第十一話 セカイの事情。
時は遡り、フレアがユキノと理科準備室で対峙していた頃。
セカイはユウヤとマコトに携帯端末で指示された駅前のカフェに一人でたたずんでいた。最近出来たばかりのそのカフェは平日だというのに賑わっていた。それでもきっと休日よりはマシなのだろう。セカイは列に並び、十数分の後には席に案内された。
「あとから二人来るんで」
一人席に案内されそうになったセカイは急いで付け加えた。四人席もちょうど空いたところで、店員は少し変な顔をしつつも四人席にセカイを案内した。混雑している店内で一人待つのは居心地が悪いが、やむを得ない。
ユウヤとマコトの二人は中学三年の一年間、セカイと同じクラスだった。二人はとくにセカイと仲が良い、というわけではもちろんない。セカイはたまにイジられているだけだ。
セカイは二人にそれなりに合わせていた。それくらいセカイには許容範囲だった。それまでセカイは、いつもフレアの傘の中にいるようなもので、そして腫れ物に触るような扱いを受けていた。それに比べれば、まだ気が楽だと感じていた。
白音の地を離れ、久然学園の中学三年次に編入した当初こそ、珍しい転入生だということで大いに関心を集めたが、転入後初めての模試で劇的に最下位を収めたセカイはクラスメイトからはいないものとして扱われがちになった。
それでもほんのわずかな関心をセカイに持ち続けたのはユウヤとマコトだった。さっきのようにいささか乱暴に扱われることはあったが、そのくらい、セカイにはなんてことなかった。フレアという傘を支えなくてよくなったのだから。
セカイはコーヒーを頼んだ。とりあえず、二人に命じられたことはした。二人が来るかどうかはわからない。このコーヒーを飲み終わるくらいは待ってもいいだろう。
こちらもフレアを無視したのだから、あの二人にフレアとの関係を気付かれたはずはない。だから詮索されることもない。セカイはため息をついた。あの二人、フレアに話しかけていたようだったが、無視されたに決まっている。フレアの関心を買うようなタイプには見えない。そもそもフレアの関心を買うようなタイプなどにセカイは心当たりがなかった。
セカイは携帯端末を見たが二人からメッセージは何も来ていなかった。
まさか追いかけてくるとは、というのがセカイの正直な思いだった。
もちろんフレアのことだ。
別の高校に進学することに決めたということをセカイは何度も話に行ったのに、フレアは会いもしなかった。絶交状態だった。
だからこそ、いくらタイカイから事前に聞いていたとはいえ、実際に入学式で目の当たりにすると、セカイは驚かざるをえなかった。
周囲の大人たちを困らせるだけ困らせ、周囲から恐れられた恐るべき幼馴染。幼馴染ならほかにもいたのにセカイだけがフレアのそばに残った。いや、残っていた。
中学二年生の夏。ユキノと初めて会ったとき、ユキノが高校教師をしていることをセカイは知った。白音学園に進学してそのまま父の後を継ぎ教団幹部になることに疑問を感じていたセカイは、ユキノに誘われるまま、久然学園の受験を決意したのだった。
地元を離れることがフレアの意に沿わないだろうとは分かっていた。セカイはどうしてもフレアから離れたかったわけではない。もうフレアも成長したはずだ。理解してくれるはずだった。だが、絶交状態で別離するとまでは思わなかった。
正直、今会ったら何を言われるかわかったものではない。
セカイは思わず苦笑した。それをたまたま目撃した店員が目を慌てて背けた。不気味な企みを思いついた変態を見てしまったと思ったのだ。
フレアもまだまだ子どもだった、ということか。これからどうするか。もう、「妹」の面倒は見ていられない。そんな関係には、嫌気がさしていた。
コーヒーはもう飲み干していた。さっき、店員がこちらを妙な目で見ていたのにセカイは気付いていた。そろそろ、店を出るか。
そのとき、携帯端末にユキノからの着信があった。
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