第6話 モカとアル中女④
「何それ?急にどーしたのモカくん?」
ナツミが苦笑する。
嫌な雰囲気を勘付いているのだろう。鋭い人だ。
「別に、これが普段の僕ですよ。せっかくの夜なんです。ナツミさんも普段の自分を吐き出してみてはいかがですか?」
「吐き出してたよ。モカくんがつまらない話し出すまでは。楽しくやってたのになー」
「その取り繕った笑顔でですか?」
「作ってないんだけど」
「本心を隠した上で無理して楽しんでるように見えるんですよ」
「.....普通、そーいうもんでしょ?」
ナツミが不貞腐れるように唇を尖らせる。
きっと、自分がやろうとしてることは、お節介に他ならない。大の大人が社会で生きる為に身に付けた、上手く生きるフリを引っ剥がす作業だから。それでも、言わずにはいられなかった。
かつての自分が言ってもらったように。
「お酒でしか人生楽しめないなんて、辛くないですか?」
「辛くない....とはいえないけど、みんな、そーなんじゃない?モカくんは違うの?」
「違いますね。酒飲めないんで。ほろよい一缶で記憶が飛びますし」
「逆に良いじゃん」
ナツミが吹き出す。
「いや良くないですから。飲兵衛が味わってるアルコール独特の気持ちいい感覚が分からないんですよ?少し飲むと潰れちゃうわけで」
「あー、それはちょっとヤだね」
「でも、だからこそ、他に楽しみがあります」
「へー、良いな。何なの?」
モカは口元に小さく笑みを浮かべ、ナツミの赤らんだ顔を見つめた。
「あなたですよ」
「.......え、どゆこと?」
ナツミがポカンと口を開ける。
本当に意味が分からない、といった表情だ。
「そのまんまの意味です。ナツミさんとこうして話す時間が、僕にとっては、かけがえのない大切な時間で、何ものにも代えられない楽しいひと時なんですよ」
「え、アタシ今、口説かれてる?」
「アル中は受け付けてないんで安心してください」
「それはそれで傷つくんだけど」
ナツミが笑う。
その笑顔に向けて、言葉を続ける。
「ナツミさんは今、楽しくないんですか?」
「だから楽しいよ。モカくんが変な話しなかったら」
「変ですかねー。僕から言わせれば、泥酔状態でお店にやってくる客の方が、よっぽど変だと思いますが」
「それは言えてるかも」
ナツミがまた笑う。
「そこまで飲まなきゃ生きていけない時点で、十分ナツミさんは普通とは程遠いと思いますよ」
「モカくんよりはマシでしょ?」
「僕は泥酔もしなければ、酔った勢いで店員にキスしたりもしないですよ」
「うわっ、まだ根に持ってるの?執着する男はモテないよ?」
「アルコールに執着してる女が何言ってんですか」
「女はいーの」
ナツミがまた笑う。
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