1.刑事裁判の判決文のフォーマット

 皆さんがWEB等で目にすることができる判決文は、固有名詞が「A・B・C」などの伏字にされていたり、一部の項目が割愛されていたりと、一般公開用の編集が加えられた省略版です。しかし、その裁判のあらましを理解する上で必要な部分、つまり「読んで面白い」部分はしっかり残されているので、誰でも気軽に刑事裁判の世界を堪能することができます。


 なお、裁判には、その事件が初めて裁かれる「第一審だいいっしん」と、控訴こうそ上告じょうこくによって開かれる「上級審じょうきゅうしん」がありますが、初めての方が読んで面白いのは断然「第一審」の判決です。よって、以下の説明で述べるのは、全て第一審の判決に関する話です。




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 刑事裁判の判決文の構成は、大きく「主文しゅぶん」と「理由」の二つからなります。そして「理由」は、「罪となるべき事実」「法令の適用」「量刑の理由」の三点セットになっていることが多いです。


 この内、読み物として面白いのは、「罪となるべき事実」と「量刑の理由」の部分でしょう。


 「罪となるべき事実」には、被告人のどんな行動が刑法やその他の法律に触れるのか――つまり、被告人がどんな事件を起こしたのかが、淡々と書かれています。「被告人は**年*月*日*時頃、どこどこの場所で誰々所有の何々を窃取せっしゅした」とか、「こういう凶器・手段で誰々を殺害した」とかですね。


 ところで、(広義の)刑法には、人がどんな罪を犯したらどんな刑罰を受けるのかが定められているわけですが、そのほとんどは、「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する」というように、刑の種類や重さに幅を持たせる形で規定されています。

 「10年以下の懲役又は50万円以下の罰金」に値する罪を犯した人に、懲役と罰金のどちらを課すのか、懲役ならその刑期は何年にするのか、執行猶予を付けるのか付けないのか……などを判断するのが、裁判所(裁判官)の役目です。これを「量刑」といいます。

 そして、その判断は、犯行の状況や被害の大きさ、犯行の動機、被害者の感情、被告人の反省の有無、再犯の可能性などなど、様々な要素を勘案して行われます。


 判決文の「量刑の理由」の項目には、文字通り、裁判所(裁判官)が量刑を判断する理由となった様々な要素が、色々な言葉を尽くして書かれています。判決文の中で最も読み応えがあるのはこの部分でしょう。

 「被告人はこれこれこのような罪を犯したが、その背景にはこういう事情があって……」と、被告人に有利な事情(量刑を軽くする理由)が書かれている場合もあれば、「被告人がこれこれこういう罪を犯したのは、このような酷い動機に基づいており……」などと、被告人に不利な事情(量刑を重くする理由)が書かれている場合もあります。

 多くの場合、「被告人の犯行はこれこれこのように悪質なものであるが、一方で被告人は深く反省しており……」などと、被告人の罪責を厳しく非難してから少しだけ持ち上げる書き方をして、検察官の求刑よりも少し軽い刑を言い渡すのがお決まりのパターンですが、もちろん、本当に悪質な事件に関しては、「被告人の犯情は非常に悪質であり、酌量しゃくりょうの余地はない」などとガチで情け容赦ない書き方がなされる場合も少なくありません。読んでいて胸糞が悪くなるような事件の場合、ここで裁判官がメッタメタに被告人を断罪してくれるさまに溜飲を下げるも多いでしょう。

 このような、一見すると淡々としているような一連の記述の中から、事件の背景や当事者達の人生がまざまざとの脳裏に浮かび上がってくるのが、判決文というの魅力なのです。

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