第11話 すれ違い 第二章END

 学校から無事に脱出した恭兵たち。

 恭兵キョウヘイがルームミラーで後方を覗き込んだ。どうやら追っては来ていないようだ。


「どうやら巻いたようだな」


 芽愛メイマイも後方を向いて追手が居ないことを確かめる。

 ホッとした芽愛だったが、「芽愛ちゃん!」、と怒号が聞こえ、驚いて一瞬目をギュッ、と瞑った。


「どうして来たの⁉」

「わ、私は、お母さんを……」

「助けてなんて一言も言ってないでしょ⁉ なのにこんな勝手なことをして!」


 舞はそう言うと両腕を組んでそっぽを向いた。


「…………ごめんなさい」

 

 悲しい。

 たった1人しかいない家族を助けたかったのに、それを理解してくれない。

 悲しさもそうだが、同時に寂しさや孤独……何とも表現できない感情に芽愛の涙は止まらなかった。


「あのさぁ、さっきから黙って聞いてりゃ、アンタそれでも母親か⁉ 彼女がどれだけ心配してたかアンタにわからないのか⁉」


 さすがに舞の態度に恭兵もキレた。

 舞の設定で、わざと厳しく芽愛にあたり、嫌われようとしている――不器用な愛情の裏返しだということを知っているが、いくら何でも酷すぎる。

 命がけ――正確には純潔だが――で助けられたことに感謝されるならともかく、非難される筋合いはないはずだ。


「それよりあなたは何者なの? どうして娘を学校に連れてきたの?」


(なんがムカつく……)


 舞の上から目線な態度に嫌気がさすが、とりあえず質問に答えることにした。


「本当のことを言うけどな、アンタなんかどうでもいいだよ俺は……だけど芽愛ちゃんが、アンタを助けないなら死ぬって、自分で自分の喉を切ろうとしたんだぞ」

「なんですって⁉」


 そう言って舞が一瞬芽愛を睨みつけ、芽愛は下を向いて怯えた。


「俺的には、彼女に死なれても純潔を失われても困るんだ。だから仕方なくアンタも助けた。感謝こそされても、憎まれ口を叩く筋合いはないはずだぞ、違うか?」

「なによ、人殺しの癖に……」

「もう……俺だって好きでやってんじゃ……」


 否定したいのはやまやまだが、舞の言う通り、今の自分は相手がアニメのキャラクターとはいえ人殺しに違いない。


「とにかく、ここからは私が娘を守ります」

「なに⁉」

「これ以上、人殺しと関わると娘にも悪影響がでるわ。どこかに行って」


(全く、めんどくせぇ……)


「断る。そのを狙ってるのは、浩次バカ兄貴を含めて、この世界の男全員なんだってさっき言ったよな? 俺の力が必要になるぞ?」

「いいえ、要らないわ――」


 そう言うと舞は助手席に置いてあった恭兵のショットガンを取り恭兵の頭に向けた。

 突然の行動に芽愛も「お母さん⁉」と声を上げた。


「車を止めなさい!」

「お母さん銃を下ろして!」


 必死に訴える芽愛。しかし、ショットガンを握る舞の耳には入らない。

 完全に油断していた。弾薬も殺傷性のあるバックショットに入れ替えたばかりだ。

 恭兵がどうしようと考えていると、突然「えっ⁉」と舞の声が上がった。

 何が起こったのか分からない恭兵は、ルームミラーで舞を見ると、舞の手からショットガンが消えていた。


「どうなってんの?」


〈召喚された銃が他人の手に渡った場合、として消滅します〉


「そういうことを早く言えって、前にも言ったよな⁉」


 恭兵はナビゲーターウォッチに向けて口元をなまはげみたいにしながら怒号を飛ばした。

 その光景を相変わらず「何やってんだろうこの人……」と芽愛と舞、こればかりは親子そろって不思議そうにポカーンとした顔で見ていた。


「とにかく、勝手に動かれると、ここに居るみんなが困るわけだ。とにかく、今は隠れないと――それで芽愛ちゃん、一

「女性の知り合いで、で、人知らない?」

「はい?」


 何とも間の抜けた恭兵の質問に、芽愛も思わず目を点に変えた。


「つまり女性なら芽愛ちゃんが襲われる心配は無いし、建物内なら兄貴も見つけられないから。もし彼氏と同居中の人だったら、芽愛ちゃんが危ないから」

「あぁ、なるほど。そうですね……あっ! 鹿島かしま先生です」

「鹿島? あの保健室の先生?」

「そうです。鹿島先生は今彼氏募集中ですし、アパートで一人暮らし、って聞いてます――ただ、住所までは……」

「私が知ってる」


 舞が突然割ってきた。

 理事長なら自分の学校の教師の住所を知っていてもおかしくないかもしれない。

 しかし問題は、信用しても良いかだ。

 どさくさに紛れて警察でも呼ばれたら困る。

 そこで恭兵は、前を向いたまま左手で拳銃を抜いて自分のこめかみに向けた。


「ちょっと、何やってるんですか恭兵さん⁉」


 芽愛が思わず声を上げた。

 勿論本気で撃つつもりはない。あくまで脅しだ。

 舞の設定では、芽愛に嫌われようとしてはいるが、愛情が全く無いわけではない。娘を守ろうと要求を呑むはずだ。


「1つ言い忘れたけどな理事長さん。俺も死ねばアンタの娘も死ぬ。もし俺を嵌めようとしたり、勝手な行動をとったりしたら、容赦なくアンタの娘も道ずれにするからな。わかったか?」


 勿論そんなことを実際にやっても死んでしまうのは恭兵だけだ。でも舞はそれを知らない。

 舞はというと彼女もまた半信半疑の状態だ。恭兵が死ねば芽愛も道ずれになるなど、どう考えてもあり得ない。

 しかし、突然何も無い所から車を出したりする摩訶不思議な能力がある以上、本当かもしれない。

 自問自答が舞の中で続いていた。

 すると――


「その通りよ。お母さん」

「え?」


(え?)


 突然の芽愛の同意の声に舞は当然だが、恭兵も驚いて目が泳いだ。


「恭兵さんが死ねば、私も死ぬ。間違いないよ」


 芽愛は真剣な顔をしている。はったりで娘がここまで真剣な顔をするのだろうか?

 舞は額から汗を流し、結論を出した。


「わ、わかったわよ……」

「よし。じゃあ案内して――」


 そう言って恭兵は銃を仕舞うと、カーナビゲーションの画面を開き、そしてあることに気づき、ナビゲーターウォッチに問いかけた。


「――このカーナビって、この世界に対応してるの?」


 いくら日本でもここはアニメの世界、現実と全く同じ地域状況とは限らない。


〈はい。この世界で召喚された物はこの世界に対応しています〉


「あいよ――それじゃ改めて、理事長さんよろしくお願いいたします」

「……」


 舞は何が言いたそうな不満な顔を浮かべていたが、鹿島の住所を言い、恭兵がカーナビにその住所を入力した。


(なんだか知らないけど、芽愛ちゃんナイス……)

                               第二章 END

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