第10話 パーティーを組んでみた
あれから数日が経過したある日、ドワコは今日もダンジョンに潜り、他の冒険者達にはスルーされている3階層の階段付近で鉄のワニを狩っていた。この場所は他の冒険者達から、小さな女の子が1人で鉄のワニを狩っている場所として認知されるようになっていた。ドワコとしては最近、シアを通じて武器の受注が多くなったので、制作するときに必要な鉄の在庫を確保しておきたいという考えで頻繁にこの場所を活用しているだけなのだが、冒険者が先に進むのに必ず通る場所であると共に、ドワコの外見の特徴もあり、このダンジョンに通う者達の間ではそこそこ有名人となっていた。
ドワコが狩りの途中で手を休めていると、若い男3人の冒険者パーティーが階段を下りてきた。顔なじみになった前衛職でがっちりとした体格の盾持ちジャック、槍を装備したすらっとした長身の中衛職ポール、弓矢を装備したドワコほどではないが、背の低い後衛職スミスである。
「ドワコさんこんにちは今日も一人で頑張っているんだね」
最初に階段を降りてきたジャックがドワコに声を掛けてきた。
「ジャックさん、ポールさん、スミスさん今日も4階層を目標ですか?頑張ってくださいね」
ドワコも3人の安全を願って返事をした。
「ありがとう。それじゃ行ってくる」
最後に階段を降りてきたスミスが手をヒラヒラ振りながらドワコに答えて3人のパーティーは通路の奥へ進んでいった。
最近、単純作業と化してきた鉄のワニ狩りも少々飽きてきたとドワコは感じていた。安全重視が優先されるが、奥へ進んでみたいと言う好奇心が出てくるようになっていた。さすがに、この先は未知な部分があり、どうなっているかわからないので、ギルドの受付のおばちゃんや入り口で警備をしているギルド職員の忠告もあり、ソロで進むのは大変危険なのは理解していた。1人で無理なら、どこかのパーティーに入って複数の人で奥へ進んでみるのも良いのでは?と考えるようになっていた。そのようなことを休憩中にボーッと考えていると、少し前に奥へ入っていったジャック、ポール、スミスが戻ってきた。
「この先に少し強い魔物がいて3人だと厳しい少し手伝ってくれると助かる。」
困った様子のジャックがドワコに話しかけてきた。
(ちょうど奥の様子が気になっていたし、このビッグウェーブに乗るしかないっ)
ドワコはちょうど奥の様子が気になっていたところで、パーティーの誘いがあったため、冒険心の方が勝り、誘いに乗ることにした。
「いいですよ。少し奥が気になっていたのでお供させていただきます」
ドワコは即答で申し入れを受け入れた。
「ありがとう」
「よろしく」
「よろしく頼むよ」
互いに挨拶を済ませ、急遽パーティーを編成して奥へ進むこととなった。奥に進むといろいろな魔物と遭遇したが、攻守バランスの取れたパーティーの敵ではなかった。さらに進むと大きな巨人のような魔物が現れた。
「こいつはトロルと言ってかなり耐久力があって厄介な魔物なんだ。油断するなよ。」
ジャックがドワコに魔物についての説明をし、剣と盾を構えて戦闘態勢に入った。まずはトロルの初撃をジャックが盾で受け止めて攻撃を吸収した。次にポールがその横から槍で突き、同時にスミスが弓矢を味方に当たらないように細心の注意を払いつつ放つ。だが、2人の攻撃では決定打が不足しているようだ。そこでドワコは鉄のハンマーを構え、トロルに追加の一撃を加える。トロルの体はまるで軽い物をはじき飛ばしたかのように、遠くに吹っ飛びそのまま壁にぶつかり魔石になった。
「「「え?」」」
ジャックとポールとスミスは、彼らが苦戦を覚悟していたトロルを、たった1撃で倒してしまったドワコに驚きの声をあげていた。
「ドワコすげーな。トロルを一撃で倒してしまうとはな」
少し間をおいてから冷静さを取り戻したポールが言った。3人は見た目は小さな女の子ではあるが、ドワーフなのだから力が強くて当然なんだろうと納得することにした。魔石を回収し、さらに奥に進むと4階層へ降りる階段を発見した。
「この先が4階層になる。俺たちのパーティーはトロルがいないときは4階層を少し進んだあたりまでが限界になる。戦いが厳しくなるので十分気を付けてくれ。」
ジャックがドワコにそう告げた。その先に何度か行ったことがある3人は、この先が自分達のパーティーでは進むのが限界だと伝え、ドワコに注意を促した。だが、当のドワコは気を引き締めるどころか、この先が未知の4階層になることで、少しワクワクしていた。
「ちょっとこれはまずいかも。数が多すぎるぞ!」
4人が階段を下りて少し進むと、数種類の大量の魔物が襲ってきた。スミスが不吉な言葉を発する。とにかく戦うしか生き残る道がないため、ドワコ達は臨戦態勢を取った。
「とにかく敵の数が多すぎる。この状態では俺たちが連携も取ることは不可能だ。各自の判断で戦ってくれ!」
ジャックが指示をして4人は散開した。ジャックは盾で受けつつ剣で攻撃し、ポールは槍を振り回し魔物をまとめて薙ぎ払っていく、スミスは距離を保ち弓矢を放って応戦しているが、次の矢を準備するまで少し時間がかかるため、徐々に魔物との距離が縮まり苦戦をしている様子だ。ドワコもハンマーを振り回し応戦するが数が多すぎる。片っ端から吹っ飛ばしても、次から次へと魔物が現れて襲ってくる。徐々に魔物に押されていき隙を突かれたスミスが魔物の攻撃をまともに受けてしまい地面に転がった。即座に状況を察知したジャックがスミスと魔物の間に入り込み、盾を構えて魔物の攻撃を防いで時間を稼いだ。ジャックが何とかスミスを回収し後方に下がる。ポールとドワコは追撃してくる魔物に対し行く手を阻むように入り込み援護に回る。負傷したスミスを庇う形でちょうど4人が固まった状態で多数の魔物と対峙する格好となっている。
「ポールさん今から範囲攻撃をするので少し時間稼ぎをお願いします」
ドワコは練習した魔法攻撃をするチャンスは今しかないと判断し、発動までの時間を稼ぐようにポールに頼んだ。
「何をするかわからないが承知した」
ポールは共に戦う仲間として信頼し、聞き返すこともなくドワコのも申し入れを受けた。ドワコは一旦、鉄のハンマーと皮の盾をアイテムボックスへ収納して無防備な状態となった。そしてすぐに魔法書をアイテムボックスより取り出した。魔法を使用するときは、両手を開けた状態で魔法書を持たないと阻害されてしまい魔法が発動しない為であった。
(・・・・・)
ドワコは広範囲に影響が出るようにイメージして魔法を唱える。
「ファイア」「ウィンド」
2つ同時に魔法が発動し、火が風に煽られた効果で炎となり広範囲に広がっていく。そして指定した範囲にいる魔物達を焼き尽くしていった。このとき、ドワコは知らなかったが、結果的に複数の属性を掛け合わせることで発動させる高度な詠唱方法である複合魔法であった。このときは思いつきで偶然的に詠唱したが、実は凄い物だったことを後に知ることになる。
「ストーン」
複数の石が魔物に飛んで命中すると魔石に変わっていった。
「ウォーター」
高圧の水が魔物にめがけて放水され、命中した魔物には大きな穴が空き、そのまま魔石に変わっていった。ドワコは、これを数セット繰り返した。魔法は同族性の物は連続して使用できないという制約が存在する。同属性の魔法を連続して使用しようと思うと一定の間を開ける必要がある。次の同族性の魔法が使用できるまでの時間を稼ぐために、他の属性の魔法を使用すると言うやり方をしないと魔法だけの連続攻撃ができない仕様となっているようだ。これは練習をしているときに気が付いた法則だ。ドワコの魔法攻撃で視界にいる魔物はいなくなり、倒された魔物が変化した魔石が地面にたくさん転がっている状態となった。敵となる魔物の姿もいなくなり、ひと段落したので、ドワコ、ジャック、ポールの3人は負傷したスミスの状況を確認することにした。
「スミスさん大丈夫ですか?今回復しますね。」
不謹慎ではあるが、ドワコは回復魔法を使うときが訪れて気分が高揚していた。負傷したスミスには悪いが、実験台になってもらうことにした。
「ヒール」
スミスの傷が嘘のように塞がっていき苦痛にゆがめていた顔が元に戻った。
(これくらいの傷なら全快する訳ね。なるほど)
ドワコは回復魔法の効果を確認することができた。
「ありがとう。ドワコさん。まさか魔法が使えるとは思えなかったよ」
スミスがお礼を言ったあと、全員で魔石の回収を行った。倒した魔物の数が多かったので、かなりの量の魔石が回収できた。これ以上進んでも魔石が持ちきれないために今回はここで引き返すことにし、ダンジョンから出ることにした。
「今日はありがとう。本当に助かったよ。」
ジャックにお礼を言われ、集めた魔石を4人で分配し、ドワコの割り当て分を受け取った。
「また機会があったらよろしくな」
「次は足を引っ張らないように気を付けるよ」
残りの2人とも挨拶を交わし、今回の臨時パーティーは解散することになった。
(今日はたくさん頑張ったからよく寝られそうだ)
たくさんの魔石が入った袋をアイテムボックスへ入れてドワコは帰路についた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます