パイちゃんの主張~物質の三態について~
~ここまでの登場人物~
私(アルファせんせー):小説家
ロー君:メンタルが小学校から卒業できてない高校生
ベータ博士:「だよぉ」って喋る物知り、博士ではない
シグマ社長:マッチョ
パイちゃん:ロー君の彼女、中学生
◇
「火っていうのが、元素と呼ぶのに相応しくないと思うんですよ。だって火っていうのはそういう風に見えているだけであって、世の中に物質として存在してはいないじゃないですか。さっきベータ博士が言ってた173個の中にも火って無いですよね?」
注目を集めてちょっと緊張したのか、パイちゃんがやや興奮ぎみに早口で喋る。その内容には少々、認識の齟齬があるようだ。それは中学校の理科の授業をしっかりと聞いていれば分かることなのだが、どうもパイちゃんは中途半端な理解のままであるらしい。
さてどうしたものか。その間違いをただ指摘するだけなら、ここに居る誰にでもできるだろう。しかしパイちゃんを傷つけずに、しかもその意図を汲みながら方向修正するには……。
「バッカだなあ、じゃあ風とか土の原子はあるのかよ。」
どう声をかけるかを考えて一呼吸した隙に、ロー君が割と最悪な形で口を出してきた。なにキミ、自分の彼女は雑に扱うタイプ?
「気体として存在するとか、固体で存在するとかあるでしょ!そういうベクトルが違うって言ってるの。」
まあまあ、まあまあ、と私とシグマ社長が二人を引き離す。若いせいか二人ともなかなか熱くなりやすい。比較的、熱血寄りであるシグマ社長も、やれやれといった表情で後ろからロー君の肩を押さえて椅子に座らせている。軽く押さえてるように見えるが、立ち上がることはおろか身じろぎすることも難しく、ロー君は議論どころではなくなっているようだ。
「ふむ、パイちゃんが言ってるのは物質の三態のことじゃな、よく勉強しておる。」
ここで登場したのがガンマ教授、近くにある大学で教鞭をとっているおじいちゃん教授だ。ちなみに「〇〇じゃよ」みたいな喋り方をしているが、それはキャラを作っているらしい。人格者でユーモアもある、私が尊敬する人の一人だ。
「確かに、土が固体、水が液体、風が気体と考えると、火はエネルギーであると解釈される。物質である他の3つとは一線を画すと言えるじゃろ。もちろんこれは古代の考え方で、時代が進めば同じものとして扱うようになっていくの。」
それに対してベータ博士が何かを言いかけるが、それはガンマ教授の目配で押し留められた。目配せっていうよりウインクだなこれ。
機を制されたベータ博士は仕方なく、「相対性理論……」とか「プラズマが……」とかブツブツ言いながら引き下がった。ごめんね、たぶん今その話するとすんごいややこしくなるから、我慢してね。
「しかし古代の人々も、それら物質ではないものの存在は知っておる。火や雷、光などじゃ。物質は固体、液体、気体の順に軽く、柔らかくなってゆく。ならば気体よりも更に軽く、柔らかいものを考え『火』という括りにしたんじゃろう。」
「なるほど、エネルギーですか……」
このあたり、ベータ博士のように専門的な知識を持った人たちならば更なる議論もありそうな感じだが、今回はパイちゃんが納得しているようなので良しとしよう。そして私はようやく解放されたロー君に話を向ける。
「さて、ロー君はもっとたくさんあっても良いと言っていたけど、どういう元素があると思っているのかな?」
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