第3話 ついに

 とある繁華街――

 辺りは飲み屋や定食屋――中には如何わしいお店――の明かりや看板のネオンが夜の街を飾っている。

 恭兵キョウヘイ利輝トシキは行きつけの店にいた。

 この店では恭兵が気晴らしをするのにうってつけの物を扱っている。

 人によってはその刺激に魅了され虜になる。恭兵もその刺激に酔わされる1人になった。

 それは――

 

 パン! パン! パン!

 

 恭兵を酔わせる物、それはエアガンだ。

 利輝がエアガンを始めたことがきっかけで恭兵も18歳に成ってすぐエアガン――主にレンタルだが――にハマり、今では上級者レベルの腕前にまで成長している。

 しかし成長したのは腕だけではなく、銃関係の資料や情報、その手が関わる映画や漫画などの作品にも手を掛け、そしてガンマニアへと覚醒した。

 ちなみにこの店はシューティングバー「GORILLAゴリラ」。

 恭兵たちがいるのは、そのシューティングレンジだ。

 バーと掲げているが、お酒は出されていないので、保護者同伴であれば10歳以上でも入店は可能だ。

 ただし、18歳未満は10歳以上用のエアガンしか使えない。

 この店のシューティングレンジは2つあるが、恭兵と利輝は1レーンをシェアして使っていた。

 恭兵が使っている銃は、ベレッタ 92Fのガスブローバックだ。


 ベレッタ 92F。

 イタリアのオートマチック拳銃――恭兵が使っているのはエアガンなので日本製だが――で、各国の軍や特殊部隊、警察などでも使われている。

 反動が比較的ソフトな9ミリ口径の弾を使うため命中精度も高く、1つの弾倉マガジンに15発とスタミナも高い。

 アクション映画などでもよく登場し、主人公からザコキャラまで幅広く使われていることでも有名な銃だ。


 ガスブローバックとは、エアガンの一種で、ガスの力でBB弾を飛ばすと同時に、撃つたびにスライドが後退し次弾を装填、弾が無くなるとスライドがホールドオープンするなど実銃同様のアクションが楽しめるのが魅力のガスガンだ。

 その分、値段もお高めだが……。


 対する利輝の銃は、コルトガバメントのガスブローバックだ。

 こちらも映画などでお馴染みのアメリカを代表する銃だ。

 真剣に的を狙う2人、そして話題は恭兵のノベルのことになった。


「それで、今回書いたやつにもスーパーマシンが出るのか?」

「もっち!」


 そう言って恭兵はニカッと笑い、利輝もつられるように同じ笑みを浮かべた。

 恭兵が書くアクション物の多くには、世界的に有名なイギリスのスパイが乗るような装備を搭載したスーパーマシンが多数登場する。

 利輝は恭兵の作品に登場するスーパーマシンが大好きだ。


「しかも今回はR35とエボテンがベース」

「今回は日本車なんだ」

「そう。最初は外車で考えていたんだけど、イメージが湧かなくて……」


 恭兵は今まで自分の作品に登場させた車は全部外国の車で、日本車を使ったのは今回が初めてだった。

 外車を多く使っていたのは、かっこいいモデルが豊富ということが主な理由だが、車に付ける武器などのガジェットをカモフラージュする部分が日本車より多いことから外車を選ぶことが多かった。

 だが今回の作品で日本車を選んだのは、目を付けた車が主人公たちのイメージに合っていたことと、ガジェットをカモフラージュできる部分がそれなりに多かったことが理由だ。


「次はライフルにしようかな……」


 続いて恭兵が手にしたのはアサルトライフル、M4A1カービンのカスタムガン。

 こちらもガスブローバックタイプで、実銃同様の操作で扱えることは勿論、連射フルオートも可能で、更に撃つたびにボルトも後退し、実銃程ではないが反動が味わえることでマニアにも人気のシリーズとなっている銃だ。

 更にオプションでライフルスコープが付いている為、20メートル離れた的にも百発百中を可能にしている。

 恭兵にとってはまさに、鬼に金棒、的は次々倒されていった。


「いい腕だ!」

「銃が良いんだ」


 こうして恭兵と利輝のうっぷん晴らしは終わった。


                 〇


 翌日――

 ガソリンスタンドのバイトをしている恭兵がお昼休みに入ったところで、スマフォに着信が入った。

 電話の相手は利輝だ。


『恭兵、落ち着いて聞いて欲しいことがあるんだ』

「どうしたの兄さん?」

『昨日売り込みしただろ。それでだな、その時の担当が俺に言って来たんだよ。お前のことで』

「それって……」

『非常に言い難いんだけど……』


 嫌な予感がする。

 もしかしたら「もう売り込みに来るな」という通告かもしれない。

 そして利輝から告げられたのは……。


『作品をしてみないか、って』

「やっぱりか……――ん?」


 すぐに利輝の言葉が理解できず恭兵はフリーズ。

 そして理解が出来た時に口を開いた。


「今日ってエープリルフールだっけ?」

『それは来月!』

「じゃあ本当⁉」

『ああ』

「マジかよ! ――でも急にどうして?」

『それがな』


 利輝が言うには読者から、


 ――異世界ファンタジーばっかりで他のジャンルは無いのか?

 ――昔と違って最近の「HIRAYAMA」さんジャンル偏っていませんか?

 ――他のが読みたい。


 という意見が最近多く寄せられていることで、出版社の方も色々検討していたらしい。


「最後の出版社、関係なくないか……?」

『まぁな。でも殆ど出版社うちと関係を持ってる作者は異世界ファンタジー物……あと浩次アイツのムフフ系しかいないから、試しに恭兵の作品を出してみようって』

「分かったよ。じゃ、バイトが終わったらそっちに行くよ」

『ああ、待ってるよ』


 恭兵は電話を切ると、恭兵はガッツポーズをした。

 ついにデューが決まった。

 長年の苦労が報われると思うと、とても嬉しい。

 そして恭兵はあることを考えた。

 それは両親に報告するかどうかだ。

 浩次コウジしか興味が無い両親に連絡しても相手にされない可能性があるが、同時に認めてくれるのでは、という期待もあった。

 恭兵は母親の携帯を呼び出した。


『何の用?』


 母親の冷たい開口一番の声に恭兵は呆れて目を細めた。


「実は俺、本を出すことになったから」

『……』


 母親の沈黙に、もしかしたら驚いているのでは、と少し期待が膨らんだ。

 しかし……。


『……だから?』

「え?」

『だから何? 浩次コウちゃんみたいにたくさん出してるわけじゃないんだから、そんなことでいちいち連絡しないでちょうだい!』


 そう言って一方的に電話を切られた。

 恭兵の期待は完全に裏切られてしまった。


「全く……いや、あの親に期待したのが間違いか……」


 確かにたくさん本を出している浩次に比べ、恭兵はまだ最初の一冊を出すだけだ。

 そう考えると確かに、そんなこと、の一言にも納得してしまうが、それでも恭兵にとっては大きな一歩だ。否定される筋合いはない。

 恭兵は前向きに考え直した。

 そして恭兵は浩次に自分の作品が書籍化することをメールで知らせたのだった。

 きっと浩次なら喜んでくれると信じて。


                 〇


 そして出版社の前――

 日が暮れ、辺りのビルの明かりが目立ち始めた頃、バイトを終えた恭兵が、出版社の前の横断歩道の前に立っていた。

 いよいよデビューできると思うとワクワクが止まらないが、同時に売り込みとは違う緊張感もあった。

 目の前の歩行者用信号機が青に変わり、それを確認した恭兵が横断歩道を渡った。


「あぶない‼」

 

 誰かの声に恭兵は左を向くと、ヘッドライトの光が恭兵に向かって真っすぐに向かって来る。

 恭兵はなすすべがなく車に撥ねられた。


(何でだよ……?)


 もうすぐ夢が叶うと喜んだ矢先に、それが奪われた……。

 怒りと悔しさが募ると同時に恭兵の意識は闇の中へと消えて行った。

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