第8話 それぞれの朝

 翌朝。ローブ姿の浩次コウジはホテルのリビングで朝食を取っていた。

 朝食のメニューは、フレンチトーストや目玉焼きが添えられたハムベーコン、サラダ、豆乳と黄な粉のバナナスムージーなど、比較的シンプルだが、これでも値段は軽く1万円を超える――当然『キャラコントロール』で無料だが――庶民の感覚では、勿体ない、の一言しかない。

 浩次の後ろには銀髪の組員と、いつの間にか合流した武須田ぶすだがいた。

 教師と暴力団の組員、はたから見ると、妙な組み合わせだ。


「クソッ‼」


 浩次はユニークスキル『上空遠隔視』を使うが、恭兵キョウヘイたちは建物内に身を隠しているため、場所が特定できない。

 その上、無駄にポイントを消費するのだから質が悪い。


「まだ恭兵は見つからないのか⁉」

「アニキたちも夜通しで探していますから、もう少し待ってくださいボス……」

「待ってられるか‼」


 そう言って浩次はフレンチトーストを乱暴にフォークで突き刺すと、大口を開けて、それをむしゃむしゃと食べ始めた。

 残り11時間を切るという焦りから、やけ食いしているのだが、親に叱られて不機嫌なワンパク小僧みたいで、えげつない。

 すると、銀髪の組員の携帯電話が鳴った。


「はい。あっ兄貴お疲れ様です――分かりました!」

「どうした?」


 浩次は銀髪の組員の方を向いた。


浩次ボス! 兄貴からなんですけど、内のモンが調べた限りでは、弟さんはホテルとかを利用した記録はありませんね」

「それで?」

「何処か知り合いの家に居るのかも?」

「かも? じゃねぇ! ちゃんと探せよ‼」


 そう偉そうに強く言って、銀髪の組員に背を向けた。


「――いや待てよ。確か『男性配下』があるんだから……」


 浩次はあることに気がついた。

 スキルの『男性配下』があるので、男性が多い場所は避けるはずだ。

 それを考えると、恭兵たちが寝泊まり出来る場所は、主に一人暮らしの女性の所。


「おい武須田。お前の学校で、一人暮らしの女、知らないか?」


 浩次の問いに、武須田はしばらく考えると、心当たりがある人物が頭に浮かんだ。


「そう言えば、鹿島かしま先生は一人暮らしですね。それ以外はちょっと……」

「そいつの家だな――おい、誰か向かわせろ!」


 銀髪の組員に向けて言うと、「はい」と返事をして部屋を出て行った。


「――そうだ武須田、そいつ好きにしていいぞ」


 武須田に向けて、浩次が親指で寝室を指差した。

 ベッドには膨らみがあり、そこから、シクシク、と泣く女性の声が微かに聞こえた。


                 ○


 鹿島宅、翌朝――

 鹿島が寝室から出て、「おはよう」と恭兵に挨拶した。

 相当熟睡できたのだろう、挨拶にも元気よさが伝わる。

 その後に出てきた芽愛メイはというと、ちゃんと眠れなかったのか、寝ぼけまなこを擦った後に大きなあくびをしていた。


「おはようございます……」

「おはよう芽愛ちゃん」

「……。恭兵さんは眠くないんですか?」

「全然」


 そう、恭兵は一晩全く寝ていないが、全く眠気も疲れも感じない。

 本当にこのスキルはありがたい。


「不眠症ですか……?」

「……いや、それはスキルじゃなくて、病気でしょ……」


 恭兵がツッコむが、芽愛は相変わらず目を擦っている。

 寝ぼけているのだろう、と、とりあえず納得することにした。

 そして再び芽愛があくびをした後、恭兵の横にある物を見た瞬間、芽愛の眠気は一気に吹っ飛んだ。


「きょ、恭兵さん、それは⁉」


 恭兵の隣に有った物、それは正真正銘のM4A1アサルトライフルだった。


 M4はアメリカの軍や警察の特殊部隊などで使われているアサルトライフル。

 弾薬は、5,56ミリ弾を使用。1つの弾倉マガジンに30発の仕様になっている。

 アッパーレシーバーには、20ミリのマウントレールが装備されており、ライフルスコープなどの照準器を付けることが出来る。

 恭兵が召喚したのは、RISと呼ばれるタイプで、ハンドガードの部分がフォアグリップやフラッシュライト、レーザーサイトなどのオプションパーツを容易につけることが出来るマウントレールが上下左右の4面に搭載されているモデルだ。

 恭兵が召喚したM4は、アッパーレシーバーに背の高いⅬ字型のマウントリングで高さを調節したチューブ型のダットサイトを搭載。

 このダットサイトは、スコープのようにズーム機能はないが、レンズ内に投影された赤い点で、素早く相手に照準を合わせることができる光学照準器になっている。

 右のレールは何もついていないので、レールの部分はパネルで覆われているが、左側のレールにはレーザーサイトが付けられている。大人数を相手にすることを考え、腰撃ちでも素早く相手を狙えるようにするためだ。

 下部には、銃身をショート化した、M203グレネードランチャーを取り付けており、火力もアップ。多少の障害物や敵が集まっているなら、これで吹き飛ばすことが出来る。

 まさに鬼に金棒と言っても過言ではない。

 


「これ? 夜中の間にポイントが溜まったから、召喚したんだ。拳銃もマシンピストルに変えたから、今度は大勢敵が来てもやっつけられる」


 そう言って恭兵は、ズボンに引っ掛けていたグロック18を芽愛に見せた。

 そんな恭兵が新しく召喚した銃を見て、流石の芽愛も目を点にして呆気に取られていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る