第4話 瞬殺!ヤリサークズ男!
「まあー、レクリエーションっていうか、皆で楽しくテニスとかやって、冬はボードとか行ってさ、飲み会でワイワイ盛り上がってー、みたいな。ウチはそういう軽い感じのサークルだから」
中高の六年間を校則に厳しい女子校で過ごした
「今夜、
そう言って声を掛けてくる先輩達は、男性も女性も皆優しそうで、オシャレで、恵美の知らない世界を教えてくれそうで。
夢の名門大学に入学を果たして少しばかり浮かれていた彼女が、親の門限を破ってふらふらと彼らに付いていってしまったことを、誰が咎められるだろうか。
勿論、恵美だって全くの無知ではない。大学というところには、低俗で危険なサークルが掃いて捨てるほどあり、軟派な男達が手ぐすね引いて新入生を狙っているということは、親からも周りからも聞いて知っていた。だが、大丈夫だと思ってしまったのだ。高校からの親友も一緒だし、この優しそうな先輩達に限って、まさか自分達を取って喰らいはすまいと。
「え、でも、わたしまだ18歳ですし」
「いーのいーの、細かいこと言いっこなし! 大学生になったんだから恵美ちゃんもお酒くらい飲めないとさあ」
「チューハイなんてジュースみたいなもんだよ、ほら、いっちゃって、いっちゃって」
後になって思えば、その場の空気に乗せられていたのだろうか。同世代の子達に置いて行かれるという焦りが、恵美にそうさせたのだろうか。自分も遂に親と学校の抑圧を離れて、オトナの世界に足を踏み入れるとき――くらいのことを調子に乗って思ってしまったのかもしれない。
初めてのアルコールに身体の感覚を丸ごと持って行かれ、よろめく身体を男性の先輩が優しく包み込んでくれたところまでは覚えている。
今風で柔和な彼の顔立ちと、生まれて初めて知った父親以外の男性の手のひらの感触に、この人ならいいか、と思ってしまったことも。
だって、みんなは。今時の18歳の子達は、もうとっくにそういうことをしているから――。
それからのことは、親の言いつけを破った自分への罰なのだと思った。
見慣れないホテルのベッドで目を覚ましたら、先輩が一通のラインだけを残してもう居なくなってしまっていたことも。
あのサークルが大学内でも有名なヤリサーで、あの先輩はあちこちの女の子をヤリ捨てすることを生き甲斐にしている名うての遊び人だったと後から知ったことも。
真剣にお付き合いしてくれるんじゃなかったんですか、と、目に涙をためて詰め寄った恵美に、彼が本命の彼女の存在を告げながら冷ややかな
裏切られた悔しさに毎晩枕を濡らしながら、恵美はそれでも学生の本分を果たすために気丈に授業に通い続けた。自分は恋愛などするために
そんな彼女が、己の体調に不審を感じるまでに、それほど時間はかからなかった。
サングラスとマスクで顔を隠して隣町の薬局まで行き、震える手でレジに差し出した妊娠検査薬。母親にその結果を打ち明けることを
父親は恵美の勘当を言い渡し、退学の手続きを進めてしまった。恵美自身、大学に行く気は全く起こらなかった。一緒にサークルの新歓に行った友達からも二度とラインは来なくなった。
一週間か、一ヶ月か、一年か、自分がどのくらい引き籠もっているのかも忘れてしまった頃、恵美はたまたまFacebookであの先輩を目にした。恵美の全てを滅茶苦茶にしたその男は、今もサークルの中心で楽しそうに酒を飲み、笑い、女の子の肩を抱いていた。
「……殺してやる」
気付けば恵美は、しんと静まり返った夜の大学の構内に立っていた。サークル棟の一部にだけ明かりが灯り、楽しそうな笑い声が時折漏れ聞こえてくる。あの男が今夜、部室で他大学の女の子達を交えた飲み会に興じていることは、Twitterの書き込みを見て知っていた。
だが、どうして自分のパーカーのポケットに果物ナイフが入っているのか、恵美にはよくわからなかった。自分がこれから何をしようとしているのかも。……いや、決まっているじゃないか。わたしにはこうする権利があるのだ。あの男は、わたしから人生を奪ったのだから……。
恵美がポケットのナイフを握りしめ、吸い寄せられるようにサークル棟に歩を進めようとした、そのとき。
「キミがクズ男如きに手を汚す必要はない!」
力強い男性の声が、彼女の耳に響いた!
その場に現れたのは、巨大なロケットランチャーを肩に担いだ覆面の男!
「許すな! 逃がすな!
「喰らえ、開幕ロケットランチャー!!」
瞬殺!!
ロケットランチャー仮面の構えたロケットランチャーが火を噴き、恵美の人生を滅茶苦茶にしたクズ男が、その他のサークルメンバー達が、サークル棟が、一瞬にして爆発四散する!!
「これにて一件落着!」
恵美を苦しめるものは最早何もなかった。呆然とする彼女に見送られ、ロケットランチャー仮面は夜の
弱者
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