14 雨宿りの終わり

 そこからはもう、殆ど物騒な話をする事はなかった。

 本当に他愛もない話だ。

 学校での日常生活の話。

 隼人が無茶苦茶馬鹿な話。

 その隼人に冬野が勉強を教える事になっている話。

 不定期に飛ぶ物騒な殺意。


 そんな時間を、短い時間ではあったが三人で過ごした。


「……じゃあ雨も止んだっぽいし、夜も遅いから俺はこれで」


「そだね。また降りださない内に帰った方がいいよ」


 雨が止み、話の切りもよかった。帰るとすればこのタイミングだろう。

 隼人が椅子から立つと、冬野も一緒に立ち上がる。どうやら見送りに来てくれるらしい。

 冬野の父親は付いてこなかった。正直気の使い方のバランスが良く分からない。

 そして玄関先で冬野は言う。


「これから対策局に戻るって言ってたっけ」


「ああ。色々報告に、とりあえずこんな状態なんでもう勘弁してくださいって伝えるのと……まあ場合に後は治療しにな。多分今日はそのまま泊まってくると思う」


「とりあえずなんか心配だし、向こう付いたらライン送ってよ」


「残念。知っての通りスマホどっかで落としてるから」


「あ、そっか……で、どうかな。その状態の桜野君に聞くのなんかあれなんだけど、明後日は学校来れそう?」


「入院でもしてなきゃな」


「……結構危うそうだね」


 冬野は苦笑いを浮かべた後、少し不安そうな表情で言う。


「桜野君」


「なんだよ」


「もうこんな怪我負わないようにさ……危ない事、やらないでよ。これを気にさ、止めちゃわない? 滅血師」


「……冬野」


「滅血師は凄いなって思うし、桜野君が言ってた滅血師を変える云々の話もきっと凄い事なんだって思うよ。だけどさ……やっぱり友達が危ない目に合ってるのは、嫌だからさ」


 先程滅血師の有り方を変えると話した時もそういう表情を浮かべていた。

 本当に。自分の事を棚に上げて心配をしてくれる。だけど、そんな冬野だからこそ。


「悪い。止められねえんだ。目標出来ちまったから」


 こうして心配してくれる冬野だからこそ、何とかしてやりたいって強く思う。


「……目標、か」


 冬野はとても複雑な表情を浮かべた後言う。


「じゃあせめて無理しないって約束してよ、お願いだからさ」


「分かってるよ。無理はしない。やれる所からやっていくよ」


 嘘だ。無理はしなければならない。無理をしてでも勝ち取らなければならない。


「……うん」


 そしてそんな嘘で冬野は安心したような表情を見せてくれた。


「じゃあ、えーっと……またね、桜野君。お大事に」


「おう、またな、冬野」


 そして隼人は冬野の家を後にする。


(……じゃあまず、具体的に何からやっていく?)


 そんな事を考えながら。

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