第24話 魔物討伐
見習い研修4日目。予定では今日が研修最終日となっている。
「シアさん、ご馳走様」
研修のために城下町で生活するようになり、朝は1階にあるシアの家で朝食を食べることが日課になっていた。食事を済ませてシアにお礼を言ってから、ドワコは自分お部屋に戻り、出かける準備を済ませてから城を目指して家を出た。
「おはようございます。これ通行証です」
城の前に到着したドワコは、ここ数日で顔なじみになった貴族門の衛兵に通行証を見せた。
「毎日ご苦労さんだね。いってらっしゃい」
ドワコのことを城内にいる貴族のお使いか何かと思っている衛兵のおじさんに、優しく声をかけられてドワコは城内に入った。さすがに4日目となれば城内の配置もある程度わかってきた。慣れた順路で城内を歩き迷わず自分の控え室へ到着した。部屋に入るとドワコを待っていたメイドが挨拶をし、ドワコの服を脱がせてローブに着替えさせた。最初の方は他人に着替えさせられるということに慣れなかったが、4日目となればある程度慣れてきた。ドワコはメイドの作業がしやすいように両腕を軽くあげるくらいの余裕まで出ていた。そして、着替え終えたドワコは聖女の執務室へ入った。
「おはようございます。今日もよろしくお願いします」
「おはよう、ドワコ。いよいよ今日が研修最終日だから最後まで気を抜かないように頑張ってね」
出迎えたエリオーネは早速ドワコを抱きしめながら優しく語りかけた。最初の方はドワコは距離が近すぎて嫌であったが、次第に慣れてしまい、今は抵抗すらしなくなってしまった。
「今日は少し前に城から少し離れた場所に魔物が出現したと報告があったわ。今回はその魔物を討伐に行きます。と言っても、私達は先陣を切って戦う訳ではなく、後方支援の回復要員として同行するわ」
「はあ・・・」
魔物と言われてドワコはダンジョンで遭遇した物を想像していた。恐らくはそれとは異なる物だろうが、想像できず曖昧な感じでドワコは返事をした。
「今日は第1騎士団が冒険者では手に負えなくなって暴れていると報告を受けた魔物を討伐に行きます。その回復要員として私達は同行します。今回報告を受けている程度の数なら、通常支援役の回復要員は付けませんけど、今回はドワコの研修と言うことで特別にお願いして同行することにしました。今回出撃する第1騎士団の内訳ですが、隊長を含め騎士団員20人とわたくしたち2人、それと側仕えのメイドと御者ね。今回、わたくしは緊急時以外では手を出しませんので、自分の裁量で任務を完了させてください」
「わかりました」
エリオーネから今回の大まかな概要の説明を受けた。その後、ドワコはローブのフードをかぶりエリオーネとともに第1騎士団の詰め所に向かった。
「今日の任務である魔物討伐だが、急なことではあるが、聖女様と準聖女様が同行することとなった。護衛は十分にし、絶対に2人に怪我などさせぬようにな」
エリオーネとドワコが詰め所に入ると今回出撃予定の騎士達が既に整列して待っていた。隊長のバーグが2人に気づき隊員に号令をかけた。
「「はっ」」
隊員の騎士が一斉に返事をした。
「諸君の健闘に期待する。それでは出発」
隊列を組んで詰め所からの移動を開始した。
「聖女様、準聖女様、今日はよろしくお願いします」
移動途中に隊長のバーグがドワコとエリオーネの元にやってきて改めて挨拶をした。
「これからのことですが、一旦城外に集合してから目的地へ移動します。我々騎士団はそれぞれの馬に騎乗して移動になります。聖女様、準聖女様は馬車を用意していますのでそちらでの移動となります」
バーグが今回の移動手段について説明をした。
(綺麗に並んでいるなぁ)
外に出たところで騎乗した騎士団が隊列を組んで待機していた。その最後部には馬車が用意されていた。
「それでは乗り込みましょう」
「はい」
エリオーネがドワコを連れて馬車まで案内し、待機していたメイドが馬車のドアを開けてエリオーネとドワコが乗り込んだ。乗車を確認した後でメイドが馬車に乗り込み、騎士団とドワコ達を乗せた馬車が出発した。隊列は隊長以下騎士団が先行し、その後ろを馬車が続き、それを4人の騎士達が護衛するという形で移動した。
(あれ?馬車が止まった)
しばらくすると馬車が停止した。どうやら目的地に着いたようだ。
「それでは馬車はここまででこの先は徒歩になります」
「えーっ」
メイドに告げられドワコは思わず声をあげた。この場所は目的地ではなく、馬や馬車で移動できる限界の地点だった。仕方なくドワコは馬車から降り、その後にエリオーネが続いた。騎士団も馬から降り、徒歩で移動に切り替えた。2人ほど馬と馬車、それとメイド達の護衛の為にこの場所に残ることになり、残りの騎士団隊長以下18人とエリオーネ、ドワコの総勢20人は先に進んだ。しばらく歩くと目的地に着いた。
(何か出そうな雰囲気だな)
目的地は古い墓場のようだ。まがまがしい感じが伝わってきて、今にも幽霊でも出そうな雰囲気であった。ドワコは少しビクビクしながらまわりを見渡した。
「ここが目的地だ。任務を受けているのはこの墓地に出現するスケルトンの駆除だ。報告では20体前後と聞いているが、時間も経過しているため増えている可能性もある。十分気を付けるように」
「「はっ」」
隊長のバーグの号令のもと、総員が配置についた。エリオーネをドワコには護衛の騎士が2人配置されて騎士団より少し後方に待機していた。
「ドワコ、そろそろ始まるよ。基本的にわたくしは手を出さないから、自分の考えで行動してみてね」
「わかりました」
ドワコは中級魔法の詠唱方法を取得できたので、昨晩のうちに今日使う可能性のある、中級魔法の幾つかを勉強してきた。ドワコも魔法書を持ち、魔物との遭遇に備えた。
「来たぞー」
騎士団の誰かが叫ぶと、わらわらと人のように動く骸骨の魔物、スケルトンが土の中から姿をあらわした。その数はおよそ200体程度であった。
「聞いてた数よりはるかに多いぞ!みんな気をつけろ!」
「今回は聖女様達が付いているんだ。これくらいの数、問題ない!」
想定を超えた数の魔物に騎士団の中で動揺が走ったが、今回は偶然にも回復要員である聖女と準聖女が同行していた。すぐに気持ちを取り直し騎士達はそれぞれ剣を構えた。
「かかれー!」
隊長の号令で騎士団がスケルトンに向かい突入していった。スケルトン本体は同じように見えるが、剣や斧と言った武器を装備していたり、盾や兜といった防具を装備している物といろいろなバリエーションがあるようだ。
(あとで武器、防具が回収できれば素材が増えそうだな・・・)
ドワコは後方で余り緊張感が感じられなかったので、工房のことを考える余裕もあった。だが、それも僅かな時間で早速ドワコの元に負傷者が1人やってきた。
「今回復しますね。ヒール」
「ありがとうございます」
最初の怪我人は自分で歩ける程度であったので、ドワコが軽くヒールを使用すると完治した。治療が終わった騎士はドワコにお礼を言って再度戦闘に戻っていった。
(ん?風切り音?)
ドワコが妙な風切り音を聞き、その音がする先を見ると、無数の矢が騎士団に向かい飛んできた。突然の飛び道具での攻撃に8人の騎士が負傷した。
「弓矢を持っている奴がいるぞ。先にそいつらを狙え!」
隊長の指示が飛ぶ。隊長が突入しその後に数人の騎士が続き弓を装備しているスケルトンを重点的に倒していった。
「思っていたより傷が浅くて良かった。それに毒なども塗られていないみたい」
幸い弓矢で負傷した騎士は全員歩いてドワコの元に来られる程度の軽傷だった。ドワコは矢に毒が塗られていないか心配したが、その様子は無さそうであった。
「今回復します。・・・。・・・。・・水の癒し」
水の癒しは状態異常を回復する水属性の中級魔法だが、ヒールほどではないが傷などの回復もある程度効果がある。この魔法は範囲を指定して発動できるため、複数の対象に向けて発動させることができる。ドワコは1回の詠唱で8人同時に傷を回復させた。
「「ありがとうございます」」
一度の詠唱で全員が回復したのに騎士達は少し驚いていたが、彼らは礼を言うとすぐに戦闘に戻っていった。
「お前ら気をつけろ範囲魔法だ!」
バーグが突然大声を出した。今度は魔法攻撃が騎士団に向かって飛んできた。色や形状から見て火属性の魔法のようだ。突然大爆発が起こり、10数人の騎士が爆風に巻き込まれて吹っ飛ばされた。その場で立っているのは隊長を含め数人だけのようだ。今回の魔法攻撃の被害は大きく、動けなくなった負傷者が多数発生した。そのためドワコのいる場所まで運べる人がいない。
「ちょっとこれは危ないかも・・・」
危険を感じたエリオーネがそう呟いた。そして自分の魔法書を取り出し、いつでも使用できる体制を整えた。
「ちょっと行ってきます」
「どっ、ドワコっ!」
呼び止めるエリオーネを無視し、ドワコは戦闘が行われている中心部まで移動していた。
「てりゃっ!」
「うりゃっ!」
さすがに中心部まで来るとスケルトンが容赦なくドワコに襲いかかってきた。ドワコは手に持っている魔法書を使い、物理的にスケルトンを叩き潰した。スケルトン自体は余り強くないようで、ドワコの攻撃を剣や盾で防ごうとした物もいたが、それごと粉砕した。
「すっ、すげぇ。あの準聖女様は何者なんだ?」
「もしかして俺たちより強いのではないか?」
驚く騎士達のことには気づかず、ドワコは付近にいるスケルトンを駆逐した後、回復魔法の詠唱を開始した。
「・・・。・・・。・・エリアヒール」
発動とともに範囲内にいた騎士が回復した。それと同時に範囲内にいたスケルトンも砂になり消滅した。
(回復魔法ってアンデット系にダメージ効果がある仕様なんだ)
ゲームでもアンデット系に回復魔法が攻撃として有効な物もあったので、この世界でもそのルールが適用されるのだとドワコは思った。
「「ありがとうございます」」
すぐさま回復した騎士は立ち上がり戦闘に加勢した。ドワコも中心まで来てしまったので、騎士団の助けになればと思い魔法書でスケルトンを物理的に殴りつけて粉砕して回った。魔法書はかなり頑丈なようで、これぐらいの攻撃では汚れや傷ひとつ付いていない。負傷した者がいると、その場で必要に応じた回復魔法をかけた。そのような感じで戦闘が行われ、回復魔法がある分、時間が経つにつれて騎士団の方が優勢になっていった。
「それじゃ、こいつで最後だ」
最後に残ったスケルトンを隊長のバーグが倒し、すべての戦闘が終了した。
「今回ある程度の損害は覚悟していたが、1人の死傷者を出さずに無事に任務を完遂することができた。加勢していただいた準聖女様のおかげです」
「私は近くにいたスケルトンと叩いただけです。数が多かったですが、ようやく片付きましたね。お疲れ様でした」
バーグがお礼を言い、ドワコが労った。
「んー。30点かな」
騎士団が撤収作業に入ったところでエリオーネがドワコの元にやってきた。そして今回の採点を行った。恐らく100点満点での採点だとおもわれる。エリオーネの採点基準では余り評価は良くなかったようだ。そして今回の総括を始めた。
「約200体いたスケルトンを貴方は126体倒したよね?回復に徹するように指示したはずだけど、貴方が最前線で戦ってどうするの?もう少し騎士団の活躍を引き立てるように行動しなさい。この減点が大きいけど回復魔法の使用方法については合格。1人も離脱者を出さなかったのは評価できるわ」
エリオーネは辛口の点数を言ったが、実際は自分以上に回復魔法が使えて、支援要員だけでなく、1人で半数以上のスケルトンを倒しているので戦闘評価としてはかなりの高得点になる。だが、今後のこともあるのでドワコには聖女として活動するときは回復に徹してほしいと願いも込めての点数であった。
「ちなみに合格点とかはないから、最終試験は合格ね」
「これ試験だったんですか?」
「言ってなかったっけ?」
エリオーネは白々しく言った。
(今回の任務は準聖女様のおかげで成功できたな)
今回の任務でドワコが倒したスケルトンの数を聞いた騎士団の隊員達は驚いていた。正直なところ騎士団は今回の戦闘でかなり苦戦していた。当初の報告を受けていた数の10倍もの数がいたからだ。準聖女が同行して回復してもらったり、スケルトンの数を減らしてもらっていなかったら、全滅していたかもしれないと言う気持ちになり、その危機を救った準聖女に騎士達は感謝していた。
「それでは、撤収。城へ戻る」
「「はっ」」
撤収準備が完了し、行きと同じ隊列を組み、騎士団とドワコ達は城へ帰還した。そして到着後、騎士団と別れ、聖女の執務室へエリオーネとドワコが戻った。
「今日はお疲れ様。一応、見習い研修はこれで終わりね。試験も合格なので明日から聖女として頑張ってね。これから任命式やるから謁見の間に移動するよ」
「私に拒否権はないんですか?」
「ないわ。既に予定が組んであって、王様直々に任命するから拒否できると思う?」
エリオーネは拒否権はないとハッキリと言った。
「はあ・・・」
ドワコはなるようになると半ば諦めムードになった。
「それじゃ任命式について説明するね・・・・」
それからエリオーネから式の流れについて説明を受け、簡単な礼儀作法を練習した後、エリオーネに連れられて王様のいる謁見の間へ移動した。
天井が高く、広い部屋に騎士が両側に整列している。その真ん中をエリオーネとドワコは歩いて進んだ。その先には大きな椅子が置いてあり、王様と思われる高齢の男が座っていた。その前まで進み、エリオーネとドワコが跪く。ドワコはローブのフードを被ったままだ。エリオーネの話では魔導士がフードを被ったまま謁見するのはこの国では非礼にはならないそうだ。
「聖女よ、今まで聖女としてこの国に仕えたことを感謝する。そしてそなたの申し出を受けこの任を下りることを受け入れる」
「お聞き届けいただきありがとうございます」
王の言葉にエリオーネは深く頭を下げてて応えた。
「そして、準聖女よ。聖女が任を下りることになり、そなたがこれからは聖女となる。これからも国の為に尽くしてくれることを望む」
「承りました。若輩者ではありますが、お国の為に尽くすことをお約束いたします」
(そう答えろって言われたし・・・)
ドワコはエリオーネから言われたとおりの返答をし、深く頭を下げた。
「新しい聖女の誕生だ。みなで新しい門出を祝おうじゃないか」
「「「おーーーー」」」
王の号令にその場にいる者が皆大きな声で応えた。こうして任命式が終わり、ドワコはマルティ王国の聖女となってしまった。
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