ティーブレイクは興味深くあれ
Enju
勝負だ!アリストテレス!
ここは都内某所のコワーキングスペース、いろんな人がそれぞれ思い思いの仕事や勉強に勤しんでいる。
いろんな人がいるっちゃいるが、何かしら知り合いだったり顔見知りだったりで、皆それなりに気安い関係であったりもする。
今も、宿題に飽きた高校生のロー君が話し相手を捕まえようと、一息つこうと席を立った私に声をかけてきたところである。
「アルファせんせー、四大元素の話していいー?」
彼は小説家である私のことを先生と呼び、慕っている。慕ってるかな……たぶん慕ってる。なんか少し
そんなロー君は先程まで化学のレポートをやっていたようだが、そこから四大元素に気持ちが飛んでしまうとはレポートの完成までには中々に苦労がありそうである。私は了承の意を伝えると、コーヒーを淹れ直してから席に戻る。
私が戻るまでの数分の間に、ロー君が更に何人か周りの人を捕まえて、おしゃべりを始めていた。彼の社交性が高いのもあるが、ここの人たちは皆、面白そうな話には勝手に群がってくるし、他愛ない話でも面白くしてしまうような不思議な雰囲気がある。そんな人たちが集まるこの場所が、私は好きだ。
「そんで、四大元素の話だって?」
私もコーヒーを片手に話の輪に加わり、先程のワードを出してみる。四大元素といえば、古くはアリストテレスが提唱したと言われる地水火風の4つを指す。これは日々テレビゲームに勤しむロー君にも、ファンタジー小説を書く私にもなじみが深い。
「そうそう、基本属性が4つって少ないじゃん。もっと多くてもいいと思うんだよね。」
基本属性というのが既に良く分からないが、おそらくゲームか何かの話なのだろう。大抵ジャンケンのように強さに相性があり、戦略的要素となっているものだ。要素が増えれば戦略性も上がり、それだけ難易度が高くなる。ロー君は現状に物足りなさを感じているということか。でもそれで四大元素に文句を言うのもどうかと思う。
「ふむふむ。ここで言うところの元素っていうのは、世界が何で作られているかという話だよねえ。こういう考え方は古今東西、めちゃめちゃ色んな説があるよぉ。陰陽五行とか、3原理を組み合わせた8要素とか、その裏表も入れて16要素だとか。ちなみに僕は立場上173個あるって主張しておくよぉ。」
独特の喋り方で凄い数字を出してきたのはベータ博士だ、博士というのは単なる愛称だが、その呼び名に相応しくいつも様々な知識を披露してくれる。
「173ってずいぶん具体的な数字ですけど、何か根拠とかあるんですか?」
「僕が元素って言う時は、水素から始まる原子番号のついたものを指すよぉ。173個っていうのは理論上存在できる最大の元素の数だねぇ。」
「100個もあったらやべーって……ていうか、そんなに色々あるなら今更何か考えても意味無いじゃん、やめよっか。」
お勉強の気配を察してか、この話題からの撤退を試みるロー君。しかし、大柄でマッチョな男性のシグマ社長がその退路を塞ぐ!
「うむ!車輪の再発明それ自体に価値は無いが、自分なりの考えを持つことは大事だぞ!他の人が考えてるから自分は考えなくてもいいと思っていると、思考が成長しないからな!」
これは唯の雑談で、そんな大仰な話ではなかったのだが、シグマ社長は単にロー君が話にケリを付けずに終わらせるのを善しとしなかったのだろう。実際、自分から声をかけて始めた話を、投げっぱなしで終わらせてしまうのは少々失礼ではある。
「じゃあ、まあ、少ないっていうなら、どう増やせばいいか考えてみよっか?」
そう言う私の提案に、しかしきっぱり反論してきたのは、ロー君の彼女で中学生のパイちゃんだった。
「それなんですけど。私は4つでも多いんじゃないかって思うんですよね。」
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