第5話 作戦(前編)
時間は遡り。学校へ向かう途中のSKN1の中。
「分かりました――でも、どうするんですか?」
勿論、恭兵にも考えがある。もっと言えば今の恭兵にはSKN1というマシンのお陰で、自分の書くノベルさながらの作戦が浮かんでいた。
「俺が指示するよ、まずはこれ」
恭兵はグローブボックスから大き目のヘアピンを取り出した。
見た目はただの黒い
ただ決定的に違うのは、裏面には何やら装置が付いており、恭兵はそれの電源を入れ、芽愛に渡した。
「これを右耳の上あたりに付けて」
そう言って恭兵は自分の耳の上の側頭部の辺りを指差した。
芽愛は言われた通りに、ヘアピンを右耳の上に付ける。
そして恭兵はグローブボックスからインカムを取り出すと、電源を入れ、チャンネルだろうか、横に付いている小さな摘みを回して左耳に付けると、マイクの部分を手で覆い小声でしゃべった。
「……これで聞こえるはずだ」
「えっ⁉」
芽愛が驚いて声を上げた。それも無理はないだろう、突然頭の中で恭兵の小声が聞こえたのだから。
「実はそのヘアピン、骨伝導イヤホンを内蔵したインカムになっているんだ」
「凄い……」
「それと、そのバレッタを外して左耳を髪の毛で隠してくれないか?」
「はい……」
理解は出来ていないようだが、恭兵の言う通り、バレッタを外し髪の毛で左耳を隠した。
そして恭兵はグローブボックスからワイヤレスイヤホンのようなものを取り出すと、電源を入れて芽愛に差し出した。
「これを左の耳に付けて」
「2つも付けるんですか?」
ヘアピンのインカムがあるのだから、わざわざ別の物を付ける必要な無いと考えるのが当然だろう。
「それは囮。そのヘアピンのインカムに気づかれ難くするためのね」
「なるほど」
続いて恭兵はガジェットのボタンの中から「BOX」のボタンを押した。
すると、ウィーン、という機械音が聞こえ、芽愛が後部座席を覗いた。
すると助手席側の後部座席のシートが開き、下からサングラスと、横が長いポーチが現れたのだ。
ポーチは横が25センチ、縦は15センチほどの大きさで、フックが付いている。
「何ですかそれは?」
「後で説明する。ゴメン両方取って」
芽愛はポーチとサングラスを手に取った。
恭兵はそれを受け取り、ポーチのフックをズボンに引っ掛け、サングラスを額のところに掛けた。
(ただ問題は、どこで入れ替わるか……)
浩次のユニークスキル『上空遠隔視』を遮る場所だ。
スキルナビゲーターが言うには、屋根など上空から遮る物があれば覗かれる心配はない。その場所が果たしてあるのかどうか。そしてどのタイミングで『上空遠隔視』を発動しているか。
正直賭けに等しい。
そして学校の正門に続く十字路が見えた時、恭兵は視線を上へ向けると、何かに気づいて、
「ここなら……」
車の真上は、木の枝がトンネルのように覆われている。
これなら浩次の『上空遠隔視』を使われても様子はわからないだろう、と考えたのだ。
「芽愛ちゃんはこのまま乗っていてね」
恭兵は、後部座席にある
トランクを開けると、奥の方へ手を伸ばし、本来のトランクルームより手前の位置が壁になっているが、上部にロックがあるのか、恭兵がそれを解除すると、壁は手前に倒れるように外れた。
するとその壁の上部に取っ手が現れる。これは壁にカモフラージュしたガンケースだった。
ケースの大きさは、縦が30センチ、横は70センチ、厚さは20センチほどの大きさだ。
恭兵はケースから伸びるスリングを肩に引っ掛けると、トランクを閉めて、SKN1の上を覆っている木の陰へ向かった。
ガンケースを木の側に置いてそれに座ると木に寄りかかった。即席の椅子の為、座り心地が悪い……
続いて恭兵はポーチを開けて中身を取り出した。
中には少し横に伸びたゲームのコントローラーのようなものが現れた。両端の部分に丸いスティックが1つずつあり、コントローラーの中央にはカバーのようなものがある。
カバーを開けるとカバーの裏側の部分には液晶モニターになっており、カバーに覆われていた部分の下には、一部だがSKN1のガジェットの名前が書かれたボタンが並んでいた。
恭兵は額に引っ掛けていたサングラス型のVRゴーグルを掛け、コントローラーの下部にあるスイッチを入れる。
コントローラーのモニターにローディング画面が表示され、それが終わると、ゴーグルの中に運転席から見たSKN1の車内が映し出された。
少し映像が透けて恭兵が居る公園の様子が見えるが、それはゴーグルを着けている間も周りの様子を確認出来るようにする為だ。
『えっ、いつの間に戻ったんですか⁉』
イヤホンから芽愛の驚いた声が聞こえる。そして恭兵が左を向くと、それと連動して芽愛が居る助手席の映像が映し出された。
まるで今、本当に運転席に居るかのようだ。
芽愛は混乱しているのか、本物の恭兵と運転席に現れた恭兵をワタワタしながら交互に見ている。
「実はホログラムになっているんだ」
『え? ――あっホントだ』
芽愛はホログラムの恭兵に触れながら言った。
「ちなみに、このサングラスを通せば運転席に居るのと同じようになるんだ」
『す、すごい……』
「さぁ、行くよ」
恭兵はコントローラーの右スティックを少しずつ倒した。それに合わせてSKN1がゆっくりと前進を始める。
使い慣れていない為、やっぱり緊張してしまう。
1人で車内に座る芽愛も、その表情は少し怖そうだ。
何とか十字路を右へ曲がり、上り坂の一本道を通って門のところまでたどり着くと、スキンヘッドのポッチャリとしたチンピラが「止まれ」と手を振っていた。
あとはスキンヘッドの男に誘導され指示された場所で停車した。
ガラの悪い男が助手席のドアを開け、芽愛を下ろすと、恭兵もドアに手を掛ける仕草をした。
予想通りスキンヘッドの男にドアを抑えられ、「もしお前が降りたら、
恭兵は「……わかったよ」と言って一度下の方を向いて、リモコンにあるホログラムの一時停止ボタンを確認。
そして恭兵は両腕を組んでシートに深く座った――実際は振りだが。
助手席の方へ向くと、恭兵に振り返っては訴えるような目で見てくる芽愛と目が合った。
恭兵は、首を縦に振り、それを見て芽愛も首を縦に振り返して暴力団風の男について行った。
そして再びシートに深く座り込んだ仕草をしたところで、一時停止ボタンを押した。
ゴーグルの中に「STOP」の文字が表示されると、恭兵はゴーグルを外し、さっきまで椅子代わりにしていたガンケースを開ける。
中には2つに分解されたAR‐15があり、恭兵はそれを手に取ると、慣れた手つきで組み立て、最後に
続いてガンケースのスリングを外し、ベネリM4本体に取り付けて背中に担いた。
AR‐15を手にするとライフルスコープに付いている装置の電源をオンにしてスコープを覗いた。
スコープの中では周りの風景が緑色になっており、一部壁などが透けて見える。
このライフルスコープはX線機能が付いているのだ。
障害物でも、ある程度の厚さならこれで中を確認出来る。
スコープの性能を確認し、周りを確認しながら学校の門の方へ覗き込んだ。
門のところにいる暴力団風の男たちは全員、SKN1か学校の方へ注意が行っている。敵が恭兵1人と思い込んで油断しているようだ。
恭兵は男たちを無視して先へ急いだ。
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