第6話 作戦(後編)
特殊部隊の隊員になったかのような気分だが、今はそんな気分に浸っている場合ではない。
スコープで確認する限りでは見張りは居ないようだ。
『ようこそ、芽愛ちゃん』
恭兵のインカムから
辺りを注意しながら理事長室がある場所まで突き進む。
その後もインカムから舞が芽愛を怒鳴る声が聞こえ、その後に「親子喧嘩はそこまでにしてくれないか?」と浩次が制止する声が聞こえる。
『本当に可愛い』
(おい、もう始めるつもりかよ兄貴⁉)
やはり自分を敵として見ているのだろうか。それともただ見たままの印象を語ったのか……
そんなことを考えながらも、恭兵は何とか誰にも見つからず理事長室に辿り着いた。予想通り窓はブラインドが下げられ、室内の様子はわからない。
恭兵はライフルのスコープを使って室内を覗き込んだ。
中には6人。全員ガイコツ状態で誰かは判別が難しいが、恭兵から見て左奥に立つ2人の間に正座させられている人が恐らく
部屋の中央付近には2人、1人は芽愛で間違いない。その芽愛に迫るような態勢の人間が浩次だろう。
しかし、どれが
すると、浩次は芽愛から何かを取ると、床にそれを落とし、踏みつぶした。
恭兵のインカムからも、ガシャ、という音が聞こえる。
『無線でやり取りとは考えたな。だがあいつは馬鹿だな、キミの髪型と奴が耳にインカムを付けていれば誰だって盗み聞きすることくらい分かるのに』
(あいにくダミーだよ、兄貴)
その後に芽愛と浩次が会話を続けると、盗聴の恐れが無くなったと油断した浩次は、恭兵のことを「底辺」や「ゴミ」呼ばわりした後、「両親もそう思っているよ」、と付け加えた。
芽愛がそれを否定してくれたことがとても嬉しい反面、浩次に対して憎しみが沸々と湧き、ライフルのグリップを握る手にも自然と力が加わる。
その後も芽愛が浩次に色々抗議をするが、それでも浩次の恭兵に対する罵倒は止まらない。
『関係ないよ。優秀な僕こそ生き残るべきなんだ……まぁ、うっぷん晴らしが出来なくなるのは惜しいが』
(うっぷん晴らし?)
『ああ、ついでだから教えてやろう。実は俺があいつの小説評価を下げていたんだよ。あんなゴミの小説がこの世に有っても何の意味もない。だから潰そうと思ってね、ハッハッハッ!』
高笑いをする浩次の声を聞いた恭兵。騙されていたことに悔しさを薄っすら浮かべ歯を食いしばった。
浩次はあの
一時的とはいえ、浩次が相手だということで自分が犠牲になることも考えたが、そんなことを考えていた自分が馬鹿にも思えてきた。
そう考えているうちに悔しい気持ちが、やがて怒りに変わり、恭兵の目にメラメラと炎が灯る。もう迷うことはない。
『さぁ、楽しもうか』
そう言って芽愛を浩次が押し倒した。
(ぶっ殺す‼)
恭兵はライフルのセイフティーを解除し、引き金に指を置く。
『止めて‼ 娘には手を出さないで‼』
『おい、そいつを黙らせてくれないか?』
『はい』
浩次の声の後に秋葉の声が聞こえ、席から舞の方へ動く影を確認する。
(お前が秋葉か……)
『止めてください秋葉先生。私は何もしませんから』
必死に秋葉を説得する芽愛の声。
浩次を狙撃したいが机の陰になっている為狙えない。
「芽愛ちゃん、お母さんに伏せるように言って!」
恭兵の指示を聞いた芽愛が舞に伏せるように叫んだ。
スコープを通して舞が床に伏せたことを確認すると、恭兵は舞の両脇に居た男たちの頭に狙いを定めて引き金を引いた。
『何だ⁉ ――』
秋葉がうろたえ、周りをオロオロと見回している姿が見える。
すると恭兵は秋葉の下半身にある急所に照準を合わせ、引き金を引いた。
『――うっ、あぁぁぁ!』
秋葉は下半身を抑えで蹲り、その声を聞いた見張りの組員が「どうした⁉」とドアを開けて部屋に入ろうとしていたため、その組員も狙撃。
理事長室が手薄になったことを確認すると、恭兵は助走をつけてジャンプ。
窓を蹴り破ると軽やかに着地を決めた。
これが恭兵の作戦の全貌だ。
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