第9話 武須田の裏設定(?)


 一般車が少なくなり、武須田ぶすだの車を黒い稲妻の如く恭兵キョウヘイSKN1が距離を一気に縮める。


(そろそろ止めるか)


 恭兵はドアとハンドルの間にあるエアコンの通気口の下、駐車時にサイドミラーを畳むための格納スイッチの下にある赤い長方形のボタンを押した。

 すると、格納スイッチがあったところの下から幾つもの名前が書かれたボタンがスライドして出てくる。

 これはSKN1に搭載されているガジェットのボタン。その中で恭兵は「EMP電磁パルス」と書かれたボタンを押した。

 それと連動し、SKN1のフロントナンバープレートが跳ね橋のように開き、中から20センチほどの円盤状の物が少し顔を出した。

 更にフロントガラスには緑色の円の中に十字線が入った立体の照準線が表示。

 恭兵は車をコントロールしながら照準線を武須田の車に合わせ、「EMP」のボタンの横にある「SHOT」のボタンに指を置いた。

 すると――


「え?」


 恭兵は思わず間抜けな声を上げてしまった。

 その理由は、武須田の車の運転席の窓が開いたと思ったら、武須田が上半身を外に出したのだ。


「何やってんだアイツ? ――って⁉」


 身を乗り出した武須田にも驚いたが、更にとんでもない物が恭兵の目に入った。

 武須田の手には拳銃・トカレフが握られているのだ。


「ええぇぇぇ⁉」

「死ねぇ!」


 混乱する恭兵に向かって武須田はトカレフを発砲。

 武須田の放った銃弾は恭兵へ向かって真っすぐに飛び、SKN1のフロントガラス……によってはじかれた。

 SKN1はガラスもボディも完全防弾になっているので、貫通力があるトカレフの銃弾でも撃ち抜くことは出来ない。

 とはいえ、防弾車に慣れていない恭兵は、目の前で銃弾が弾けたことにビビッて目を皿にしていた。


(防弾の設定で良かった……)


 一瞬ホッとする恭兵だったが、その直後にある疑問が湧き声を上げた。


「――ちょっと待て! 何であいつ拳銃なんか持ってんだ⁈ そんな設定なのか⁈ このアニメに⁈」


 どう考えてもあり得ない。

 どんなアニメにも表には出ない裏設定が存在するのは珍しいことではない。

 しかし、エ○アニメに武装した教員というのは明らかに変だ。

 もしかしたら作者の浩次が悪ふざけで設定していたことが今ここで現れたのだろうか。

 恭兵が武須田の謎設定に混乱していると、


〈恐らく――〉


 スキルナビゲーターが状況を説明しようとした。


「――いや後でいい、今はあの車を止めよう!」


〈……〉


 スキルナビゲーターが何かを言おうとしていたが、恭兵はそれを止め再び「SHOT」のボタンに指を置き、狙いを定める。

 照準線が武須田の車と重なった瞬間、恭兵はボタンを押した。

 開いたナンバープレートのところから発射された円盤は、回転しながらものすごい勢いで地面を滑り、武須田の車の下に張り付いた。


 そんなことを知らない武須田だったが、その異変はすぐに気づく。

 何故なら、いくらアクセルを踏んでも加速しない、それどころか気づけば様々な警告灯などが不自然に点滅しエンジンが止まっていたのだ。


「どうなってんだ一体⁉」



 武須田の車は徐々にスピードが落ち、やがて停止した。

 装備が使えたことが嬉しいのか、それを見て恭兵は満足そうな笑みを浮かべている。

 道路の真ん中に止まったのは少々迷惑になるかと思ったが。


 SKN1のガジェットのEMPは、特殊な装置が付いた円盤を標的の車に飛ばし、更に強力な電磁石によって張り付くと、標的の車にのみ影響を及ぼす範囲の電磁パルスを放つことで、車の電子回路を麻痺させることが出来る。

 恭兵のノベルで人質を取られた時に無事に車を止める方法はないか、と考え付いた装備がこれだ。

 最初はSKN1から直接相手の車にEMPを発射する案もあったが、何か出た方がわかりやすいかと思い、この案を使ったのだ。

 ただ、どこまで実現可能かは不明、考えた恭兵も、これはフィクションだから、と割り切っていた……。


 運転席のドアが開き、武須田は拳銃トカレフを手に降りてきた。


「コノヤロー‼」


 武須田は叫びながら拳銃トカレフを撃ちまくる。

 だが、虚しく銃弾は弾かれ、ただでも少ない拳銃トカレフの弾は空に。

 それを見計らって恭兵はショットガンベネリM4を手にSKN1を降りると、武須田の左股関節付近に目がけでビーンバッグ弾を放った。

 それを受けた。武須田は唸り声を上げながら、もがき苦しんでいる。

 急所に直接当たったわけではないが股関節の痛みは相当なものだ。


「……よく教員免許取れたな?」


 流石に恭兵は呆れて愚痴をこぼした。

 拳銃を持っていたこともそうだが、生徒を襲うなど言語道断。現実でも居るそうだが、目の前にそれがいると、やはり腹が立つ。

 それを見た周りの人間が悲鳴や「警察呼んで!」と声を上げていたが、恭兵は全く気にしていない。


「……地獄に落ちろ…………」


 武須田が恭兵に向けて吐き捨てるように言った。


「テメェがなっ!」


 そう言って恭兵は武須田の顔面を蹴って失神させた。

 そして恭兵は後部のドアを開け中に居た芽愛メイの口と両腕を拘束していたガムテープを剥がした。


「……ごめんなさい」

「どうして謝る?」


 突然申し訳なさそうに謝る芽愛に恭兵が尋ねた。


「ジャケットが……」


 芽愛はボタンの取れた恭兵のライダースジャケットを掴んで恭兵に見せた。


「ああ……気にしないで、元々取れやすかったんだ……」


 勿論、嘘だ。

 しかし、武須田の所為なのは恭兵も知っているので責める気は全くない。むしろ同情の方が大きかった。

 恭兵は芽愛の手を引いて武須田の車から優しく降ろした。


「俺の車に」


 恭兵と芽愛がSKN1に乗ろうとして、片足を車内へ入れた時だ。後ろからけたたましいサイレンが近づいて来た。

 パトカーだ。


「ねぇ、お巡りさんが来ましたよ」

「もう来たのかよ……婦警さんならいいけど……」


 しかし、パトカーから降りてきたのは2人とも男性警官だった。

 警官がパトカーの拡声器を使い恭兵たちに警告した。


『おい、そこを動くな!』

「ダメだ。乗れ!」


 恭兵は芽愛が乗り込んだことを確認するとSKN1を走らせた。

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