第10話 恭兵VS警官

 恭兵キョウヘイがハンドルを握るSKN1の後ろにぴったりくっついてくるパトカーのスピーカーから『前のスポーツカー、ゆっくり左に寄って停車しなさい!』と警告が発せられる。


「止まった方がいいんじゃないですか?」


 芽愛メイが心配そうに恭兵に訊いた。


「いやダメだ。止まったらキミが襲われる! ……多分……」


 今までの男という男が芽愛に対して行っていることを考えると、警官も芽愛を襲う可能性が高い。

 交差点を抜けると、道路も二車線へ減り狭くなる。それよりも一般車が殆ど走っていないことに不気味さが増した。

 次の装備を使おうと考えるが、緩やかなカーブに差し掛かってしまい、断念。

 どうも嫌な予感がする。

 カーブを曲がった先で恭兵の目に飛び込んできたのは、交差点の手前でパトカー2台がバリケードのように横に停められていたのだ。最悪なことに道路の中央は 横道などは一切ない。


「くっそ‼」


 恭兵はブレーキを思い切り踏んだ。

 何とかぶつかることなくパトカーと数メートルの距離で止まることが出来た。

 更に後ろから追いかけてきたパトカーもいつの間にか2台に増えており、道路を塞ぐように横滑りして停車。

 恭兵たちは袋の鼠だ。


「どうするんですか?」


 芽愛が不安そうに恭兵に訊いた。


「大丈夫。まだこの車には――」


 恭兵が言いかけた時、前後から警官たちが一斉に拳銃を構えた。


『人質を解放しろ! さもなければ発砲する』


 パトカーの拡声器から再び警告が発せられた。


「おいおいおい……」


 恭兵は顔を引きつらせた。

 無茶苦茶だ。

 人質――ではないけど――が居るのに「発砲する!」など常識知らずにも程がある。

 仕方ない、と恭兵はあるボタンへ手を伸ばした。

 すると、警官の警告を真に受けた芽愛がドアを開けて外へ出てしまった。


「おい待て!」


 芽愛を追いかけようと恭兵がドアを開けた瞬間。


「撃て!」


(ヤベッ‼)


 警官たちが恭兵に向けて一斉に拳銃を発砲。

 間一髪恭兵は車内に戻り銃弾を受けなかった。

 それでもやっぱり無茶苦茶だ。

 いきなり発砲するなどアメリカの警官でもしないことだ。

 事実武装はしているが、警官に銃を向けたわけではない。


「撃たないでください!」


 芽愛が警官に駆け寄った。


「おお、無事でしたか。さぁ、こっちに!」


 警官は芽愛の両肩に手を置き守るような形でSKN1から遠ざける。


「違うんです。あの人は私を助けようと――」


 芽愛は恭兵の無実を証明しようと警官に話しかけた。

 警官はバリケード代わりしているパトカーの向こう側、道路に沿って止められているパトカーへ芽愛を誘導し、後部座席のドアを開けた。


「さぁ、乗ってください」


 芽愛は警官に言われた通りに乗ろうとして警官に背を向けた。

 すると突然、警官は芽愛の頭を掴むと無理やり後部座席のシートに押し付け、芽愛の下半身だけが外に出る形になった。


「何するんですか⁉」

「安心して下さい、今助けますから!」


 武須田の時と同じように、いやらしく笑う警官。明らかに芽愛を襲う気だ。

 芽愛の状況はSKN1の中に居る恭兵からもハッキリ見える。

 その恭兵は今、複雑な思いをしている。


 警官に攻撃してもいいのか⁉


 いくらアニメとはいえ、浩次のスキルの所為で狂っている警官に怪我させるのはどうかというもの。

 そうでなくても浩次のことで――唐突に思い出したが――複雑な思いをしているのに、それに追い打ちを掛ける状況に気が狂う思いだった。

 そんなことはお構いなしと、芽愛を押さえる警官は芽愛の下半身へ手を伸ばそうとしていた。


「もう我慢ならねぇ‼」


 自己制御は完全に崩壊。恭兵は、スイッチの中から、あるガジェットのボタンを押した。

 するとSKN1のボンネットにある2つの吸気口エアインテークが上昇、その下の銃が姿を現したのだ。

 更にフロントガラスに立体の照準線が表示された。

 「EMP」の時の照準線とは違い、青い色の小さな「+」の形をしている。

 続いて恭兵はシフトレバー近くにあるディスプレイの操作などを行う時に使うマルチファンクションスイッチを動かす。

 フロントガラスに映し出されている照準線も動き、それと連動して吸気口エアインテークの銃も一緒に動いた。

 恭兵が押したのは「CMGコントロールマシンガン」のボタン。操作によって攻撃する武器だ。

 芽愛を抑える警官に照準を合わせた恭兵は、左横に後付けされた縦に並ぶ3つのボタンから一番上のメガホンのような絵が描かれたボタンを押した。

 これはこの車に付けられた拡声器だ。恭兵が押したボタンの下にはプラスとマイナスのボタンがある。


『芽愛ちゃん、そのまま動くな‼ ――喰らえクソ警官‼』


 恭兵の怒号に芽愛に痴漢をする警官がSKN1の方へ向いた。

 そして恭兵はマルチファンクションスイッチの中心にある「OK」ボタンを一瞬だけ押した。


 バンッ!


 2つの吸気口エアインテークの銃が同時に火を噴いた。

 銃弾は芽愛を襲う警官の頭に当たり、警官は反っくり返る形で倒れた。

 それを見た他の警官が再び恭兵の方へ視線を向けた。

 恭兵の目は憎悪に満ちている。それは警官に対してもそうだが、それよりも恭兵の理性を壊すこの状況に対してのものだ。

 そして恭兵はマルチファンクションスイッチの「OK」ボタンを壊しかねない程強く押し、同時にスイッチをスライドさせた。

 吸気口エアインテークの銃から次々銃弾が発射、同時に銃が動き、恭兵を銃撃する警官やバリケード代わりにしているパトカーに容赦なく銃弾を浴びせた。

 次々とマシンガンに倒れる警官たち。

 それよりも恭兵にとって一番気になったことがあった。


「ちょっとこれ、使い難いな……」


 マルチファンクションスイッチを使ったマシンガンのコントロールが思っていたほど難しい。中央のボタンを押しながらマルチファンクションスイッチをスライドさせると、意外と指が疲れるのだ。

 訂正すべき課題が見つかったところで、そろそろ芽愛を助けに行きたいが、恭兵を攻撃する警官は後ろにも居る。

 そして恭兵はシフトレバーをドライブへ入れ前進。パトカーにゆっくり体当たり。

 パワフルなエンジンに加え、四輪駆動のSKN1は、いとも簡単にパトカーを押し出した。

 唸るようなエンジン音に芽愛もSKN1の方を見て、その光景に目を丸くしていた。

 芽愛が居るところまでSKN1を持って来ると後ろから銃撃してくる警官の視界を奪うため「SMOKEスモーク」のボタンを押した。

 SKN1の後部から大量の白煙が噴出された。

 それを受けた警官たちは「何だ?」と混乱している。

 それを確認すると、恭兵は助手席のドアを開ける。


「早く乗って!」


 恭兵の声に芽愛は急いでSKN1に乗り込んだ。

 更にパトカーを押し出して脱出に成功した恭兵たち。


「逃げられた。何とか食い止めろ!」


 銃撃していた警官の1人が別の仲間へ連絡を入れた。

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