ドワーフの聖女様
第25話 聖女誕生
謁見の間での任命式が終わり、ドワコとエリオーネは聖女の執務室へ戻ってきた。
「お疲れ様。これでドワコは聖女様だよ。やっとで適任者に引き継げたから肩の荷が下りたよ」
エリオーネが肩の荷が下りてホッとした様子で首を回しながらドワコに言った。
(何かうまく丸め込まれたような・・・)
結局上手く丸め込まれて聖女にさせられたドワコは少々不満だった。
「前に説明した通り、仕事なんてそんなにないから大丈夫だって。あと、仕事のない日は自由に過ごして良いから、そんなに負担にならないとおもうよ?」
エリオーネは他人事のように言った。
「一応、書類上では今日まではわたくしが聖女で、明日からはドワコが聖女ね。任命式のときに名前や顔は出さないように配慮したから、ドワコが黙っていれば今まで通りの生活ができると思うわ」
ドワコ自身も親しい人には話した方が良いと思うが、エリオーネに言われるまでもなく、自分から率先して自分が聖女だと名乗り出る気はない。
「ここから、この先のことを話すわね。大事なことも含まれるから忘れないようにしておいてね。聖女は身分的には上級貴族と言うことになり、身分と職責に応じた相応のお金が国から支給されるようになるわ。それがあれば、よほどの無駄遣いをしない限りは通常の生活をするのに困らないと思うわ。あっ、それとこれは上級貴族を示すバッチね。ふだんから付けていても良いけど、通常は城に入るときとかは顔パスになるだろうから付けてない人が多いね。付ける必要はないけれど、身分を表すものだから、いつでも見せられるように持ち歩くことをおすすめするわ」
ドワコはエリオーネから金色の小さなバッジを受け取った。
「基本、強制はしないのだけれど、貴族には日頃から身の回りの世話をする使用人を付けなくてはいけないの。人選については自分の判断で決めると良いわ。強制はしないと言ったのだけれど、公式の場で貴族の集まる所では側付きメイドが最低1人必要になるから注意してね。専属がいないときは派遣会社に依頼すると、その日だけ臨時で来てもらえることもできるから覚えておくと良いわ」
(なるほど、臨時で来るよりも顔なじみの方が接しやすいから、派遣会社で聞いてみよう)
エリオーネの言い方では、専属のメイドを最低1人雇っておいた方が良さそうだ。ドワコは、メイドを雇用するのにどれくらいの費用がかかるかわからないので、後日派遣会社の方で確認しておくことにした。
「まあ困ったことがあったらいつでも聞いてね・・・と言いたいところだけど・・・。明日から本来の仕事に戻らないといけないんだよねぇ。滅多に顔を出せなくなると思うけど、わからなかったら気合いで乗り切ってね」
「放置プレイですか・・・ちょっとひどいです」
エリオーネは釣った魚に餌をやらないタイプのようだ。ドワコはこの先少し不安になった。
「あと、聖女用の衣装はドワコの控え室に置いておくからね。正式な聖女なんだから、間違って見習い用を着ちゃ駄目だよ?着替えをするときは、今まではわたくしの使用人を使ってましたけれど、明日からは使用人が必要なら、自分で手配するなり、手伝い無しで着替えてくださいね。聖女の執務室はこの部屋ですので、明日からはこの部屋を使いなさい」
エリオーネは事務的にドワコに引き継ぎを行った。
「それじゃ今日は帰っても良いわ。気を付けてお帰りなさい」
「はい。今までありがとうございました」
一応指導を受けた身なので、エリオーネに対し感謝の言葉を述べたドワコであったが、スッキリとした気持ちにはなれなかった。片付けを終えた後、ドワコはいつもの服に着替えて城を出た。
「明日は特にすることはなかったはずだし、聖女の仕事はお休みにしよう」
エリオーネとのやり取りに疲れが出たために、初日からサボる気満々なドワコであった。
「おかえりなさいドワコさん」
「ただいま戻りました」
ドワコの家の前まで戻るとシアが迎えてくれた。シアの笑顔と柔らかそうな胸を見てドワコは少し心が癒やされた。
「ドワコさん元気ないですね?何かあったんですか?」
「・・・いろいろと・・・」
心配するシアに対し、ドワコは本当のことを言おうか悩んだが、しばらく様子を見ることにした。言いたい気持ちをぐっと我慢していろいろととしか答えられなかった。
「そうなんですか?困ったことがあれば何でも相談してくださいね」
「ありがとうございます」
ドワコの表情を見たシアはこれ以上聞くこともできないと察し、いつでも困ったことがあれば協力するとだけ伝えた。その言葉にドワコはとても感謝した。それから
夕食をシアの家で頂いてから、自分の部屋に戻り休むことにした。
「ここ数日いろいろなことがありすぎて疲れた・・・」
ドワコはそのままベッドの上に寝転がり、いつの間にか寝てしまった。
翌日、ドワコはシアの家で朝食を頂いた。
(いつも頂いてばかりだし、これも解決しないといけないよね?)
さすがに毎日シアの家で食事だけを頂くのは申し訳ないと思い、ドワコは自分で食事を何とかしないといけないと思った。
(さあ出かけよう)
ドワコは今日することを決めて出かけることにした。城下町を出て少し離れた所にある森へ入った。ドワコは周りに人がいない所で魔法を試してみることにした。これは少々大掛かりなものなので騒ぎになるのを恐れてのことである。この魔法が思った通りの効果ならばアリーナ村と城下町の移動が楽になるはずである。
「よし、誰もいないな」
ドワコは森の奥深く開けた場所を探し、人の気配がないことを確認し、魔法書を持ち闇属性の中級魔法の詠唱を始めた。
「・・・。・・・。・・カモン・ワイバーン」
地表に魔法陣が出現し、下からワイバーンが出現した。大きな羽が生えていて、空を飛ぶことができるドラゴンタイプの魔物だ。ゲームをしているときは指導してくれたミンミンの転移魔法を利用させて貰っていたので、移動用の魔物や動物を持つ必要性がなく所持していなかったが、他のプレイヤーが使用しているのは度々見ていた。ゲームでは先ほど詠唱した魔法で召還した魔物が移動手段に使えたようなので、この世界ではどのようになるか気になっていた。
「乗れるようになってるね」
ドワコが出てきたワイバーンを見ると、背中に鞍のような物が取り付けてあり、乗ることができるようになっていた。ドワコはワイバーンの背中を伝いよじ登った。取り付けられている鞍にまたがると体が安定して多少の揺れでは振り落とされる心配がなく、乗ることは問題なさそうだった。跨がってみるとちょうど手元に手綱のようなものも付いているので握ってみた。扱い方など全くわからないので、取りあえずいろいろ試してみることにした。
いろいろ試してわかったのだが、結局のところ自分が思えばその通りに動いてくれるようだ。試しに上昇するイメージを浮かべるとワイバーンは羽をばたつかせ高度を上げていった。
「飛んでる。飛んでる」
上から見下ろす地上の風景はなかなかの物であった。今度は前に進めとイメージした。するとワイバーンはそれに応じて前に進んでいった。
(扱い方に慣れてきた感じだ)
ドワコはある程度乗って扱い方を覚えていった。そのまましばらく適当な方向に飛行してみると何もない砂漠のような場所を見つけた。ちょうど良い場所を見つけたのでドワコは地上に降り立った。そこで次に試してみたいことを実験することにした。
「ぶおおおおおおおおおおおぉおぉぉ・・・」
ドワコはワイバーンに火炎攻撃をするように命じた。すると大きく口が開き火炎放射器のように炎が噴き出した。見た目は迫力がるのだが、余り威力はなさそうだ。ハッタリにはなるので牽制には十分使えそうだ。
(おや?何かあるようだ)
ドワコは攻撃の練習を終えて、ワイバーンでブラブラ当てもなく飛んでいると、森の中にある集落のような物を見つけた。ドワコは何故かそれが気になったので、騒ぎにならないように、少し離れた所でワイバーンから降りて徒歩でその集落を目指すことにした。しばらく歩いていると空から見えた集落に到着することができた。
「おや。あんた旅のドワーフかい?」
第一住人を発見したドワコはその人に話をしようと近寄った。その人物は髭をたくさん生やした背の低い男性・・・ドワーフだった。そのドワーフはドワコの姿を見つけると向こうから話しかけてきた。
「散策していたら、たまたまこの集落を見つけたもので立ち寄ってみました。お邪魔でしたか?」
「いやいや、同じドワーフなら構わんよ。何もないところだが、ゆっくりしていくと良い」
ドワコの話をしっかりと聞き、煙たがることもなく丁寧に返してきたドワーフの男は厳つい顔の割にはとてもフレンドリーだった。
「なぜこんな森の奥に集落があるんですか?」
ドワコは上空から見る限り、人との接触を断ったように見えたこの集落について質問した。
「まあ何だ。ここから少し離れた国にあったドワーフの村で生活していたんだがな?戦火に巻きこまれて国境を越えてここまで逃げ延びたんだ。そして、ここで新たな集落を作り、皆でひっそりと暮らしているという訳さ。ここでは男女合わせて25人のドワーフが生活しておる。紹介が遅れたが、ワシはこの集落の代表を務めている。皆からは親方と言われておる。せっかく訪ねてきてくれた同胞だ。集落を紹介してやろう。おーい誰かおらんか?」
この集落ができた経緯を親方が語った。そして話が終わってから集落の方に向かって親方が叫んだ。
「はーい。今行くよ」
可愛らしい声と共に近くの家から1人のドワーフの女性が出てきた。猫のヒゲのような髭を生やしている。身長や体つきはドワコに似ていて顔も可愛かった。猫耳を付ければ最高な感じだ。
「ドワミか。今、旅人のドワーフが来なさった。村を案内してくれんか?」
「親方わかったよー。あたしドワミだよー。あなたは?」
親方の頼みをドワミと名乗るドワーフの女性は快く引き受けた。
「私はドワコ。よろしくね。ドワミさん」
「さんはいらないよ?ドワミで良いよ」
「わかったよドワミ」
ドワコとドワミは握手をした。これが後々、ドワコの製作関係の右腕となり、製作の匠と呼ばれるようになったドワミとの初めての対面であった。
「それじゃ案内するよー。付いてきてね」
後々の話はひとまず置いておいて、ドワコはドワミに集落を案内してもらった。ドワーフの家らしく、各家には工房が併設されていた。ところが話を聞くとドワコの工房と違うところがあり、各家は専門で一つのカテゴリーのものを製作をしている。武器なら武器だけ、防具なら防具だけ製作していると言った感じだ。それらは単価の安そうな物から一品物の高級品も含まれていた。対してドワコの工房は、幅広いジャンルの既製品を作ることができるが一品物の高級品の製作は現段階ではできない。根本的に工房の質が違うようだ。集落を見て回りいろいろ勉強させられるところがあった。そしてドワコとドワミは元の場所に戻ってきた。
「この作った物ってどうするの?」
かなりの辺境にある集落なので、どのようにお金を得ているか気になったので、ドワコはドワミに聞いてみた。
「ドワーフは物作りが生活の一部だからね。職人気質が強くて基本的に商売は下手だから、高級品でも倉庫に放り込んで放置かな。前いたところは定期的に商人さんが買い取りに来てくれたけど、今の場所には誰も商人さんが来ないからね」
ドワミはそう答えた。
「そう言えば一人紹介できる商人いるけど」
ドワコは城下町の自宅1階に住む人のことを思い浮かべた。
「何?商人を紹介してくれるのか?それは助かるぞ」
「これで安定した収入が期待できそうだねー」
ドワコとドワミの話を聞いていた親方が食いついてきた。ドワミも収入が得られる可能性が出て嬉しそうだ。
「もうすぐ日が暮れる。今日は泊まっていかんか?」
既に日が傾きかけて空はあかね色に染まっていた。親方からお泊まりのお誘いを受けた。
「うちにおいでよー」
それを聞いたドワミがドワコを自分の家に誘った。
(これは断らない方が良さそうだな)
ドワコは明日も特に予定はなかったので、お言葉に甘えて一晩泊まることにした。
「それじゃ一晩ほどよろしくお願いします」
この判断が後々、ドワコと集落に大きく影響を与えてしまうのだが、そのようなことに現時点で気が付く訳もなく、ドワコはドワミの家にご厄介になることとなった。
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