第3話 「夏に鳴くセミ、職場で小さく鳴く自分」
「ミーンミンミンミンミンミンミ~・・・」
外ではセミの鳴き声が聞こえる。哀愁を思わせるような鳴き声がこだまする。
今年は6月の時点で既に30度台に入っていると知った時は、心の中で悲鳴を上げたもんだ。
「今日も暑い・・・」
この日は普通に力仕事がある。段ボールや小型のコンテナを運んだりする作業だ。この時点で、外に出るという行為すら嫌悪感が出てくる。
「さて、準備準備」
朝6時に目覚め、5分以内で着替えと出かける準備を済ませて、荷物が詰まったリュックを背負って自転車に乗って10数分かかる道を進んで、現地に到着。
「おはようございまーす・・・」
軽く既に作業している現地のメンバーに軽く挨拶。私服から制服に着替えて作業の開始だ。
仕事場に行くときには、別の棟に移動するために一回だけ外に出無ければならない。
またあの熱い領域に足を踏み込まなければならないのだ。
鉄製のウエスタンドアを開ける。熱帯雨林のような熱風が吐息のようにゆっくりと迫ってきて、波に飲み込まれるように上半身に被さってくる。
「あ~暑い・・・・・・」
俺は仕事をしている間は、必要最低限のこと以外は喋らないタイプだ。こういった感想をぼそぼそつぶやくくらいしかしない。おまけに汗っかきの体質なので、ほんの数分だけでも大量の汗を額から生成することはよくあることだ。
「ミーンミンミンミンミンミンミ~・・・」
外ではセミの鳴き声が聞こえる。悲鳴を思わせるような鳴き声がこだまする。
「暑い・・・あ~くそっ、マジで暑い」
俺も小さくつぶやく。虚しい嘆きが幽かに消えていく。
ここでふと感じたのは、自分もまるでセミみたいだなって思えてきたのだ。
特に同じ鳴き声のループと、単調且つ同じ感想を繰り返している俺の嘆きの声が。
セミの役目といえば、夏を思わせる演出を作り上げること。そして俺の役目は、ほかの部署の流れを円滑にするために、せっせと作業を進めていくこと。
この世界の中でもちっぽけで、だれも見向きなんてしないような何の変哲の無いような光景だが―――動いている限り―――兎に角何か行動を起こしている間は、生きているという実感を得続けていく。
蝉の寿命が尽きるまで。自分自身が仕事を辞めてプー太郎にならない限り。
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