第2話 瞬殺!痴漢冤罪!
「ちょっとー、このヒト痴漢なんですけどー」
それが自分のことだと
「なっ、違う、俺は痴漢なんか――」
「いいから電車降りろや、オッサンよお。ケーサツに突き出してやっからよ」
男に腕を
それからのことは、彼が思い描いた最悪のシナリオ通りだった。ものの二十分ほどで事務室に到着した警察官達は、無実を訴える潔の言葉を無視して彼に手錠を掛け、パトカーに乗せてしまった。手首に食い込む金属の冷たさは、彼が二度と普通の生活に戻れないことを象徴しているかのようだった。
「この時期、お前みたいな痴漢が増えるんだよなあ。まったく勘弁してくれよな、こっちも暇じゃねえんだから」
潔が取調室に放り込まれるやいなや、中年の男性刑事は、手にしたボールペンで机の上をカンカンと叩きながらそう言った。潔は弁護士を呼んでくれと訴えたが、刑事は「あとで呼んでやるよ」と冷たく流すだけだった。
「お前みたいなクズに限って、人権だとか何だとか一人前のことを抜かしやがるんだよな。コラ、立場わかってんのか、てめぇ」
ダアン、と刑事の拳が机を叩き、潔はびくりと震えた。
取調室の煙草臭い空気と、パイプ椅子に身体を縛り付ける腰縄の感触。己の額を伝う脂汗を感じながら、潔は満足に回らない頭で、これからどうなるのだろうかと考えていた。ひとたび冤罪に巻き込まれてしまうと、裁判で無実を証明するのは途方もなく大変だと聞いたことがある。会社はクビだろうか。身重の妻は大丈夫だろうか。夢に見た第一子の誕生に自分は立ち会えないのだろうか――。
すると、そんな彼の焦燥を見透かしたように、刑事は悪魔の誘いを掛けてきた。
「早くシャバに出てぇならよ、さっさと罪を認めちまうことだな。お前が強情張ってる限り、俺らは最長21日お前を拘束できるんだ。起訴されなくても勤め先は確実にクビになっちまうぞ」
会社を解雇されることも勿論恐ろしかったが、潔が何より心配していたのは妻のことだった。子供はまだ安定期に入っていない。自分の逮捕のことを知ったら、もしかすると妻はショックで……。そんなことは断じて考えたくなかった。二人で足を棒にしながら不妊治療に強い病院を探し回り、苦節を経てようやく授かった子供なのだ。
なんとしても、一日でも早く外に出なければならないと思った。被害を主張する女子高生の目的がカネなのは何となくわかっていた。金銭で済むことなら、済ませてしまった方が……。
だが、潔が相手方との示談を望む意向を告げても、刑事はまともに取り合ってはくれなかった。「自分のやったことをカネで片付けようなんざ甘ぇんだよ」という一言が妙に頭に残った。
結局、その日は弁護士は来なかった。明日の夜には来るだろうよ、と刑事は言っていたが、潔にはもう、誰かの助けに期待する気力すら残っていなかった。
どうしてこんなことになってしまったのか。
留置場で一晩を明かした翌朝、他の被疑者達と腰縄で
「キミが無実の罪で裁かれる必要はない!」
力強い男性の声が、彼の耳に響いた!
その場に現れたのは、巨大なロケットランチャーを肩に担いだ覆面の男!
「許すな! 逃がすな!
「喰らえ、開幕ロケットランチャー!!」
瞬殺!!
ロケットランチャー仮面の構えたロケットランチャーが火を噴き、潔の人生を滅茶苦茶にしようとしたクソ女が、共犯のクソ男が、違法な取り調べをした刑事が、一瞬にして爆発四散する!!
「うぎゃあーっ、認めますー、痴漢されたっていうのはウソでしたー」
警察はクソ女とクソ男を虚偽告訴罪で逮捕し、違法刑事は減俸処分を受けた!
「これにて一件落着!」
潔を苦しめるものは最早何もなかった。呆然とする彼に見送られ、ロケットランチャー仮面は青空の下を去ってゆく。
弱者
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