくれるぜジーザス。死んでも死にきれねえ最期じゃあねェか。いままで何人も手にかけてきたが、まさか俺自身がこんなふうに終わるたぁ思っちゃァいなかった。
“ところで、お前は、命への執着はあるか。
この業界じゃ、死にたくないって思う奴だけが生き残るのさ。できることなら、もう少しハッパ吸ってデザートイーグルぶっぱなしていたかったなァ
“そうか。それなら、もう一度生きてみるか?ただし、ただ復活させるわけではないが”
つまりジーザス、あんたはこう言いたいんだな。あんたの条件を飲んだら、墓から這い上がったあんたみたいに、生き返らせてくれるっーことだなッ!?
“いや、そうではない。『転生』し、今まで犯した『罪』を悔い改め、アントニオ・マルヴェルデとして、生きながらえるための素養があるか示すのだ。”
ん?なんだって?転生?どういうことだ。そんなことガキのころ習った聖書にはかいてなかったぞ?
“アントニオ・マルヴェルデではなく、別の人間として生き、そこでアントニオ・マルヴェルデとして生き返るにふさわしいかどうか見極めさせてもらう。『罪』を悔い改めることができれば、そのときお前は、メキシコでの生活を取り戻すことができるだろう”
聞いてねえぞ?俺じゃなくなったら、じゃあそいつは誰なんだ?それに、デザートイーグルとハッパがねぇ生活なんだったら俺は御免だぜ?
“成程、それがお前をお前たらしめるアイデンティティというわけだな。であれば、転生先でも、それだけは『不自由なく使える』ような用意をしよう”
『それだけ』ってどういうことだよ…じゃあ、デザートイーグルとハッパ以外はどうだっていうんだ?
“では期待して待っているぞ。良い旅を!”
おい、ちょっとまて、おい!
・・・・・
あれ?サトウキビ畑でフ〇ッキンガイズに襲われて、そしてタンクローリーに・・・それにジーザス?くそ、頭がいてえ。それに、どこだここは、俺の家に戻ったのか?いや、違うな、見たことない部屋だ。俺の部屋にしては明るいし、それに俺の部屋よりボロい。そういえば、別の人間に『転生』とか言っていたな。つまりこの体は俺じゃないってことか。
おっと、腰のガンベルトの中には…俺のデザートイーグルだ!ハッパもライターもあるぞ!そしてなにより、体が軽い。だが、しかし、服はヨレヨレなボロ服じゃねえか。上等なアルマーニの一張羅でも用意してくれたっていいのに、本当に『デザートイーグルとハッパ』以外は何もなしか。ケチなジーザスめ。
「目を覚ました?よかった。倒れていたところを勝手に連れて来ちゃった、ごめんね。」
誰だ、この無防備な恰好のねーちゃんは。俺はこのねーちゃんに助けられたのか?こんな華奢なねーちゃんに俺が?それにしても酔狂なねーちゃんだぜ。俺みたいな男を拾うなんて。もし悪人だったらどうするんだ。尤も悪人であることに間違いはねぇが。いや、待て、今の体は「俺」じゃねえ。人相だけは良いナイスガイの見た目なの かもしれないな。だが、メキシコじゃ、よく言うじゃねェか「助けた乞食に殺される。」ってな。たとえ人相が良いナイスガイだとしても、中身はサイコパスかもしれねぇ。こんな不用意に人助けをするなんて考えられねぇ。まさか、ここはメキシコじゃないっていうのかジーザス。
「お名前はなんていうのかしら、お嬢さん。」
ん?今なんて?俺はアントニオ、掃除屋とも恐れられる殺し屋のガンマンで、町の野郎どもは俺を見かけただけで逃げ出すような大の男のはずだ。たとえ姿かたちは変わろうと、その威圧感は、顔からにじみ出ているはずだが…お嬢さん?え?
「え、お、おれは・・・おい、これは誰だ・・・?」
ふと、壁に掛けられた鏡を見る。誰だこの薄幸そうな銀髪の少女は。俺?この少女が?まだ14、5やそこらの処女娘みたいなのが?馬鹿をいえ。フ〇ッキンジーザス。たしかに「別人として」とは言ったが、お前、一体なにをしでかしてくれたんだ。
「やっぱり、頭を打っていたのかな?無理して思い出さなくていいからね。私の荷物の中に着替えがあるから、ちょっと大きいかもだけど、着てね。そんなにぼろぼろの服だと気持ち悪いでしょ。」
くそ、なんだっていうんだ。別人というのは、こんな少女の体だというのか?これじゃ、ただのいいとこのお嬢ちゃんか何かじゃねえかフ〇ッキンジーザス。俺がデザートイーグルを強請ったから差し引きでこんな羞恥を?
「あー、オレは・・・、ア・・・アント・・・」
いや、まて、こいつが、ジーザスから俺に与えられた試練だとしたらどうだ。本名を名乗った瞬間に殺しにくる可能性もあるのではないか。ここは、哀れな記憶喪失の少女のフリをして様子を見るとしよう。そうだな、アントニオ…アントニー…アント…
「オレは、アントニアだ。世話になったみてえだな。」
何も隠せてねぇじゃねえか!俺はアホか?いやでも、特段襲い掛かってくる様子はない。
「アントニアちゃんね!ニアちゃんって呼んでいいかしら!私は、エレナよ。旅の途中・・だったんだけど、あなたが倒れてたのを見かけて、ついこの廃小屋に連れてきちゃったの。町まではまだだいぶあるから、とりあえずここで休ませようと思って。」
なんだ、このねーちゃん、ただのいいやつか?それとも美人局か?いや、今の俺は少女姿だからそれはないか。じゃあまさか、人買いか?人身売買シンジケートに売られる子供の気持ちが、今になってちょっとわかったぜ。あいつらには悪いことをした。
「あんたは一人で旅行なのか?」
「そうよ。私一人よ。あと、エレナって呼んでね。それにしてもどこから来たの?」
「フアレス・・・だ。」
「フアレス?聞いたことない街ね。」
どうやら、ここはメキシコではないようだ。なんせ女一人で旅行できるような、治安がいい国なんだから。それだけでも僥倖だ。少女になって、いきなりフ〇ックアンドスラッシュなんてことになったらフ〇ッキンジーザスを呪うところだったぜ。それに、メキシコではないなら、アントニオ・マルヴェルデの悪名は届いていないはずだ。それもまたありがたいぜ。
「このあたりは、その、治安がいいんだな。」
「え…このあたりのこと知らないの?どこから来たの?」
「どこから来たかは、なんだ、その、はっきりとは覚えてないんだ。」
いきなりメキシコから来たなんていう奴はただのお調子者だ。この小屋の調度品も、今のメキシコじゃまず見かけないような古臭いデザイン家具だし、気候もメキシコじゃなさそうだしな。アルゼンチンかチリか、もしかしたらフィリピンかもしれねぇ。いや、治安がいいならスペインという線もあるな。ヨーロッパの国ならメキシコより治安はマシなはずだ。とりあえずは、一時的な記憶障害に陥ったことにでもしておこう。見知らぬ土地で生き残るための知恵だ。
「だ、大丈夫よ!きっと、頭を打って倒れてたのね。きっと思い出して、帰る場所も見つかるわ!かわいそうに、仲間とはぐれてしまったのかしら。」
まあ、帰るところっていっても、メキシコに戻ったところでこの姿じゃどうしようもねえし、もとの姿に戻るには、フ〇ッキンクレイジージーザスのいう『罪』とやらを消化しなきゃならねぇし。まあ、何をすればいいんだか、見当もつかないが。
「うーん、ま、記憶を取り戻すまで・・エレナと同行させてもらっていいか?右も左もわからないんだ。」
こいつに付いていって、とりあえずデカい町にいきゃ、ここがどこなのか、なにをすりゃジーザスが満足してもとに戻れるのか、何か手掛かりでもあるだろ。
「あら!うれしい!じゃあ、まず町に出なきゃね!と、その前にお着換えしないと。」
へへ、ねーちゃんに嬉しがられるのも悪くねえな。ここに、タコスとテキーラがあればもっと最高だったが、あんまり贅沢いうと、フ〇ッキンジーザスにドヤされちまうかもな。
されるがままにねーちゃんに汚れを拭きとられ、ねーちゃんが荷物から取り出した着替えを着せられていく。フアレスの売春宿でもここまでのサービスは無いぜ。もちろんガンベルトはこっそり隠す。
それにしても、ねーちゃんの服はでかいな、まあ、主に胸が。ジーザスのやつ、どうして俺をこんなぺったんこにしやがった。もう少しこう、手心があってもよかったじゃねえか。俺がハッパも要求しちまったから、そこも差し引きってことか。
「あ、ニアちゃん。あと、さっき言い忘れたけれど、このあたりは、めっちゃくちゃ治安が悪いの!たぶん、ニアちゃんも悪いやつに襲われて記憶を失ったんだわ。殺されてなくて本当に良かった!」
今、この女なんて?うお、なんだ、煙たいぞ・・・っておい、小屋が燃えてるじゃねえか!
「ごめんね、巻き込んじゃったみたい。実は私、命狙われてて、ここにいることがバレちゃったみたい!」
は?なんだって?女を小屋ごと焼き殺すだァ!?なんだここ、やはりメキシコなのか!?わかったぞ、ここはアフリカか中東だ!きっとどこかの紛争地帯か何かだ。いや、そんなことより、とりあえず外に出ないといけねぇ。さっき枕の下に隠したガンベルトをひっつかんで、慣れない女の服に巻き付ける。
「とりあえず、出るぞ。」
くっそ、蒸し焼きローストターキーにされるなんて、タンクローリーに轢かれるより悲しいぞ。うわなんだ、なんか飛んできたぞ。矢だと?なんだか明らかにアウトロー極まったような奴らが弓をつがえてやがる。それになんだ、槍?剣?クロスボウを持ってるやつもいるぜ?おいおいどうしちまった、しかもまるで独立革命か米墨戦争の時代の衣装みたいなもん着てるじゃねえか?地球上にまだこんな奴らが残っていたってのか?
「あの人たち、私を狙ってくる悪党なの。逃げるわよ!」
ほう、悪党って聞いちゃだまっていられねえぜ。本当の悪党ってのがどういうものか嫌でも見せてやりたくなる。あ、待てよ、もしや、悪党を殺していくことが罪の償いってことなんじゃないか?わかったぜ、ジーザス。せっかくジーザスから託されたデザートイーグルだ。このモンティパイソンみたいなやつらにジーザスの鉄槌を味わってもらうぜ!
BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!
おっと、夢中になりすぎて撃ちすぎちまった。どうすんだ、弾なんてねぇぞ!くそ、ジーザスにカートリッジも用意させとくべきだった。ん、ガンベルトのポケットに何かが…おお、ジーザス!あんたってやつは本当にジーザス!マガジンと弾があるじゃねえか!さっきは無かったはずだが、これはマグナム弾がポケットの中から無限にわいてくるってことじゃないか?「不自由なく使える」ってこういうことか。クール・ジーザス!じゃ、ご遠慮なく。
BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!BANG!
フー!ここでハッパキメれば完璧だな。メチャクチャクールでハイってやつだぜ。10人は殺ったか?いや、まだ2、3人隠れてやがるな?とりあえずリロードしておくか。
「よお、まだ隠れてるんだろ?」
「ひ、ひえぇえ!魔法か?!このガキ、無詠唱で魔法を使いやがった!お、おい女、こんな魔術使いのガキ雇いやがったのか!?こ、降参だ!残りは俺たち3人だけだ。助けてくれ!ぶ、武器も捨てる。このとおりだ。見逃してくれ。」
「そ、そうよ!私が雇ったのよ。でも残念。あんたら全員皆殺しよ!」
お、おい、ねーちゃんの態度がおかしい。さっき逃げるって言ってなかったか?それになんだ?皆殺し?そいつはスマートじゃねえ。
「ニアちゃん!せっかくだから、あいつらもその魔法の杖でやっちゃっていいわ!」
魔法の杖だ?こいつら銃をしらねえのか?ますます古代文明か何かじゃねえか。俺はアステカに転生しちまったのか?
「エレナ。あいつら、降参だって言ってるぞ。」
降伏した奴をまで手を掛けたら、ジーザスから悪評価されるかもしれねぇし、ここは慎重に行きたいところだ。
「ニアちゃん。社会のゴミって知ってる?あいつらみたいなやつらのことをいうんだけれど。ああいうのはね、デッドオアダイ。殺せるときに殺しましょう。ギルドの依頼内容は『奴らの抹殺』だから。」
おいおい、ねーちゃん、治安の悪いことを言うなァ。
「ひ、ひえええええ!」
「じゃああ、死んで。」
うわ、ねーちゃん、よく見たら長剣なんてもってやがったのか。剣なんて、前にジャパニーズヤクザとやりあった程度の知識しかないが、俺にもわかる。あのねーちゃんは只者じゃないってことが。まず、逃げる男を背後から躊躇なく切り裂けるのは並みの覚悟じゃできねえ。それに丸腰のやつを引き倒して首を落とすなんてこと正気じゃあ無理だ。しまいに反撃のスキすら与えずにまるで肉牛でも捌くよう一気に腹をかっさばくなんてどんな訓練を積んだっていうんだ。ああ、これじゃテスカトリポカの祭壇だぜ。この世界、いや、この女、一体何者なんだジーザス、もしやこの女が悪人で、いや、何も考えまい。人殺しの気持ちなんて人殺しにしかわからない。そんなメキシコで生き残った俺の人殺しとしてのカンが、この女を敵に回すわけにはいかないと言っている。
「ごめんね、ニアちゃん。あいつら、実は賞金首になってるバンダナの盗賊団ってやつらなんだけれどね。この前、ボスを殺したら、子分どもに追っかけられちゃって。束になって襲ってくるから、めんどくさくなったから、逃げてたのよ。でもよかった!ニアちゃん、きっと特別な魔法が使えるんじゃないかなって思ってたけどその通りだったね!しかも無詠唱高速魔法<ラピタマギア>が使えるなんてすごい!」
魔法?ラピタマギア?なるほど、そういうことか。この世界は、拳銃がない代わりに魔法がある世界ってことか。つまり、メキシコどころか、さしずめ『異世界』ということになる。フ〇ッキンジーザス、銃しか取り柄の無い俺に、一体何をさせようというのか。
「改めて自己紹介するね。私エレナ・ヴィジランテ。見てのとおり、剣使い。傭兵ギルドに所属してる賞金稼ぎよ。ところで、ニアちゃん。そんなに強いなら、記憶がもどるまででいいから、私と組んで賞金稼がない?」
わかったぜ、ここは銃の無いメキシコだ。いや、メキシコ以上かもしれない。それにしても、どうせ俺に選択肢なんてねえんだジーザス。こいつと一緒に『罪』とやらを消化していくのが、俺に課せられた『罰』ってトコなんだろ?答えちゃくれねぇが、よくわかった。
「・・・あ、ああ。わかった。当分の間だけ、な…。」
さて、楽しい道中になりそうだぜ。果たして、俺は元の姿に戻れるのか、それともこの荒野でガキの姿で死ぬのか。どうやら、弾と一緒で、ハッパもガンベルトのポケットから無限にわいてくるらしい。細かいところで気が利くジーザスに複雑な感情をいだきながら、俺はハッパに火をともした。くすぶる煙が目に染みるぜ。
「じゃ、日が暮れる前に、先をいそぎましょ!とりあえず、死体からバンダナと売り払えそうな金目のものを回収してくるわね。そうそう、このバンダナ、ギルドに提出する討伐の証拠品なの。そのほか、なんかめぼしいエモノがあったらニアちゃんにも分けてあげるわね。」
荒野に吹く風は、決して人を慰めはしない。俺は混乱する頭を必死に整理しながら、エレナの後をついていくしかなかった。
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