第9話 武器職人

ドワコは翌日、製作した鉄の剣50本を納品するために武器屋へ向かった。


(アイテムボックスって凄く便利だな)


さすがに一度に全部を持って運ぶのは重量がありすぎるので物理的に不可能だった。そこで以前、武器屋で見切り品の剣を購入したときにもらった箱に入れ、それをアイテムボックスに入れることにした。この方法で運ぶと全部まとめて1個の品でカウントされ、さらには重量の影響を受けないので運ぶのにはとても楽だ。


「ココハ、ブキトヨロイノミセダ、ナニカカウカネ?」


何度も顔を合わせている仲ではあるが、武器屋に入るとお決まりの文句で主人が出迎えた。


(いやいや、わかってるでしょ)


ドワコは内心そう思いつつ主人に納品に来た旨を伝えた。そしてアイテムボックスから注文の品である鉄の剣50本が入った箱を取り出した。


「前に来たときも思ったが、アイテムボックスが使えるのかい?これが使える人は商人の間では重宝されるんだよ」


武器屋の主人はそう言った。確かにこれを使うとどれだけ重たい荷物があっても手ぶらで移動できるため、荷車などを用意する必要がなく、輸送コストを大幅に下げることができる。商人の間では重宝されるスキルだというのも納得できた。


(まあ実際はスキルとは違って、ゲームの仕様がそのまま使えるだけなんだけどね)


ドワコはそのようなことを考えていた。


「それじゃ確認をお願いします」

「あいよ。ちょっと数が多いから少し待ってくんな。おーいお客さんにお茶を持ってきてくれ。」


ドワコは早速武器屋の主人に検品をお願いした。


「はーい」


武器屋の主人が奥の方に向かって声を掛けると、中から綺麗な声をした女性の返事が聞こえた。奥の方でゴゾゴゾと物音がした後、少ししてからお茶を持ったお姉さんが出てきた。


(これはなかなか・・・かなりの美人でスタイルも良い)


服はお世辞にも良いものとは言えなかったが、素材の方はとても良く、中身がおっさんのドワコは思わず見入ってしまっていた。


「娘のシアだ」


武器屋の主人がドワコに紹介をした。


「よろしくね。確かエリーちゃんが言ってたドワーフの娘さんでドワコさんだったよね。これお茶ね。どうぞ」


その綺麗な体中をドワコがなめ回すように見ていたが、同じ女性同士だったので警戒した素振りも見せず、その危険な視線には気が付いていなかったようだった。これが元々の姿であったのなら通報されても仕方ないレベルであった。


「ありがとうございます。エリーと知り合いなんですね。」


ドワコ思わず見入ってしまったことを反省し、悟られないように当たり障りのない話を切り出した。


「小さいときから知ってるよ。少し前まではよく遊んでいたし。」


シアは少し懐かしそうな顔をしながら答えた。そのような会話をしているうちに店の主人が検品を終えたようだ。



「今回は需要がある品物なので1本あたり大銀貨3つで買い取ろう。全部で大金貨1枚と金貨5枚だな。それでどうだ?」


武器屋の主人は買い取り金額を提示した。


「わかりました。ありがとうございます。」


ドワコは今後も取り引きがあるだろうと思い、食い下がらず提示した金額を受け入れることにした。


「またいつでも来てね」

「また何かあったら頼むよ」


お金を受け取り、剣を入れていた箱を返却してもらい、シアと主人に見送られて店を後にした。金額に換算すると150万の収入である。大金が手に入り上機嫌になるドワコであった。だが、普通の取り引きのつもりだった大量納品が後々大きな騒動になることになるのだが、今の時点ではドワコは知る由がなかった。




今回の納品でそれなりの量の鉄を消費したためダンジョンへ再び向かい、鉄のワニを狩ることにした。他の冒険者はこのワニを割が合わないので避けて通るため、獲物の取り合いなどのトラブルが起きることもなく、狩り放題である。それから数日、ドワコは鉄のワニを狩り、確実に鉄の在庫を増やしていった。




それから何日か経過したある日、ドワコがダンジョンへ向かおうと仕度をしているとき、武器屋の娘シアが工房を訪ねてきた。


「おはよ。ドワコさん。ちょっと頼み事があるけどいい?」

「内容によるけど何かな?」


頼み事があると言ってシアが尋ねてきた。彼女を工房の中に招き入れ、テーブルと椅子が置いてある場所に案内して詳しい話を聞くことにした。


「この前納品してもらった剣は、すぐに全部売れてお父さんすごく喜んでよ。他国から来た商人でもない人が、商売をする訳でもなく大量に同じ剣を持ち歩くことは普通に考えてないよね?これってドワコさんが作った武器だよね?」

「ここの工房で作った物だよ」


シアの問いに隠す必要もないのでドワコは正直に答えた。


「他の武器とか作ることってできる?」

「いまある材料だけで作るのなら、鉄と木でできた武器くらいなら、それなりの種類が作れると思うよ?今確認してみるね」


ドワコはクリエイトブックを取り出し、作成可能な武器を確認してみる。鉄の剣、鉄の短剣、鉄の長剣、鉄の大剣、鉄のナイフ、鉄の斧、鉄のハンマー、鉄のグローブ(格闘用)、鉄の槍と言った所が現在の材料で制作可能な物だ。さらにもう少し別の素材を足せば弓系統も作成できそうだ。


「今すぐ用意できるのは、鉄の剣、鉄の短剣、鉄の長剣、鉄の大剣、鉄のナイフ、鉄の斧、鉄のハンマー、格闘用の鉄のグローブ、鉄の槍くらいかな」


先ほど確認したリストを元にシアに現在作成可能な武器の名前を告げた。


「いろいろ作れるんだね。それぞれ3つずつ製作お願いできる?」


シアはその話を聞いてパッと明るい表情になり、ドワコに制作の依頼をした。


「多分大丈夫だと思う。明日お店に持っていけば良い?」

「そんなに早くできるの?もっと日数がかかる物だと思ってたわ。それじゃ買い取り価格は前回が基準になると思うけど問題ないかな?」

「買い取ってもらえるなら頑張って作るよ」

「それじゃよろしくね」


納期が早いことにシアは驚いていたが、それ以外のところは難なく交渉がまとまった。シアはいい話がまとまったと上機嫌で帰っていった。材料が足りているか改めて素材の在庫を確認してみる。


(鉄も木材も大丈夫そうだ)


早速ドワコは制作に取り掛かることにした。そして昼過ぎには注文を受けたすべての武器の制作が完了した。


(これで定期的に受注できればいい商売になるんだろうけど・・・)


今後の収入源について考えたが、現時点では結論は出ないので、残りの時間を使ってダンジョンに潜り、鉄のワニを狩り素材の補充を行った。




翌日、ドワコは納品する武器を以前使用した箱に詰めた後、アイテムボックスへ収納して武器屋へ向かった。


「ココハ、ブキトヨロイノミセダ、ナニカカウカネ?」


いやいや・・・売りに来たから・・・と内心ドワコは突っ込みを入れていた。


「何か昨日は娘が無理を言ったみたいですまないね。その話を聞いて驚いたよ。」


武器屋の主人の話から推測すると、今回の話はシアは独断で話を持ってきたようである。


「おじさんが頼んだわけじゃなかったんだね?」

「そうなるな。この前、無理を頼んでしまったからね。さすがに立て続けで追加をお願いするのは気が引けてな。まあそれは置いておいてだ、折角持ってきてくれたんだから、完成した品物を見せてくれないか?」

「それじゃこれが今回の品物になります」


ドワコはアイテムボックスから武器の入った箱を取り出して店のカウンターに納品する品物を並べた。


「おーいシア。ドワコさんにお茶持ってきておくれ」

「はーい」


武器屋の主人が奥に向かって声を掛けると返事があり、しばらくするとシアがお茶をもって奥から出てきた。


「無理を聞いてくれてありがとね。はい、これどうぞ」

「ありがとう」


シアからドワコはお茶を受け取った。お茶を頂いている間に店の主人が検品を行っていたが、今回は前回より数は少ないが、武器の種類が多いので作業が大変そうだ。


「いやぁ今の御時世に未使用の新品武器が扱えるなんて商売人としてはうれしいよ。この国では武器の生産をしていないから、他国から来た商人から買い取らないとまともな武器は入手できないからね」

「どうしてこの国では武器の生産をしていないんですか?」


ドワコが以前から気になっていた疑問を店の主人に尋ねた。


「今から20年くらい前かな・・・この国と隣の国が戦争をしていて、負け戦になり、かなりの国土を失ったんだ。そのときに鍛冶屋のあった町が相手国に奪われ、この国から技術自体が消滅してしまったんだ。終戦後、隣の国も内戦が続いていて結局、町が壊され鍛冶屋がなくなり、さらにはそこで働く職人達も命が奪われ、技術の継承が完全に止まってしまったんだ。それから十数年が経ち今に至るという訳だ。」

「そうなんですか・・・」


話を聞く限り深刻な話のようであった。そのような話をしながら、店の主人はしっかりと仕事を進め、すべての検品を終えた。そして買い取り価格の算出を行い、提示された額でドワコは了承して商談成立となった。


「これからいろいろと武器製作をお願いしても良い?」


身長の低いドワコに合わせるために前屈みになったシアが尋ねてきた。ちょうどそのとき、服の隙間からシアの胸の谷間が見えて、中身がおっさんなドワコはドキリとしたが平静を装った。


「材料さえあれば大丈夫だと思うよ」


気持ちを切り替えてドワコは答えた。するとシアと店の主人は喜んでいた。


「それじゃこれからよろしくね」

「すまんね。よろしく頼むよ。」


シアと武器屋の主人に見送られ、ドワコは店を後にすることになった。




それから数日後、国内では入手が困難な新品の武器が入手できるお店として冒険者の間で知れ渡り、遠くからそれを買い求める客で武器屋が大繁盛することになる。その噂がこの国の城まで知れ渡るのにはそう時間はかからなかった。

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