第9話 窮地
「
恭兵は頭を抑えながら上半身を起こすと、痛みを振り払うように頭を左右に振ると、さっきまでSKN1があった所へ目を向ける。
SKN1は原型を留めていないほどボロボロだ。
「何で爆発したんですか⁉」
「恐らくロケットランチャーか何かでしょ。爆発する前に、ドン、って聞こえたから多分……」
恭兵が変わり果てたSKN1を見ていると、SKN1の残骸が突然消え、その後に恭兵が身に着けていたSKN1のコントローラー入りのポーチと恭兵が舞に渡した
恭兵は当然だが、ライフルを持っていた舞も「アラ?」と間の抜けた声を上げる。
「どうなってんだ?」
突然装備が消えたことで混乱する恭兵。
〈マシンが消滅したため、マシンに搭載されていた装備も消滅しました〉
「そうなの⁉」
〈そうです〉
「言ってよ、そういう大事なことは!」
ナビゲーターウォッチに向けて文句を言う恭兵。
「誰に言っているの、この人?」
その恭兵を見た舞は首を傾げ、芽愛は「だよね……」と苦笑いしていた。
すると恭兵は
そこには1人の組員が緑色の大きな筒状の物を肩に担いでいた。
AT‐4だ。
軍隊などで使われている対戦車兵器で、その名の通り戦車の装甲も貫く程の威力を持つ。
防弾のSKN1でも、AT‐4には敵うはずがない。
「よう、出たな。吹っ飛ばして――」
バンッ!
恭兵が放つ
芽愛が顔を出し、AT‐4を持つ組員の方を見る。
「よくバズーカ持った相手に冷静でいられますね?」
「もう空だって分かってたから」
「えっ? そうなんですか?」
ガンマニアの恭兵だ、組員が担いでいたAT‐4が空になっていることを既に見抜いていた。
そもそもAT‐4は1発しか撃てない使い捨てタイプ、周りに予備がないことを考えれば見抜くのは容易だ。
「しかし、兄貴のヤツ、よくAT‐4なんか知ってたな……」
いくら暴力団でも軍用兵器を持っているとは――可能性はゼロではないが――考え
だが、感心するよりも今はSKN1が破壊され、恭兵の足がないことが問題だ。
ナビゲーターウォッチを見てもポイントはまだ2つ。マシンの召喚するためにはあと1ポイント足りない。
「あの……」
「何ですか?」
「私の車がありますけど」
舞がそう言うと、車のキーを恭兵に見せた。
「ちなみに車は駐車場に?」
「はい」
恭兵は遠くを見るように目を細めた。
恐らく舞の車が止まっているのは武須田の車が止まっていた駐車場だろう。
昇降口からあそこの駐車場までかなり距離がある。
「ここから駐車場までかなり距離がありますよね?」
「いいえ、すぐそこです」
「え?」
恭兵がキョトンとしていると舞は車が駐車されているところを指差した。
昇降口を出て左、学校の側面のところに別の駐車場があったのだ。
それは良いとしても少し恭兵には気になるところがある。職員玄関から随分離れたこの場所に何故駐車しているのか。理事長である舞が。
そして考えているうちに、お決まりのパターンが待っているような気がしてきた。
「居たぞ!」
廊下の向こうから男の声が聞こえる。追手だ。
「さぁ」
「あっ、ちょっと!」
恭兵の返事も聞かずに芽愛の手を引いて舞は車の所へ行ってしまった。
「あぁ、もう!」
仕方なく恭兵も舞を追いかける。
昇降口を出て学校の側面に移動する恭兵たち。
確かに6台ほどが止められる駐車場があった。
今駐車場にある車は普通のセダンと外車のコンパクトカーの2台。
舞が車のキーを取り出すと、ボタンを押すと、コンパクトカーのドアロックの解除を知らせる警告音とハザードランプが一瞬点滅した。
「さぁ、早く!」
舞は運転席のドアを開けて乗り込むが、恭兵だけは車に近づいた瞬間に車の異変に気づき、しゃがみ込んで車のある場所を見ていた。
「どうしたんですか恭兵さん?」
「これじゃ走れないよ」
「え?」
それを聞いて芽愛は、しゃがみ込む恭兵の視線の先を見た。そこには空気が抜けてペシャンコになったタイヤがあった。よく見るとパンクしたタイヤは1本ではない、後部のタイヤも同じようにパンクしていた。
「ちょっと、どうしたの?」
事情を知らない舞が車から降りてきた。
「お母さん、タイヤがパンクしてる!」
「そ、そんな……」
よほど気に入っていたのだろう、パンクしたタイヤを見た舞の表情はまるでこの世の終わりを知ったような――アニメ本編のエンディングで芽愛が秋葉の奴隷と化した現実を見た時と同じ絶望的な表情を浮かべていた。
それよりも恭兵が考えていたお決まりのパターンがまさにこれだ。万が一逃げられても良いように逃走手段を予め潰しておくのが利口な考え――
(ん、待てよ⁉)
突然、恭兵の中で疑問が湧いた。車に何か細工されるのでは、ということばかり考えていたので気づかなかったが、今考えてみれば、浩次は自分の勝利を確信していたため完全に油断していた。芽愛と浩次の会話を盗聴した時、恭兵に対しての
なら何故、恭兵たちが逃げられた時の対処法を考えていたのだろうか、むしろそこまで頭が回るなら、恭兵の潜入を未然に防ぐ方法も考えていたはずだ。
想定はしていたが、恭兵のマシンのガジェット――ホログラムによるダミー――に気づけなかったのか、それとも誰かが無断でパンクさせたのだろうか。
しかし浩次のスキル「キャラコントロール」を無視して組員が独断で行動するのだろうか。
今の恭兵には分からなかった。
「こっちだ!」
男の声が聞こえた。ドアロックを解除した音で気づかれたようだ。
「どうしよう……」
そう舞が呟いた。追い詰められた獲物のように表情は怯えている。芽愛も同じ表情をしていた。
恭兵がナビゲーターウォッチを見ると、ポイントは2つ。新たに
次第に近づいて来る足音。恐らく2人だ。
恭兵は背中に背負った
しかし、リーンバック弾のままだったので相手を殺傷する程の力はない。
リーンバック弾を足に受けた組員は、その足を引きずりながら建物の陰に隠れた。
その隙に恭兵と芽愛も舞の車の陰に隠れた。
「これじゃダメだ。リロード、12ゲージバックショット・
〈弾数は?〉
「7発」
〈召喚します〉
すると恭兵の前にショットガンの弾が7発現れた。
バックショットとは、主に中型動物の狩猟の他、海外の軍や警察の戦闘など幅広く使われる弾薬だ。
普通の銃弾と違い、銃口を出るとある程度弾が散らばるので着弾範囲が広く、多少狙いがズレても命中する可能性が高く、まともに当たればダメージも大きい。
ただ、拳銃などのようにライフリングによるジャイロ効果が無いので、その分、有効射程が数十メートルと短いが。
しかし、バラバラの状態で召喚された為、ちゃんとチャッチ出来ず、いくつか地面に落としてしまった。
「これ面倒だな」
恭兵は弾を拾い、ショットガンに装填し、
「あいつら何で逃げないんだ?」
リーンバック弾を受けた組員が近くに居た銀髪の組員に訊いた。
「ああ、念のためにタイヤの空気抜いておいたんすっよ」
「なに?
「いいえ。兄貴から周りを見張るようにはいわれましたけど、
その組員の会話は恭兵の耳にも入った。
どうやら直接浩次の命令を受けなかった組員が、独断でタイヤをパンクさせていたようだ。
謎が解けたところで、再び恭兵はナビゲーターウォッチを覗いた。まだポイントは2つだけだ。
その間にも組員の銃撃が行われた。組員も陰から適当に撃っているので恭兵に当たることはなかったが、身動きが取れない事実に変わりはない。
「クソ、早く溜まれよ!」
ナビゲーターウォッチを睨んでいると、スキルポイントのランプが新たに点灯。
「よし! オーダー、マシンGKS
するとナビゲーターウォッチのディスプレイにワイヤーフレーム状の車が表示された。
〈GKS8。召喚します〉
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