「判決文」を読んでみよう!

板野かも

はじめに

主文しゅぶん被告人ひこくにん懲役ちょうえき10年に処する」――。


 映画やドラマなどで、裁判官が厳かな声で裁判の判決を言い渡すシーンを目にしたことがある方も多いでしょう。

 検索でこの記事に辿り着いた方の中には、実際に裁判の傍聴ぼうちょうに赴き、判決言い渡しの場面を目の当たりにしたことがある方もいるかもしれません。


 こうした裁判で作成される「判決文」に、どんなことがどのように書かれているか、皆さんは御存知でしょうか?


「法律系の文書というと堅苦しいイメージがあるので、裁判の判決文ともなれば、さぞ複雑難解な文体で難しい内容のことが書かれているのだろう」……と想像した、そこのあなた。

 残念ながら――いや、幸運なことに、その想像は大いに間違っています。

 判決文は、決して、堅苦しいものでも難しいものでもありません。小説が好きな人なら普通に読み解いて楽しめる形式の文章で、事件の経緯や当事者達の言動・生き様がありありと記載されている、秀逸な「読み物」――それが刑事裁判の判決文なのです。


 皆さんの中にある「法律系の文書は堅苦しいもの」というイメージは、法律の条文や、契約書のことを指しているのだと思います。

 しかし、判決文は、条文や契約書のように、抽象的な事柄を客観的な表現で記述したものとは異なります。判決文は、現実にあった出来事に関する、具体的かつ主観的な事実の記録です。「こういう事件があって、当事者はこんなことを述べていて、裁判所はそれをこう判断しましたよ」という内容の読み物なのです。

 もちろん、独特の形式や言い回しも多いので、小説や新聞記事と全く同じ感覚で読めるわけではありませんが、その独特の形式や言い回しの雰囲気さえ掴んでしまえば、判決文はたちまち娯楽の対象に変わります。淡々とした文章から臨場感をもって立ち上る生々しい事件の記録は、小説を読むのに勝るとも劣らない読書体験を皆さんに与えてくれることでしょう。


 現在、日本国内の地方裁判所では、年間30万件弱の刑事事件が処理されており、その一部の判決文は、誰でも見られる判例集という形でWEB上に公開されています。軽微な窃盗から凶悪な大量殺人に至るまで、多種多様な犯罪事案の記録があり、ひとたび足を踏み入れれば、そこには無限ともいえる「物語」の海が広がっています。

 次のページからは、そんな刑事事件の判決文の読み方・楽しみ方を皆さんに解説していきます。読み物として、勉強として、小説の題材取りとして、皆さんもぜひ判決文を活用してみてください。

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