第23話 聖女見習(後編)

見習い研修3日目。今日は魔法講習を受ける予定になっている。


(どんなことを教えてくれるのか楽しみだなぁ)


魔法については、独学で進めていたこともあり、わからないところは調べることもできず放置してあったので、少し楽しみにしているドワコだった。


「それじゃ今日は魔法の講習ね」

「よろしくお願いします」


聖女の執務室にある応接用の3人掛けソファーに2人並んで座っている。毎度のことながらエリオーネはドワコに密着して座っていて、彼女(彼?)の体温がドワコの体を通して伝わってきていた。


「ドワコは魔法書を持っているし、それを使用して魔法が使えるから、魔法に関してそれなりの知識があると言うことでいいよね?」


エリオーネには魔法の知識があり、人に教えられるレベルの物である。ドワコの今までの行動を見ていてそう感じていたようだ。


「全然良くないです。魔法書はとある方から頂いた物で、使い方も教えてもらえませんでした。なので、魔法は独学でいろいろかじった程度でさっぱりわかりません」


ドワコはエリオーネに魔法の知識がないことを正直に話した。


「あら~そうでしたか。それじゃ基礎から行きますね。恐らく知っていることもあると思いますけど、もしそう言う部分があっても復習だと思って聞いてくださいね」


エリオーネは魔法初心者が使う冊子を取り出しテーブルの上に置いた。


「まず、魔法には基礎属性と呼ばれる火、水、風、土の4種類があって、それに加えて光と闇があって、全部で6種類の属性からできているの。火、水、風、土は名前の通り、火や水、風、土を操れる魔法を基本としていて、光属性は光を操ることや回復が主な効果になるわね。闇属性は実際に使える人がこの国にはいないから、詳しくはわからなくていろいろな人から聞いた話になるけれど、時空や空間を操れると言われているわ。魔物や精霊などを呼び出す召喚魔法も闇属性になるそうよ」


冊子のページを1枚、1枚めくりながらエリオーネはドワコに丁寧に説明した。


「各魔法にはランクがあって上から上級、中級、下級魔法と3段階で分別されているわ。基礎属性の下級魔法は比較的使える人が多くて、この国にも魔術師として所属している人もいるし、冒険者の中でも使える人がいるようね。中級魔法が使える者は、この国では高い地位を与えられて好待遇で迎えられるわ。ドワコも水属性の中級魔法が使えるから、この中に候補として入ると思うわ。そして、上級魔法が使える者だけど・・・わたくしは知らないわ。今では伝説級で遠い昔にはこの国にもいたそうだけど、文献でその存在が残っている程度よ。どのような魔法があったは名前や効果は残っているのだけれど、取得方法や発動方法については既に失われた物となっているわ。昨日話した光属性の上級魔法『キュア』はそれに含まれるわ」


この部分はちょうど良い資料がなかったのか、エリオーネが口頭で説明した。


「あと使える属性の数ね。普通は魔法が1属性使えるだけでもすごいのだけれど、ごく稀に複数属性が使える人が現れるわ。ドワコも光属性と水属性が使えるから、これに含まれるわ。1つの属性の魔法を使用すると次に同じ属性の魔法を使おうとすると、少し間を開けないといけなくなわ。1つの属性しか使えない人はこの時間は魔法の詠唱ができなくなるのだけれど、複数属性を持っていると、その回復時間の間に他の属性魔法を使って間を埋めることで、魔法による実質的な連続使用が可能となる訳ね。まあ攻撃魔法なら、次に詠唱する属性も攻撃魔法を選ばないと連続攻撃にはならないけどね。あとは高等技術で複数の属性を掛け合わせることも可能よ。例えば下級魔法だと火属性の『ファイア』と風属性の『ウィンド』を掛け合わせると範囲攻撃が可能になるとか、掛け合わせることで効果が上がったり、対象範囲が広がったりするの。どちらにしても、複数属性が使える魔術師は使用できる属性が多いほど重宝されるわ。これらの究極形態になると、ほぼ全属性の上級魔法が使える人を『賢者』というの。ここまで到達できた人は、歴史上でも数えるばかりしかいないそうよ。取りあえず魔法の概要はこんな感じかな」


エリオーネは冊子を閉じて話を終えた。


「それじゃ次は魔法の適正と取得についてね。まず、その人に魔法の適性があるかを確認するのは簡単だよ。魔法書の所有権を自分に設定して中身を見るだけ。いま出回っている魔法書は何も書かれていない中身が白紙のものね。所有権を設定して適性があれば魔法書に下級魔法の項目が現れて魔法が浮かび上がってくるわ。その時点で魔法が使えるようになるわ。その魔法書だけど、今では失われた技術で製造方法が良くわかっていないわ。どこからともなく商人伝いに回ってくるとか、そんな感じだから魔法書はすごく高値で取引されているわ。そう言う訳だから基本的に、魔導士は裕福な家庭の出身が多いの。たまに魔物が落とすこともあって、それを取得した冒険者が魔導士になったり、それを売ったりすることで魔法書が市場に流れるようになるの」


エリオーネが言うには魔法書はとても貴重なものらしい。適性があれば下級魔法が浮かび上がると言っていたが、ドワコの持っている魔法書はそれとは異なる仕様のものだった。


(そういえば魔法書ってクリエイトブックに書いてあったような気が・・・)


ドワコは工房で物を作成するときに使用しているクリエイトブックの中に、魔法書が載っていたのを思い出した。後で改めて確認してみようと思った。


「魔法書に書かれている魔法を増やすのには、日頃から魔法をたくさん使うように心がけるといいわ。そうしたらある日、項目が増える場合があるみたい。でもそれは中級魔法までだと言われているわ。その他の新しい魔法の習得方法は良くわかっていないわ。闇属性魔法がこの国で使える人がいないのは、下級魔法には闇属性が存在しなくて、日頃から使用して上位魔法が使えるようになると言うやり方ができないためとも言われているわ。あとは魔法書の譲渡と言う方法があるけれど、それをやると貰った方は適性があれば記載されている魔法が使用できるけど、渡した方は新しい魔法書を取得して、また0から魔法を増やしていかないといけなくなるわ。複数の魔法書の登録所持はできないから、同時に魔法書を育てることで予備を持つことができないから、譲渡すれば全部魔法を失うことになるわ。せっかく手に入れた便利な魔法や地位を捨てる人なんていないよね」


ドワコの持っている魔法書は引退する先輩プレイヤーから譲渡された物だ。エリオーネの説明からすると後者の方に当たる。


「魔法書の使用方法について説明するわ。魔法書を使用するときは両手を開けた状態で魔法書を持つ。まあこれはドワコもやってるわね。なぜだかわかる?」

「わかりません」


ドワコは素直に答えた。この面倒なやり方は仕様だと思っていた。


「これは、手を通して物に含まれる微量な魔力が発動に干渉するためって言われているわ。仮に何か持った状態で魔法を詠唱すると失敗して発動しない。片手に剣をもって片手に魔法書をもって戦うなんてことはできないわ。武器は同時に持てないのだけれど、例外としては魔法書で直接殴りつけたり、素手で殴ると言うこともできるけど、力もいるし、日頃からの鍛練が必要でそれに合わせて戦闘に関する技術もいるわ。次に魔法の発動方法だけど、下級魔法は魔法書に書かれている文字通りに言えば発動するわ。中級は魔法書に書かれている魔法陣を構成しながら、動かず一定箇所で詠唱を行う。上級についてはごめんなさい・・・わたくしにはわかりません。下級、中級魔法の詠唱については魔法書を開いた状態で読みながらでも良いし、詠唱方法を暗記できるのなら魔法書は閉じた状態で持っていても発動するわ。これができれば発動時間の短縮になるわ。良く使う魔法は魔法書を見なくても詠唱できるようにしておいた方が便利ね。魔法陣についても同様のことが言えるわ。形式を覚えて空中又は地面に書くことで発動できる。中級魔法は詠唱と魔法陣を書くタイミングを両方同時進行で覚えないといけないわ」


エリオーネの説明では魔法書は必ず開く必要がなく、閉じた状態で詠唱と魔法陣が正しければ発動するそうだ。


「最後にこれは大事なこと。魔法を使用すると体内にある魔力を消費していくから十分に注意が必要になるわ。魔力が切れるとその場で倒れて動けなくなってしまうわ。回復の巡業みたいな安全な場所なら倒れても介抱してくれるからいいけど、魔物との戦闘とかで魔力切れを起こすと命にかかわるから十分注意してね」


エリオーネはここが大事ですとアピールしながら言った。


「魔法について基本的なところはこんな所かな。理解できた?」

「んーなんとなくかな」


一応言われたことは覚えたつもりのドワコであったが、日が経てば忘れるかもしれないので曖昧な返事をエリオーネに返した。


「最後に言ったことが一番大事だからそれだけは忘れないようにね」


そう言ったドワコを心配したエリオーネは、もう一度、念を押して言った。それから休憩を入れて、各属性の魔法の種類などについて基礎から一歩踏み込んだ内容の講習を受けた。



「それじゃ明日はいよいよ見習い研修の最後だよ。頑張ってね」

「ありがとうございました」


今日は1日座学で疲れたが、明日は研修最終日になるようだ。ドワコはエリオーネに礼を言ってから帰宅することにした。

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