第9話 早朝の訪問者

 朝食作りが始まり、その中でも、芽愛メイは何故か上機嫌で、笑顔を見せながら手伝いをしていた。


(芽愛ちゃん、随分機嫌がいいな)


 昨日の様子では、それほどいいことがあったようには見えなかった。何かいい夢でも見たのだろうか。

 少し気になるが、それでも芽愛の笑顔はやっぱり――

 

 可愛い!

 

 内心、恭兵キョウヘイの顔が緩んだが、すぐにある不安が過ぎった。

 マイが何か言わないかだ。

 今までだと、ご機嫌な芽愛に水を差していた。それを考えると、今回も何か言って来るような気がした。


(大丈夫か……?)


 舞の方は今のところ、無表情ではあるが何も言ってこない。


「どうしたの、さっきからジロジロ見て?」

「ベ、別に……」


 心配になり自然と舞を見る回数も増えていったせいか、さすがに舞も恭兵の視線に気づいたようだ。

 そんな恭兵を見て、芽愛は目を細め、頬を膨らませた。

 まるでヤキモチを焼くように。

 

 朝食が出来上がり、恭兵を含む4人が昨晩のようにテーブルを囲んだ。

 しかし、昨晩のこともあって、やはり会話がない。

 朝食のメニューはシンプルで、トーストとベーコンエッグに簡単な野菜サラダだ。

 黙々と朝食を食べ終え、そろそろ鹿島の家を後にしようとしていた。


「理事長、私の車を使ってください」


 そう言って鹿島かしまは自分の車の鍵を舞に差し出した。


「鹿島先生、流石にそこまでは……」

「いいから、使ってください」

「でも……」


 申し訳ない気持ちでいっぱいになる舞。

 そこで恭兵が話に割って入る。


「気遣いはありがたいけど、大丈夫」

「でも、車がないと……」

「大丈夫ですよ鹿島先生。恭兵さんが呼び出しますので」

「呼び出す? ――もしかしてあなた、銃だけじゃなくて車も呼び出せるの?」

「そう」

「凄いんですよ、恭兵さんが呼び出す車は、まるで戦車ですから」

「そゆこと」


 その時の恭兵は、鼻高々にドヤ顔を浮かべていた。

 その時だ。


 ピンポーン!


 玄関チャイムが鳴った。


「誰かしら?」

「待った!」

 

 玄関へ向かおうとする鹿島を止めた恭兵。

 映画やドラマあるあるで、追われている立場の主人公が隠れている所に訪ねてくる人間は、大体が敵だ。

 恭兵は寝室を指差し、芽愛と舞に隠れるように合図を出すと、芽愛と舞は察したようで、寝室へ入って行った。


「……返事だけしてください」


 鹿島にそっと言うと、ドアの近くに移動した。

 そこで恭兵は1つ気掛かりになるものを感じた。

 もしここで撃ち合いになった場合、銃声を聞かれて警察を呼ばれる可能性がある。


(しまった……)


 恭兵がナビゲーターウォッチを見ると、ポイントはフルになっている。

 サイレンサーを召喚しても、問題は無いと思うが、それでもなんか損した気分だ。


「……オーダー、M4用サイレンサー」


〈M4用サイレンサー、召喚します〉


 恭兵はサイレンサーを受け取ると、M4のマズルに装着した。

 このサイレンサーは、映画で拳銃などに付ける際、ネジのように回して装着するのではなく、マズルのフラッシュハイダーの上から被せるように装着し、ストッパーで固定するタイプだ。

 本当はグロックに付けたかったが、このウィザードカスタムは、アウターバレルが無いので、サイレンサーが付けられない――設定なのだ。

 恭兵が頷く仕草動作をすると、鹿島も頷き、ドア越しに「はい」と返事をした。


「朝早くにすみません。警察の者ですが……」


 ドアの向こうから男の声が聞こえる。


「何でしょうか?」


 鹿島が訊くと同時に、恭兵はドアの覗き窓から外を覗いた。

 外には二人組の男。

 狐のような細い目つきや側の悪い格好からして、どうも刑事には見えない。むしろ暴力団といった方がしっくりくる。


「……警察手帳見せるように言って」

「すみません。警察手帳見せてもらってもいいですか?」


 恭兵の指示に従って鹿島が言った。

 すると、外の男たちが焦る素振りを見せた。

 やはり偽刑事だ。

 返事に困った男たちは懐に手を忍ばせ、あるものを取り出した。

 拳銃だ。

 男たちはドアを壊そうと、ドアノブに拳銃を向けた、その時だ。

 突然ドアのロックが解除され、ドアが開くと、恭兵がM4を発砲。

 男2人を倒した。

 すかさず恭兵は男2人に駆け寄り、息があるか確かめた後、2人の所持品を調べた。

 やはり警察手帳は見当たらない。

 財布を調べると、2人とも数十万円分のお札が入っていた。


「随分儲かっているんだな、この世界の暴力団は……」


 恭兵は今後の買い物のことを考えて、現金を抜き取った。


「恭兵さん、それは流石に泥棒じゃないですか……?」

「そうよ。いくらアナタでも、許されないわよ!」


 芽愛と舞の言うことも当然だ。

 例え相手が悪党でも、盗みは犯罪の何者でもない。

 それは恭兵も順々承知している。


「そっちはお金持ってるのか?」

「ううっ……!」


 芽愛と舞が同時に言葉を詰まらせた。

 芽愛に関してはオケラだったし、舞は学校に財布を置いてきてしまっているので、勿論お金はない。


「2人の言うことは正しいよ。俺だって泥棒は嫌だ。それでも今は必要なことなんだ。分かってくれ」


 恭兵は更に所持品を調べると、車の鍵を見つけた。

 そしてアパートの敷地の中には、昨晩に無かった黒のセダンが止まっている。

 セダンに向けて鍵に付いているボタンを押すと、一度ハザードランプが点灯しドアロックが解除された。

 恭兵はセダンを動かし、2人の男の死体をトランクに押し込んだ。

 その時に、男の1人の背中に、不自然な膨らみを見つけ、上着を捲ると、そこには1挺の拳銃があった。

 拳銃は、銃身の短い5連発式のリボルバー。

 恭兵は念のため、それを取り、背中のホルスター、――は無いので、代わりにズボンに引っ掛けるようにしまった。


「あの、恭兵さん? もしかして、この車で移動するんですか?」

「そう。ちょうどいいから、この車、使わせてもらおう」


 芽愛と舞が、あからさまにイヤそうな顔をしているが、当然だ。

 死体が乗った車に、誰が喜んで乗るだろうか。


「鹿島先生。アンタもここから離れた方が良い。恐らくコイツらが戻らないことに気がついて、真っ先に狙われるから」

「そうしたいけど、保健室を空けるわけには……」

「いいえ。今日は松本先生に担当を代わってもらうように、私から連絡します。あの人も保健室は担当できますから」


 舞がそう言いうと、鹿島も「分かりました」と了承した。


(誰だ、松本先生って?)


 また新たなキャラクターに恭兵は頭に「?」を浮かべるが、とりあえず車に乗り、その場を離れた。

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