第2話 研究(?)
部屋は2LDKと2人で暮らすには十分の広さだ。
少々家賃は高いが、利輝と恭兵がシェアすることで何とか生活できている。
恭兵はリビングの隅にあるパソコンの席に座っている。
そして利輝が言っていた研究というのは……。
『あぁぁぁん、ご主人さまぁぁぁ!』
語尾にハートマークが付きそうな程のあられもない女の子の声がパソコンから流れる――ヘッドホンを一応しているので外には漏れていないが。
画面に映る女の子は、このアニメの悲劇のヒロインの
顔は笑っているが、光の消えた瞳からは涙を流しており、正常な精神状態ではないことは誰の目から見ても明らかだ。
そんな芽愛は今、無我夢中で男性教師・
「だぁぁぁー‼ 腹立つなこいつ‼」
恭兵が怒りで声を上げた。
そう、研究というのはエ〇アニメの鑑賞である。ちなみにこれは
恭兵はこういうジャンルは得意ではない。正確に言えば女の子を無理やり襲い支配する系の物は欲情よりも怒りのゲージの方がヒートアップするくらい嫌いだ。
「――ってか、わざわざアニメで見ることないじゃん兄さん?」
「ノベルよりこっちの方が、すぐ内容が入ると思って」
「ほとんど
「それは無いよ。流石に……」
「じゃ、何故見せたし⁉」
「お前もそろそろ、こういうのに慣れた方がと思って……」
そう言って利輝は何かを誤魔化すようにあさっての方へ目を背けた。
実は利輝が恭兵の性癖がどんなものか個人的に興味があったからだ。
だが、それを見た恭兵は、疑うように目を細めて利輝を見て、思ったことを訊いた。
「まさか兄貴のこと嫌ってる割に、兄貴の作品が好きなのでは……?」
「ま、まさか……」
「もしかして兄貴の作品で……?」
「い、いやだなぁ、ハハハ……」
「白状せぇー‼」
「……」
笑って誤魔化そうとする利輝に恭兵は
そう文句を言いながらも恭兵は画面を見ると、今度は両手を後ろに縛られた美形の女性が映しだされた。
年齢は40代前半でヒロインと同じホワイトブロンドのロングストレートの髪型、ボディーラインはアニメの内容が内容だからか、年齢を感じさせない抜群なプロポーション。
服装は紫のレディーズスーツを着ている。
彼女は芽愛の母・相川
『……芽愛が……私の……芽愛が…………いやあぁぁぁー‼』
娘を最も憎むべき男に
ここで画面は暗転してクレジットが始まった。
そのタイミングで恭兵は動画の画面下の停止表示をクリックし動画を閉じる。
動画のメニュー画面に戻り、恭兵がさっきまで見ていた動画のタイトル「芽愛の支配者」と出ていた。
エンディングを見た恭兵は心にモヤモヤな気持ちが残った。それはクズ教師が結果的に勝利したようなエンディングにムカついたこともそうだが、理由は他にもある。
「どうだった?」
利輝の質問に恭兵は正直、ムカついた! と言いたかったのだが……。
「うん……ヒロインの親子関係についてちょっと思うところがあるかな……思いのすれ違いであんな悲劇になるっていうのは興味深かったよ」
「それが実力ならそう言えるんだけどね」
「どゆこと?」
「お前には言いづらいんだけど、実は浩次にはゴーストライターの疑惑があってね」
「ゴーストライター……?」
恭兵は視線を上に向けると、唐突に燃えるドクロの頭を持つライダーを思い浮かべた。
「いや、ゴースト違いだから……」
「何で分かったの!?」
「お前が大体そういう目をするときは、ボケやってる時だからだ」
恭兵の心を読んだ利輝が呆れ顔でツッコミを入れた。
「あくまで噂だけど、いくら何でも多才過ぎると思わないかい? 確かにたくさん本を出す人はいるけど、それでも浩次が1人で出来るとはどうも……」
恭兵は何も答えなかった。浩次を悪く言うことにムカつきもあったが、確かに浩次の作品は出来過ぎているような気がするのも事実だ。
「あ、そうだ!」
恭兵はインターネットを開き、WEB小説サイトにアクセスした。自分の書いた作品のレビューを確認するためだ。
ちなみにWEBに上げている作品は、さっき出版社に持っていったノベルと同じ物だ。
ハッキリ言って評価は全然ダメ。少なからず読んでくれる人はいるが、それでも週に数人程度いれば多い方だ。
コメントを見ても、
――内容が大人向けなのに子供向けのような文章。
――時代を無視しすぎ。
――文字数が多すぎて読み難い。
などが書かれていた。
それ自体なら恭兵も納得し、修正を施すし、事実、高校も定時卒で大学にも行けず、文章力があまりないことも理解している。
問題は、
――子供殺すとかありえない。
――ヒロインがクズ過ぎ。
――犯罪を助長している。
など、内容とは関係ないレビューによって作品の評価が意図的に下げられていることだ。
運営側にも問い合わせて削除してもらっているが殆ど状況は改善されていない。
「また荒らし屋だよ……全く…………」
「ひどい奴がいるもんだ……気晴らしにいつもの店に行かないか?」
「いいね」
利輝の誘いに微かに恭兵の目がキラリと輝いた。
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