第11話 包囲網からの脱出 第一章END

 その間にも恭兵キョウヘイが運転するSKN1は道路を疾走。

 

「なぁ、芽愛メイちゃん。頼むから勝手に動かないでくれ!」

「ご、ごめんなさい……」


 芽愛は今にも泣きそうな顔をしていた。良かれと思っての行動が逆に迷惑をかけてしまった罪悪感からだ。

 それを見て恭兵も強く言い過ぎたと思い苦い表情をする。どうしても感情が先走って強く言ってしまうところがどうしても嫌いだ。


「あぁ……これから気をつけてくれればいいよ――って!」


 恭兵と芽愛の目に飛び込んできたのは、再びパトカー2台が横向きに道路を塞いでいた光景だ。

 パトカーの前で警官が手を振り停止を呼びかけている。


「芸のない奴ら」

「どうするんですか……?」


 道路が塞がれている状況に不安な芽愛に対して、恭兵は少し余裕があった。

 さっきのパトカーの時は近すぎて使うことが出来なかったが、今度は距離がある。

 恭兵は、ガジェットのボタンの中から「ROCKETロケット」のボタンを押した。

 すると、SKN1の下部のフロントグリルの両脇からフロントグリルを挟むような形で赤い色の弾頭がスライドし顔を出した。


 ロケット弾だ。


 車内ではフロントガラスに照準線が表示された。照準線の色は緑色で、十字の両脇に中括弧ちゅうかっこのようなものが付いた形をしている。


「何ですかこれ?」

「まぁ見てて」


 そう言うと恭兵は「SHOT」のボタンを押した。

 発射されたロケット弾はパトカーに命中、その大きな爆発によってパトカーは枯れ葉のように吹っ飛んだ。

 そしてSKN1は封鎖を突破した。


「ミサイルも付いているんですかこの車⁉」


 SKN1のあり得ない装備に芽愛は目を見開いていた。


「正確にはロケット弾だけど……ん!」


 恭兵がルームミラーを覗くと、後ろからパトカーが追いかけてくる。

 ただし1台だけだ。


「しつこいな……」


 恭兵がイライラしながら言うと、「NAPALMナパーム」のボタンを押した。

 SKN1の後部にあるメーカーロゴの部分が開き、4センチほどの銃口現れた。

 更に恭兵はルームミラーでパトカーがピッタリ後ろに着いたことを確認する。


『そこのスポーツカー、直ちに止まりなさい! 止まれゴラー‼』

「そっちがなゴラー‼」


 パトカーの警告に強く言い返すと、「NAPALMナパーム」の隣の「SHOT」のボタンを押した。

 銃口から何かが発射され、それがパトカーのボンネットに当たった瞬間、パトカーのフロントは炎に包まれた。



「何だ、どうなってんだ⁉」


 突然燃え出したことに警官も何が起こったのか分からずパニックに陥った。

 更に燃え上がる炎によりパトカーの視界が悪くなる。

 運転席の警官はやむなくブレーキを踏み、パトカーを停止させた。 

 


 パトカーの追跡を振り切った恭兵のSKN1はそのまま道路を走り去って行った。


「今の何ですか?」

「ナパーム弾。爆発と同時に燃えるんだ」


 少し得意げに話す恭兵に芽愛が素朴な疑問を投げかけた。


「普段からこんな車を乗っているんですか?」

「普段は乗らないよ……」


 恭兵は苦笑しながら答えた。

 正確には、乗れない、なのだが、スキルで召喚した、と言っても信じてくれないだろう。


「ところであなた、どうして私の名前を知っているんですか?」


 芽愛が尋ねた。

 恭兵にとって芽愛は知った相手だが、芽愛の方は恭兵のことを全く知らない。当然の質問だ。

 とはいえ、どう答えれば良いのか分からない。『アニメで知ってる』と言っても絶対に理解されないだろう。最悪、頭おかしい人、と思われて逃げられてしまうかもしれない。

 そもそも、ここがアニメ世界で、キミはアニメのキャラクターなんです、なんで言ったら――素直に信じるとは思えないが――ショックで抜け殻のようになってしまうか、最悪の場合、パニックになって自ら南無阿弥陀仏なむあみだぶつする可能性もある。

 とくに芽愛がそれを知られたら非常にまずい。自分がおとこたちの娯楽(?)の為に、いかがわしい目に遭うキャラとして作られた存在だと知ったら……。


「えーと、キミのプロフィールを読ませて貰った。キミの家族構成とか、通っている学校とかくらいだけど」

「どうして守ってくれるんですか?」

「キミの……えっと……が奪われると俺は死ぬってことになってる」

「初めて……?」


 想像がついたのか、芽愛は顔を真っ赤に変わる。

 恭兵の方は理解してくれたことはありがたかったが、やはり女の子にこんな話をするのは複雑だった。

 真っ赤だった芽愛の顔はすぐに元に戻り、逆に少し血色が悪くなったようにも見える。


「でも、どうしてそれで貴方が死ぬんですか⁉」

「俺にも分からない。本当かどうかもね。でもヤロウ共がおかしくなっているのは事実だ。それも本当かも……」


 芽愛は思いつめた顔をして恭兵から顔を背けた。


「ごめんなさい……」

「キミが謝ることは何も無いよ」


 そう、芽愛は何も悪くない。

 恭兵がナビゲーターウォッチを見て残り時間を確認した。まだまだ先は長い。


「ところで、あなたのお名前は?」

「あぁゴメン。俺は恭兵。禿かむろ 恭兵。出来れば下の名前で呼んで……ね……」


 そう言って芽愛を見た時、恭兵はあることに気づき慌てて前を向いた。

 今の芽愛の格好は無理やり服を――正確には恭兵のライダースジャケットだが――引き剥がされた状態、今は両手で押さえる形で隠してはいるが、そのままにするのはあまりにも可哀想だ。

 恭兵は自分を落ち着かせるため一度深呼吸をした。


「キミの家に案内して」

「えぇっ⁉」


 芽愛はあからさまに、何をする気ですか⁉ と両腕で自分の体を抱きしめ、怯える目で恭兵を見た。


「ご、誤解しないでくれ、いつまでもその格好ってわけにはいかないだろ、って思って⁉」


 恭兵の言葉に芽愛は自分の今の格好を見て、そして自覚したのか次第に芽愛の顔が真っ赤に変わった。

 恭兵は、やれやれ、っと首を横に振る。

                               第一章 END

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