私の幸せなんてこんなもの。
満つる
大教室
ひだまりの中で
「もう、
香南が困ったような顔して笑ってる。
「髪、ぼさぼさになっちゃう」
「ごめん。このあとまた編み込みするからさ。だから許してよ」
「いいよ。しなくって」
「なんで?」
「だって最近の結妃ってば、凝りすぎってくらいどんどん凄くなってるんだもん」
「え? ダメなの? それ。香南に似合うの選んでるつもりなんだけど」
「ダメじゃないよ。ダメじゃないけど、
「そんなの。気に入ったやつがあったら何度だってしてあげるから、もったいないとか思わなくっていいのに」
「でも、」
香南の目が頼りなく揺れて、視線が後ろの方へとわずかに逸れた。つられて、ふ、と目を動かすと。
また例の四人組がこっちをちらちらと見ているのが視界に入った。それだけでせっかくの幸せな気分が根こそぎ吸い取られるようなのに、私が目を向けたのを声をかけてもいい合図だとでも勝手な解釈したのか、「あ、結妃ぃ」なんていかにも今、気が付いた風を装って、手なんか上げながら四人してこっちにやってくる。こういう所が大教室での授業のうっとうしさ。とにかくひとが多すぎる。
「久しぶりー。元気? 今日は仕事、ないの?」
四人のうちでも一番押しの強いメイが、周りに筒抜けの大きな声で隣に座り込んできた。
「ん。まあ、適当に?」
それこそ適当な返事しかしなくても、それでもメイは気にする風もない。
「いいよねー、結妃みたいな売れっ子だと、適当、って言ってもそりゃもう全然色々と私たちとは違うんだろうなー」
「ほんと羨ましいぃ」「っていうか、メイだって十分、人気あると思うけどぉ」「そうだよ。ふたりとも素敵」
口々に言いながら頷いてる。
「今度の『MELSSIA』、また
「んー。どうだったかな。覚えてない」
何食わぬ顔してメイの問いかけにお茶を濁す。で、あとはだんまり。それで諦めて消えてくれれば御の字だけど、さすがにそんなに甘くない。
「結妃ってば信じらんない。あんなひとに撮ってもらえるのを覚えてないとか平気で言っちゃって。でもそれじゃ困るでしょ? 何なら一緒に仕事しながら私がマネージャー代わりもしよっか?」
「え? でも結妃くらいになればマネージャーってついてるんじゃないの?」
「うーん、モモ。悪いけど、さすがに結妃でもマネージャーはついてないと思うけど?」
訳知り顔でメイが説明し始めた。
なんでひとのことをこうもまあ勝手に話したがるんだろう。理解に苦しむ。でも、それ以上に分からないのは、どうして香南が端っこで小さくなってなきゃいけないのかってこと。ほんと訳分かんない。
「え? なに? 結妃、どうしたの?」
黙って立ち上がった私にそう言って目を丸くしてるのは、えーっと、誰? 名前も出てこない。その隣も分からない。いつもメイと押しかけてくるからなんとなく見覚えがあるってだけのひとたち。
「ごめん。香南と次、もう、行かなきゃ」
手を伸ばして香南の手を握って、「ほら」と引っ張る。香南が目を
「ちょっ、結妃、待ってよ?」
慌ててメイが何か言おうとしてるけど、聞こえないふりしてぐいっと香南を引き寄せて、そのままふたりで教室を出る。さすがに席を立ってまでして四人で追いかけてくる気配はなくって、ふふふ、と自然と笑みが零れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます