5 晩御飯
それから、適当な番組を付けながら冬野の作ったハンバーグを頂く事となった。
「どうかな?」
「マジでうめえ……なにこれハンバーグってこんなに美味しかったっけ? 天才だろお前」
「えへへ、それはどうも……」
言われた冬野は少し顔を赤くして目を反らし、そして凄い勢いで褒めちぎった事がなんとなく恥ずかしくて、隼人は隼人で視線を逸らす。
……本当に美味しかった。正直毎日冬野のご飯を食べたいと真剣に思う程に。
もっとも流石にそこまで恥ずかしい事は言えなかったのだけれど。
そしてそんな褒めちぎりから始まった食事は、中身の無い雑談を進めながら進んでいく。
「あ、そうだ桜野君。そこに出てる芸人で好きな人とかいる?」
「あー俺あの端にいるコンビ。結構好き。冬野は?」
「私もあの人達。凄いよね最近勢いが。この前の特番でさ――」
そしてそんな雑談交じりの食事も終わって食器を片付けた後、バラエティー番組を雑談混じりに見終えると夜九時前。思い返せば結構な時間を冬野と二人で過ごしていた事になる訳だが、流石にこのまま泊まるとかいう選択肢はない。そろそろ良い時間だった。
「じゃ、俺そろそろ帰るよ」
「そだね。もう夜遅いし。あんまり遅いとほら、深夜徘徊で補導されるしね」
「だな。そうなったらめんどい」
そして、そんな冬野に玄関で見送られる形になった。
「じゃ、気を付けてね、桜野君」
「おう。今日は色々とありがとな」
本当に感謝だ。冬野と出会えた事で少し気が楽になって、そしてそれだけではなく本当に単純に今日は楽しかったのだ。だから明日への糧にできる。生きる気力が沸いてくる。
「私も会って話せて楽しかったよ」
と、笑顔でそう言った上で一拍空けてから言う。
「とりあえずまた今度って事で。お互い暇な時さ、また何かしようよ」
「おう、そうだな」
もう顔を合わせられないなんて事はない。気を抜けば依存すらしてしまいそうな位には、冬野雪という女の子といる時間は心が安らぐ。会わない理由が無い。
「約束だよ」
そして冬野が笑顔でそう言ったのを見て、本当に今日一日は件の事件からの二年間で一番生きた心地のした日だったと、そう思った。
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