第7話 決別

 昇降口の前でSKN1を見張る6人の男たち。

 車の中に居る恭兵を見張るだけなので暇だ。

 その中でスキンヘッドの男だけは違和感を覚え始めた。


「しっかしこいつ、随分大人しいな……」


 そう恭兵が明らかに大人しすぎるのだ。腕を組んでいる態勢から全く動こうとしない。

 スキンヘッドの男は恭兵キョウヘイが座る運転席の窓を叩いた。

 しかし、恭兵は全く反応がない。


「おい!」


 今度は拳で、ドンドン‼ と窓ガラスを叩くが、やはり反応がない。


「おい、無視してんじゃねぇよ‼」


 無視されることに腹を立てた男が車に体当たりした。

 すると、運転席に座る恭兵に映像ノイズが走ったように乱れた。


「な、何だ⁈」


 男は目を丸くした。人間にノイズが走るなんてありえない。

 そう、この恭兵はホログラムによる偽物。

 それに気づいた直後、ガシャン、というガラスが割れる音が聞こえた。


「おい、まさか……!」


 スキンヘッドの男は慌ててスマフォを取り出し浩次コウジを呼び出した。

 

                 〇


 机の上に置いてあった浩次のスマフォが鳴った。相手は昇降口に居るスキンヘッドの男からだ。

 恭兵がスマフォを通話にすると、慌てた口調の男の声が出る。


『すみません。ここに居る男は偽物です!』

「……。この役立たずがぁぁぁ‼」


 浩次がスマフォに向けて怒号を飛ばした。


「だってさ」

『ん⁉ 誰だてめぇは⁉』


 ガシャン!

 恭兵はスキンヘッドの男を無視して通話を切る――というよりスマフォを拳で叩き壊した。


「き……貴様……」


 恭兵は秋葉あきばの方へ目を向ける。

 秋葉は自分のムスコを抑えながら恭兵を睨んでいた。


「よう、秋葉。あの時素直に死体でいれば、そんな思いしなくて良かったのになぁ」

「てめぇ……ぶっ……こ――」


 秋葉が言い切る前に、恭兵はライフルの引き金を引き、秋葉の眉間に風穴を開けた。

 それを見た芽愛メイマイが「え゛ぇ!」と声を上げた。せめて最後まで言わせてあげなよ、ということもあるが、何より躊躇ちゅうちょもなく引き金を引いた恭兵に愕然としたという感じだ。

 すると恭兵は芽愛に向けて一言。


「こいつ嫌い」

「……。そうですか……」


 それを聞いた芽愛は顔を引きつらせていた。襲われそうになったことで秋葉のイメージは最悪になったが、それでも殺して良いのかは別問題だ。


「芽愛ちゃん、お母さんのところに」

「は、はい!」


 芽愛は舞の元へ駆け寄ると、舞の両手を縛っているロープをほどき始めた。

 その舞は仏となった秋葉を見て、何か複雑な表情をしている。


「……なぁ、恭兵?」

「ん!」


 撃たれた足を引きずりながら、壁に背を掛ける浩次を恭兵が、ギロッ、と睨む。


「し、仕方なかったんだ。俺だって死にたくない。だから仕方なく彼女の母親を……」

「ほう、そうか……仕方ないよね、どっちかが死ぬことになるんだし」

「そ、そうだ。本当はお前を助ける方法もあるかもと思って……」


「『底辺』で『ゴミ』で『優秀な僕こそ生き残るべき』だったっけ?」


「な、何でそれを? はっ!」


 浩次は慌てて自分の口を抑えた。


「実を言うとな、彼女のヘアピンもマイクになっていてね。全部聞いてたよ。詰めが甘かったな」


 浩次は恭兵を睨みつけた。


「信じていたのに残念だよ、クソ兄貴!」


 そう言って恭兵はライフルで浩次の心臓を撃った。

 浩次は「ウッ‼」と声を上げて倒れる。

 恭兵は芽愛と舞の方へ向いた。ちょうど舞を縛っていたロープを解いたところだ。


「行こう、長居は無用だ」

「はい――お母さん」


 芽愛は芽愛の手を引くと、恭兵に続いて理事長室を後にした。

 

                 〇


「あう……あの野郎……」

 

 死体だけが並ぶ理事長室で浩次はスキル『不死身』によって蘇生された。


「ヒール……」


 ヒールとはユニークスキル『自己再生』を発動する時に唱える言葉だ。

 それを使うと、傷口から恭兵に撃ち込まれたライフル弾の弾頭が抜け出る。

 いくら死なないとはいえ、銃弾を受けた激痛は本当に不快だ。


「ぶっ殺す!」


 殺意を覚える浩次だが、激痛がまだ収まらず、しばらくその場から動けなかった。

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