3 買い物
冬野が入れてくれたコーヒーを飲んでから暫く、お互い黙り込んだままの時間が過ぎた。
お互いが隠していた事を。隠していたつもりの事を話し終えた。では隠し事無しで普段通りと行くかと言われればそうでもなくて。ここから先、何をどう切り出すべきかと互いに探り合っているような状態に思えた。
そしてそんな硬直状態を破ったのは冬野だった。
「よし、桜野君。夕飯の買い物に行こう」
そう言って冬野は立ち上がって言う。
「あそこに居たって事は、桜野君も夕飯の買い物だったんだよね?」
「お、おう、そうだけど……」
「じゃあ決まり。今日はウチで食べてきなよ」
「え、悪いって」
「良いって良いって、一人分も二人分もそんなに変わらないし……それに、一人分ばっか作るのも寂しいしさ」
変わっているじゃないかという言葉は口にせずに飲み込んだ。その代わりに。
「じゃあご馳走になってもいいかな?」
「うん!」
そう言って冬野は満面の笑みを浮かべてくれる。
「何か食べたい物とかある?」
「……そうだな」
とりあえずカレー以外で。そして自分でもそうしようと思ったように何か肉系で。そして自分の自炊スキルではうまく作れなくて、そして好きな食べ物。その条件で考えた。
「……ハンバーグ、とか?」
「チョイスが子供みたいだね」
「待って、今の無し。なんか別の――」
「冗談だよ。老若男女皆好きだよハンバーグ。よし、ハンバーグにしよう」
「だよな! 皆好きだよな! じゃあそれで頼むわ」
「よし、そうと決まれば買い物に行こう」
「じゃあ荷物持ち位俺がするよ。作って貰うわけだし」
「助かるよ。丁度お米切れかかってたし。重いんだよね」
「このタイミングで米買う!?」
「冗談だよ。お米は通販で買ってるし」
そう言って冬野は笑って言う。
「じゃあとにかく、そんなに重くならないけど荷物持ちお願いね」
「じゃあお前はおいしいハンバーグよろしく」
「りょうかーい」
なにはともあれ、冬野と買い物へと向かう事になった。
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