第2話 嫉妬?

「お爺ちゃんの家? ――って、爺ちゃん男でしょ……」

「いいえ恭兵キョウヘイさん。既に亡くなっているので家には誰も住んでいないんです」

「あぁ、なるほど。場所は?」

「隣の県です。田舎なので人と頻繁に会うこともあまりないと思います」

「そこなら私も賛成ね」


 突然、マイが話に入って来た。

 確かに人とあまり会わないというのはありがたい。


「決まったな。それじゃ夜明けに出発ってことで――」

 

 グゥー……

 

「ん?」


 音の方へ顔を向けると、そこには顔を真っ赤にして恥ずかしそうに下を向く芽愛メイ

 どうやらお腹が空いたようだ。


「……もう、この子ったら」

「……ごめんなさい」


 お腹を鳴らす芽愛に対して恥ずかしそうにそっぽを向く舞に、「いやいや、それは生理現象だから仕方ないって」と、恭兵がすかさずフォローを入れた。

 アニメキャラといっても人間、当然食事は必要だ――恭兵はスキルで食事不要だが。


「あの、私も晩御飯まだなので、良かったら一緒にどうですか?」

「悪いですよ、鹿島かしま先生」

「いいんですよ理事長。その前にお風呂はどうですか? さっき入ったばかりなので、追い炊きすれば入れますよ?」

「ありがとうございます。それじゃ――」


 突然言葉を止めた芽愛が恭兵の方を、ジー、と見る。


「どした、芽愛ちゃん?」

「――覗かないでくださいよ?」


 それを聞いた恭兵は目を細めた。


「俺、覗きの趣味は無いから……」

「本当ですか……?」


(なんで信用無いの⁉)


 確かにさっき、芽愛の下着姿を目の当たりにしてしまったのは事実だが、あれは事故だ、出来心や本心で覗いた訳ではない。


「大丈夫よ相川さん。私がしっかり見張っているから」

「よろしくお願いいたしますね。鹿島先生」


(うわっ、母ちゃんまで……)


 今まで一緒に行動して来たのに、あまり信用されていないこと――そもそも他人なのだから、致し方ないところもあるが――に恭兵は壁に手を突いて落ち込んだ。

 そんな恭兵の肩に鹿島が、ポン、と手を置いた。


「覗けないくらいで、そんなに落ち込まないの……」

「それで落ち込んでんじゃねぇよぉー‼」


 まるで友達のように恭兵を慰めようとする鹿島に、恭兵は涙を滝のように流しながら激怒した。本当にそんな趣味は無いからだ。


「ダメですよぉ。相川さんはまだ学生なんですから……」

「なんの話だよ⁉ ――って、えっ⁉」


 鹿島の顔を見た瞬間、恭兵は顔を引きずらせる。

 何故なら、鹿島の目つきが妙に怪しいというかヤラシイというか、何か誘っている――又は求める? ――ように恭兵を見つめていた。

 恭兵はこの展開の先を何となく想像したが、もしそれが当たっているのなら、非常に不味い。


「あのぉ……何ですか?」

「相川さんがお風呂に入っている間、私がお相手して、ア・ゲ・ル」


(やっぱり! えっ、こういうキャラなのこの人⁉)


 恭兵の顔にジリジリと鹿島の顔が近づいて来る。


「いいのよ。先生に任せなさ――」


「――ダメェ‼」


「えっ?」


 突然声を上げる芽愛に、恭兵の他、鹿島や舞まで間の抜けた声を上げた。


「ちょっと鹿島先生、恭兵さんを誘惑しないでください‼」


 鹿島を指差しながら芽愛は顔を真っ赤にして激怒していた。

 まるで自分の彼氏が、他の女と話しをしているところを見て嫉妬するように。


「もう、相川さんったら冗談に決まっているじゃない……」

「ホントか?」


 明らかに本気だったような気がする。


(こんな性格だから彼氏が居ないのか? ――でもこれ、キャラ設定なんだよな。なんか気の毒……)


 鹿島に対して幻滅と同情が複雑に入れ混ざる。この感情を表現できる言葉があるなら是非教えてほしい、ととして思う恭兵だった。

 

 芽愛がお風呂に入っている間、脱衣室の出入口の横では舞が仁王立ちしていた。

 舞の態度を見て、部屋の端の壁に背を掛ける恭兵がを指摘したかったが、今は抑えることにした。

 それよりも、恭兵的にハラハラしていることが2つある。

 1つは芽愛が入浴中に襲われないかということ。

 そして、もう1つは……ゴキブリだ。

 相川家で起こったハプニングが再び起こらないとは限らない――いや、起こらないことを願うばかりだ。

 もしもそんなことが起こったら、ハプニングだとしても今度こそ信用を失ってしまう気がする。

 そんなことを考えていると、唐突に入浴中の芽愛の姿を想像してしまった。

 ダメだ、と頭を左右に振って頭の中をからにしようとするが、やはり動画であられもない姿を見ている所為で、どうも頭に浮かんでしまう。


「何を考えてるの……?」

「わぁー!」


 突然、鹿島が恭兵の目の前に顔を出してきた。


「もしかして、相川さんのアレの姿でも想像してた?」


 ギクッ‼


「……何でそうなるんだよ?」


(そうだけど……)


「今、ギクッ、っていったでしょ?」


 ギクッ‼


「――って、俺で遊ばないでくれます?」

「ちっ、バレたか……」


(本当に遊ばれてた!)


 まるでイタズラに成功した悪ガキのように、楽しそうな笑みを浮かべる鹿島に、恭兵はムッと口を尖らせた。

 すると、脱衣室のドアが開き、風呂上がりの芽愛が出てきた。

 後ろ髪はポニーテール状に縛られ、今まで着ていたミントグリーンのダッフルコートではなく、鹿島から借りたのか、Tシャツに短パン姿だ。

 これがまた、芽愛のボディーラインを強調しており色っぽい。

 とりあえず何のトラブルも――ゴキブリも――無く、出てきたので恭兵としても色んな意味で安心できたが、1つ気になるのは、風呂上がりにしては芽愛の頬が少し赤く、口元も硬く閉ざされているようにも見えることだ。


「あのー、芽愛ちゃん……?」


 恭兵が恐る恐る芽愛に声をかけてみると、芽愛が薄っすらと口を開ける。


「……いで……ださい……」

「えっ?」


 小声でちゃんと聞き取れないため、恭兵が聞き返した。


「あんまり見ないでください、恥ずかしいです!」


(抵抗あったんだ!)


 女の子として、あまり見られたくない格好だったのだろう。先ほどよりも顔を真っ赤にしていた。

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