第4話 浩次と対面

 学校の門前――

 チンピラ風の男が「こっちだ」と誘導し、恭兵キョウヘイSKN1は昇降口の前で止まった。

 昇降口の周りには男たちが6人、どれも暴力団風のガラの悪い奴らばかりだ。


「よく集めたなこれだけ……」


 恭兵が周りを見て感心していると、その1人が助手席のドアを開け、芽愛メイに手を差し伸べた。この行動だけならエスコートする紳士だが、目つきはどうもイヤらしい。

 芽愛は男の手を取り、車からゆっくり降りた。

 その芽愛は少し長めの黒いしずくのような形のヘアピンを右耳の上に付け、トレードマークだったバレッタを外して左耳を隠す様な髪形へ変えていた。


「さてと……」


 恭兵も降りようとすると、突然スキンヘッドの男が運転席のドアを、ドン、と押さえた。


「降りるのは彼女だけだ」

「そうはいくか。1人にしたら――」

「――もしお前が降りたら、女は死ぬ」


 恭兵はスキンヘッドの男を睨みつけた。


「……分かったよ」


 そう言って恭兵は一度下に視線を向けた後、両腕を組んでシートに深く座り込んだ。

 1人で行かされる芽愛は、やはり不安なのだろう、恭兵に振り返っては訴えるような目で見ていた。

 恭兵は、大丈夫、と首を縦に振り、それを見て芽愛も、わかった、と首を縦に振り返し、覚悟を決めて暴力団風の男について行った。



 理事長室の前に連れられた芽愛。その表情にはとても硬い。

 お母さんは無事なのか?

 暴力団風の男がドアをノックして開けると、芽愛に向かって、入れ、と親指で室内を指差した。

 芽愛が部屋に入ると、真っ先に目に入ったのは、本来なら舞が座っているはずの席。

 しかし、今座っているのは、眼鏡を掛けた金髪の男・浩次コウジだ。その脇には秋葉あきばが立っていた。

 浩次の後ろにある窓には、外から様子を見えないようにするためなのだろうか、ブラインドが下ろされていた。


「ようこそ、芽愛ちゃん」


 浩次は馴れ馴れしい口調で芽愛を歓迎する。

 その目つきはニヤつき、下心が見え見えだ。


(この人が、恭兵さんのお兄さん……)


 芽愛が浩次を睨むと、横から怒号が飛んで来た。


「どうして来たの⁉」

「……ッ‼」


 怒号に驚いた芽愛は、ビクッ、と体を跳ね上げた。

 芽愛が部屋の隅の方へ向くと、そこ居たのは舞だ。

 舞は縛られているのか、両手を後ろに回した状態で床に正座させられていた。

その両脇には男たちが立っている。


「『構わないで』って言ったじゃない。どうして言うことが聞けないの⁉」

「だって……私は……」


 何で言えば良いのか分からない。

 そのまま舞を見捨ててしまえば、きっと後悔しただろう。

 でも舞には分かってもらえないようだ。

 芽愛は悲しい気持ちからうっすら涙を浮かべた。


「親子喧嘩はそこまでにしてくれないか?」


 浩次は席から立ち上がり、芽愛へ近づくと、芽愛の顎を掴み無理やり顔を向けさせた。


「本当に可愛い」


 浩次の目つきは相変わらずニヤ付いている。このままではが奪われるのではと思っていると、突然浩次は左耳を隠していた髪に手を伸ばしそれを上げた。

 芽愛の耳にはワイヤレスイヤホンのようなものが。

 浩次はそれを取ると、床に落とし踏みつぶした。


「無線でやり取りとは考えたな。だがあいつは馬鹿だな、キミの髪型と奴が耳にインカムを付けていれば誰だって盗み聞きすることくらい分かるのに」


 芽愛は浩次を睨んだ。


「あなたが恭兵さんのお兄さんですか?」


 浩次は一瞬真顔になると、再びにやけた顔に戻った。


「その通り。あの底辺から聞いたのか?」


 底辺?


 一瞬耳を疑った。

 恭兵から聞いている浩次の印象と感じが違うような気がする。


「『底辺』って恭兵さんのことですか?」

「その通り。ヲタクで頭は悪い、そもそも高校を定時で卒業するような奴だぞ。あいつは社会のゴミだ」

「恭兵さんはゴミじゃない!」


 あまりにも非人道的な浩次の言葉に芽愛は反論した。

 本当に恭兵の兄なのだろうか? と。


「いいや、ゴミだ。……本当に目障りなんだよ。あんな底辺、生きていて何の価値もない。僕の両親もそう思っているよ」

「なんですって⁉」


 芽愛は雷に打たれたような衝撃が走った。

 実の両親が自分の子供にそんな酷いことを言えるのかと。


「あなた……恭兵さんを騙していたんですか……? 恭兵さんはあなたのことを……」


 必死に訴えかけるように話す芽愛に、浩次は相手を見下す様な不敵な笑みで、こう返した。


「関係ないよ。優秀な僕こそ生き残るべきなんだ……まぁ、うっぷん晴らしが出来なくなるのは惜しいが」

「うっぷん晴らし?」

「ああ、ついでだから教えてやろう。実は俺があいつの小説評価を下げていたんだよ。あんなゴミの小説がこの世に有っても何の意味もない。だから潰そうと思ってね、ハッハッハッ!」

「……」


 芽愛は浩次を睨んだ。

 恭兵を見下す浩次に芽愛の中で怒りが沸々と湧いてくる。「どうしてだろう」と思いながら……。


「さぁ、楽しもうか」


 そう言って浩次は芽愛を押し倒した。


「止めて‼ 娘には手を出さないで‼」

「おい、そいつを黙らせてくれないか?」


 すると秋葉が「はい」と言い、舞に近づいた。


「止めてください秋葉先生。私は何もしませんから」


 芽愛は舞に何かされるのではと思い、必死に秋葉を説得した。


い子だ。まぁ安心しな、キミの初めてを貰えればそれで母親は返してやるから」


 浩次はスケベ丸出しの目つきで、芽愛のダッフルコートに手を伸ばした。

 すると――


「お母さん伏せて!」


 芽愛が突然叫ぶと、舞は一瞬状況が呑み込めなかったが、すぐに芽愛の言う通り、床に伏せた。

 その時だ。

 窓ガラスに穴が続けて2つ開くと、それに合わせて舞の両脇に立っていた男たちの頭に風穴が開いた。

 狙撃だ。


「何だ⁉ ――うっ、あぁぁぁ‼」


 突然倒れた男たちにパニックを起こす秋葉にも窓の外から飛んで来た銃弾が当たった――しかも男の急所に……。

 撃たれたムスコを抑えながら秋葉が床に蹲ると、秋葉の声を聞いて、先ほど芽愛を連れてきて部屋の前で待機していた暴力団風の男が「どうした?」と部屋に入って来て――


「――うっ‼」


 までは良かったが、すぐに窓から撃ち込まれた銃弾に倒れた。


「おい……どうなっている⁉」


 状況が理解できない浩次が右へ左へと向きながらパニック寸前の心境に陥っていると、ガシャーン‼ と窓硝子をキックで破る人影。

 恭兵だ。

 軽やかに着地した恭兵の背中にはショットガンベネリM4を背負い、手にはライフルが握られている。


 ライフルはアメリカ製、AR‐15のカスタムガン。

 軍や特殊部隊などで使われているM4アサルトライフルの連射フルオート機能を外して民間用にしたセミオートライフルだ。

 通常より短いショートバレルの先には、銃声を抑える為のサイレンサー。

 フロントのハンドガード部分はフラッシュライトやレーザーサイトなどのオプションパーツを取り付けるためのレイルシステムが搭載。熱い銃身から遠ざけ、反動を効果的に押さえるためのフォアグリップが付けられている。

 アッパーレシーバーにあるローマウントには、中間に何やら機械が取り付けられたライフルスコープが取り付けられていた。



「よう、クソ兄貴……」


 恭兵は立ち上がり、ライフルAR‐15を浩次に向けた。

 浩次を見る恭兵の目は、憎悪に満ちている。仇の相手を見るように。


「恭兵⁉」


 驚く浩次の足に目がけ恭兵は引き金を引いた。

 放たれた銃弾は浩次の左足を撃ち抜き、激痛から浩次は足を抑えた。スキルで『不死身』だとしても痛覚はそのままのようだ。

 浩次が悶える隙に芽愛は浩次を突きはなし、壁に寄った。


「き、恭兵……何でここに⁉ 車に居たんじゃないのか⁉」


 浩次が恭兵に訊いた。

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