4 無差別殺人事件について

「うわー、トマト高いなー」


「え、いつもこんなもんじゃなかったっけ?」


「普段細かい金額見て買ってないでしょお金持ちめ。今野菜がヤバイってのは常識だよ」


「それじゃあまるで野菜がヤバイみたいじゃないか」


「だからヤバイんだって」


 そんな中身の無い適当な雑談を交わしながら食材を購入し、冬野の家へと戻って来た。


「なんか手伝う事ある?」


「桜野君はお客様だからさ、くつろいでてよ」


「わりいな。でもなんかあったら言ってくれよ? あ、冬野テレビ付けてもいいか? 後スマホの充電器借りていい? バッテリー切れてんだよ」


「ん。いいよ」


 一応許可を貰ってテレビを付ける。特別見たいものは無かったのだけれど、基本聞き流す程度に何か流れていた方が落ち着く。

 そう思って付けたテレビのチャンネルで今やっていたのはローカルニュースだった。

 そして偶然にもそれはあまりみたくない類のニュース。


「……またかよ」


 今日の午前中。隣県で滅血師だけを狙った無差別殺人事件が起きたらしい。


 目撃情報によれば、犯人は狐のお面を付けた吸血鬼の男。

 四年前、姿を変える吸血鬼を同族であるにも関わらず殺した吸血鬼。

 その被害は今だ不定期に発生し続け、どういう吸血能力を持っているのかは分からないが、現れる度に格段に強くなり続けているらしい。


 二年前の段階で自分や雄吾クラスの滅血師でなければまともに相対できないと言われていたのだから、あれから更に強くなったのだとすれば、同じくあれからも強くなって最強の滅血師と呼ばれるに至った雄吾で無ければ太刀打ちできないのではないだろうか?

 もっとも二年前の段階で男の成長が止まっていたとしても、もはやまともに戦えない隼人ではどうにもできない訳だが。


「くそ、この辺大丈夫か?」


 よりにもよって隣県である。それは即ち次は我が身かもしれないという事だ。

 今の所は県内で確認はされていないのだろう。されていれば例えパニックを防ぐ為に報道管制が敷かれるとしても、それをすり抜ける様に綾香辺りから連絡が来るだろうから。


 だけど充電しながら起動したスマホに来ているメッセージは、やっぱりカレーを持っていっていいかという、ウザイスタンプと共に送られてきた懇願だけ。とりあえずそれには『やです』の三文字だけで対応して終わらせたわけだが、そんなどうでもいい話をしていられる程度には、まだ余裕のある状況というサインでもある。


「なになにどしたの?」


「いや、別に」


 言いながらチャンネルを変える。ほぼ間違いなく、この後街角インタビューやスタジオで、吸血鬼に対する非難の様な言動が発せられて流れてくるだろう。

 冬野の様なまともな吸血鬼とそれ以外のクズはまったく別種の存在だという認識を隼人は持っているけど、それでも現実はどちらも吸血鬼である事には変わりがなくて。


 だから。吸血鬼を一括りに非難するそういったものは、昔から可能な限り冬野の前では避ける様にしてきた。これもそんな感じだ。

 見せたくない聞かせたくない。優しい吸血鬼の耳に、そんな暴言は届かせたくない。

 だから、チャンネルを変えた。今の自分にできるのは、本当にその程度の事だけだから。

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