第3話 学校へ

 辺りはすっかり暗くなり、所々建物の明かりが目立ち始めた頃。

 恭兵キョウヘイ芽愛メイを乗せたSKN1は学校へ向かっていた。


「恐らく秋葉あきばのバックには俺の兄貴が居る」

「恭兵さんのお兄さんですか?」

「ああ。名前は浩次コウジ。今の俺の敵でもある……」

「お兄さんとは仲が悪いんですか?」


 恭兵はしばらく考え込んだ。


「ちょっと調子に乗る所があるけど、優しい兄貴だよ。兄貴はクズ両親と違って俺のことを気にかけてくれるし、よく遊んだよ。偶に俺が書いているノベルのアドバイスをくれるし――あっ、俺ノベル作家を目指しているんだ。で、兄貴は既にデビューしているプロ作家なんだ」

「そんなに優しいお兄さんが、どうしてお母さんを?」

「状況は俺と同じ、ただ違うのは、兄貴はキミを狙っている。キミのを時間内に奪わないと死ぬんだ」

「そうなんですね……」

「とにかく、お母さんを助けたければ俺の言う通りに動いてくれ。それで兄貴の本音が分かる」

「分かりました――でも、どうするんですか?」

 

                 〇

 

 理事長室――

 浩次はユニークスキル『上空遠隔視』を使い、学校へ向かう恭兵が乗る車を見ていた。

 恭兵の車は問題なく学校へ向かっているようだ。

 しかし、浩次は真剣な顔をしている。

 恭兵の車は学校と隣接する国道を走り交差点を右折。後はその突き当りの十字路を更に右に曲がれば学校の正門に通じる上り坂の一本道。

 なのだが……

 恭兵の車は、十字路の手前に差し掛かった所で、停車した。

 最悪なことに高い木に覆われている為、上空からでは様子が見えない。


「――。やっぱり……」


 浩次の脳裏に、恭兵が学校に潜入しようとしているのでは、と直感した。

 正門に居るアロハシャツを着たチンピラに様子を見に行かせようとトランシーバーを手にした時だ。時間切れになり『上空遠隔視』のスクリーンが消えた。


「クソッ! おい、男が潜入したかもしれない、警戒レベルを上げろ!」


 浩次はトランシーバーを置いて代わりにスマフォを手に取り、校門に居る男を呼び出した。

 相手は浩次のスキル『キャラコントロール』を使って配下に収めた本物の暴力団だ。

 浩次のユニークスキル『キャラ武装』だけでは、万が一の時にポイントが足りなくなる可能性がある。だから自前の武器くらい持っているだろう暴力団を使うことにしたのだ。

 同時に組の人間全員を学校のあちこちに配備している。

 電話が繋がると、スマフォの画面にポッチャリとしたスキンヘッドの男が映し出された。


「おい車を確認しろ、男が乗っていないかもしれない。ただ気づかれるなよ」

『へい!』


 スキンヘッドの男がスマフォのカメラを校門から入ってくる恭兵の車へ向けた。

 さっきの武須田やパトカーとのカーチェイスの時に見た恭兵の車は普通ではなかった。

 もしかしたら無人で動くくらいは出来るかもしれない。

 車に注意を引きつけて本物の恭兵は学校に潜り込むという作戦もあり得る。

 すると――


「なに?」


 窓が半開きの運転席には、変なサングラスと耳にインカムを着けているが、確かに恭兵の姿があった。


『どうですか?』

「いるなら問題ない……だが男は降ろすな、女だけだ」

『了解』


 浩次は電話を切った。

 考え過ぎだったようだ。

 恭兵の無能ぶり同時に間も無く勝利が確定すると思い、勝ち誇ったような笑みを浮かべながら、浩次は芽愛が部屋に来るのを待つことにした。

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