魔女たちの夜明かし

焼魚圭

魔女たちの夜明かし

 暗い森の中、生い茂る木々はその地を覆い、星の輝きすらも絶っていた。月も星も見つめることも見られることも出来ない闇の中で篝火がその地唯一の星となって辺りを照らしていた。闇に紛れて立っているのは闇のように黒いローブを纏った女たち。篝火を囲むように立つ者たち、地に倒れた木に腰掛けて赤い果実、りんごを細い手で持って口へと運び、そして齧る者、とにかく踊り続ける者、その全てが魔女であった。魔女たちはそれぞれに様々なものを持っていた。ある者魔法が使える草を、ある者はサンドイッチを、ある者は街の中で手に入れた不思議な葦を。

 魔女の内のひとりがその不思議な葦の上に実るかぼちゃを摘み取ってそこから滴る紅茶を啜る。魔女は残された葦を篝火の中へと雑な手つきで放り込む。ある魔女はある花から取った蜜を舐めて地面を踏み締めながら気持ち良さげな艶やかな笑みを浮かべて闇の中を蝶のように舞い始めた。

 今宵は魔女たちが集まり明かす夜。木々に閉ざされた深い暗い森の闇の中で篝火だけが輝いていた。篝火は煌々と燃え続け、地に広がる草の絨毯を微かに照らす。

 そんな篝火から闇に染められて黒く見える煙が上がっているのを確かめて魔女は先程放り込んだ不思議な葦を取り出した。葦をつかんで闇のように薄暗い笑い声を上げ、鋭い笑みを表情に出して、葦を食べ始めた。その光景は陰が隠していて、魔女たちの表情など見えやしない。しかし、恐らく先程と同じ表情をしているのであろう。魔女たちが口にした葦は焼いた表面は少しばかりの焦げ目が香ばしく、歯を入れるとそれはそれはとても柔らかく、この上ない美味であった。口の中でとろける葦の味を舌に絡めて味わい固い芯を吐き出す。今宵は魔女たちが闇に集う夜。ただただ踊り遊び夜を明かす、そんな一夜。

 新たに現れた魔女は大量の不思議な葦を持ってきた。

 魔女たちはさぞ愉快そうに笑い声を上げながら大量に積み上げられた葦の果実を頬張っていく。生で食べるとその時にそれはそれはとても心のこもった歌を奏でる。魔女たちはそんな感情がむき出しの歌を聴き、そしてその葦を食べることで生きていた。紅茶滴るかぼちゃのついた葦を煮えたぎるお湯が注がれた鍋に放り込む。

 そうして煮詰める瞬間、一方で篝火に放り込まれる葦。

 それぞれ個性溢れる音色を奏でていた。魔女たちはそれを聴くことで満足しているのであった。

 やがて魔女たちは供物の植物を篝火の枠組みのなかで揺れている炎に捧げて踊りを更に楽しむための魔術を行使する。魔術の煙が上がると共に魔女たちは篝火を囲んで舞い始めた。回って跳んで走って舞って。

 地を舞う魔女たちは宙へと浮かび始め、みんなで回りながら闇の中を自由自在に飛び回り始めるをそれぞれに上げる不快な笑い声それは森の中で飛び交いこだましてますます深い不快へと変えていく。


 魔女たちはそうして夜を明かすのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

魔女たちの夜明かし 焼魚圭 @salmon777

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る