第8話 ダンジョンへ潜入

翌朝、ドワコは冒険者ギルドで紹介されたダンジョンへ向かうことにした。危ない生き物がたくさんいると言う話を事前に聞いていたので、村から相当離れたところにあるのだろうと構えていたが、実際に歩いてみると意外と近くにあった。村から近い場所に危険な場所が存在する訳だが、平和そうな村の様子を見る限りでは上手く共存できているようだ。



ドワコがギルドの紹介で到着した場所には、小高い山があり、ふもとにある柵で囲われたダンジョンの入り口と思われる穴があった。そこから少し離れた場所に詰め所のような小屋が建っていた。


(これがギルドの詰め所かな?)


ドワコはそう思い、ダンジョンへ潜入する手続きをするために、その建物を訪ねた。


「すみませーん」

「おっ、小さな冒険者が来たぞ。ダンジョンへようこそ」


小屋の中にいた人物の中で一番初めに目が合った鎧と剣を装備した男の人が話しかけてきた。良く見てみると小屋の奥にも何人かいるようだ。


(不測の事態に備えて待機しているのかな)


中にいる人物は皆、ダンジョンに入るような大荷物ではなく、武装はしているものの、カバンなどは持っていないので、ここの警備に当たっている人達のようだ。ドワコは直感でそう思った。


「見慣れない顔だね。ダンジョンは初めてかい?」


先ほど声を掛けてきた男の人がドワコに尋ねてきた。


「はい」

「それじゃ簡単に説明するよ。このダンジョンは5階層まであって、下へ降りるほど中の魔物の強さが強くなっていく。見た所お嬢ちゃんはドワーフのようだから、このダンジョンの難易度なら力押しである程度行けるのではないか?ソロでも2階層くらいまでは問題なく行けると思うぞ。だが、無理や油断は禁物だぞ命取りになる。今は先行して何組かのパーティーがダンジョン内にいるから、戦闘に巻き込まれないように十分注意して進むようにな」


ドワコが初心者だと答えると、その男は丁寧にダンジョンの説明をしてくれた。


「ありがとうございます。それじゃ行ってきます。」


ドワコはお礼を言って、ダンジョン潜入の手続きを行った。手続きと言っても難しいものではなく、冒険者カードを提示するだけのものであった。手続きを終え、ドワコはダンジョンの中に入ることにした。



(思っていたより明るいな)


ドワコは中に入って驚いていた。洞窟のようだが、壁などには照明がないのにもかかわらず、なぜか明るい。そのまま奥に進んでいくと大きな犬がドワコに襲い掛かってきた。


「うわっ、でかい犬!。こっこれが魔物かっ。とりゃっ!」」


完全に相手は敵意を持って襲いかかってきた。ドワコは一瞬焦ったが、難なくハンマーで粉砕すると魔物が魔石に変わる。


(これが魔石か。集めてギルドに持っていけばいいんだよね)


ドワコは赤く透明な石のような魔石を腰に下げた袋の中に入れてから奥に進んだ。次は大きな猫が襲い掛かってきたが、これも難なく愛用の武器『鉄のハンマー』で粉砕する。このような調子で1階層は難なく進むことができた。そして奥で下に降りる階段を見つけ下の階へ進んだ。




2階層に降りると今度は大きなトカゲみたいな生き物が襲い掛かってきた。これも難なく愛用のハンマーで粉砕した。何度か戦闘を行い、経験を積みながら先に進んだ。さらに奥に進むと下へ降りる階段を発見した。2階層より先に進むのは危険だとギルドのおばちゃんと入り口にいる男の人に言われたこともあり、ドワコは下に降りるのを躊躇った。


(まあ先っちょだけなら大丈夫だよね?危険ならすぐに引き返せばいいし)


ドワコの好奇心の方が勝ってしまった。様子を見るだけと心に言い聞かせ、階段を下りて3階層へ進んだ。今度は金属でできたようなメタリックな色をしたワニのような魔物が出てきた。見ただけでも鉄のような色と光沢があり凄く固そうである。2階層まで現れた魔物と同様にドワコはハンマーで粉砕を試みた。しかし相手の体が硬くダメージを与えたような感触がなかった。そこで、物理的な攻撃は諦め、昨日練習した魔法を試すことにした。対象から少し距離を取り、ハンマーと盾をアイテムボックスに収納し、魔法書を取り出して持ち替えた。火属性魔法「ファイア」を発動させる際に低温の赤い炎ではなく、高温の白い炎をイメージして相手に放った。ドワコの放った魔法がワニに命中し、赤くなった後、液体のようにドロドロに溶けて魔石と黒い四角の物体が残る。


(もしかしてこの黒い物体は鉄?)


その黒い物体を確認してみると、重く質量があった。ドワコが熱くないのを確認して持ち上げたときの感覚では鉄のようにも感じた。



「退路の確保は重要だよね」


不測の事態が発生したときに、すぐ逃げられるように上の階に戻る階段から離れないように気を付けながら鉄のワニ(仮称)を探す。この後、数匹の鉄のワニを見つけドワコは同様の方法で倒していった。アイテムボックスが鉄の塊みたいな物で一杯になったところで今日の作業を終えてダンジョンから脱出することにした。


(次は収納用に籠を用意しなきゃね)


次回はもっとたくさん持ち帰ることができるように、ドワコは収納用の籠を用意することにした。




ドワコはダンジョンを離れ、村に戻り冒険者ギルドへ立ち寄り魔石を買い取ってもらった。相場がどれくらいなのかわからないが結構いい収入になった。それから工房に戻り、ダンジョン内で回収した鉄の塊みたいな物を生成用の箱に放り込み鉄の塊(素材用)ができるか試してみた。すると思っていた予想通り鉄の塊(素材用)の生成ができることを確認した。これで物を作るときに必要な安定した鉄の入手が可能になった。それからドワコは数日間、3階層の階段付近で鉄のワニを大量に狩った。安全優先で主な狩り場が階段付近なので、下に行く他のパーティーは階段を通る必要があった。何度も他の冒険者のパーティーとも顔を合わすことが増え、冒険者の顔見知りも増えていった。他の冒険者達を観察してわかったのだが、完全武装の盾役となる前衛職タイプやナイフなどを持ち近接でのスピード重視で攻撃に特化して戦うタイプ、弓などで遠距離攻撃を得意とするタイプなど様々であるが、魔法職や回復職のような支援を得意とするタイプはいないようだ。高温の炎でしか倒せない上に、物理攻撃が全く効かない鉄のワニはどのようにして他のパーティーは倒しているかと言うと基本無視らしい。このワニはこちらから攻撃をしない限り、襲ってくることはないそうだ。これは他の冒険者から得た情報だ。他の冒険者に見向きもされない魔物であったために、たくさん狩っても迷惑がかからず、おかげで遠慮なく討伐することができたため、工房で使用する素材用の鉄の在庫も増え、さらに魔石を冒険者ギルドに売ったお金でお財布事情も改善されていった。




そんなある日、武器屋の主人が工房を訪ねてきた。


「忙しいところをすまんね。ちょいと頼みごとがあるのだが・・・。以前うちの店に未使用の鉄の剣を3本売ってくれたよね?」


一瞬クレームかと思い、ドワコはドキドキした。だが、ドワコの予想とは異なり、武器屋の主人は別の用件だったようだ。


「それが、どう見ても鉄の剣なのだが、お前さんの売ってくれた物は切れ味や耐久性がかなり良いと好評なんだ。他の冒険者から同じ物が入荷したら売ってくれとか、この村の守備隊で使いたいから売ってくれとか言われているんだ。そこで相談なんだが、他に同じ物を持っていたら売ってくれんかね?」


武器屋の主人はドワコが同じ剣をまだ持っていないか確認しにきたようだ。


「何本ぐらいあればいいですか?」


ドワコがどれくらい必要なのかと武器屋の主人に尋ねた。数日かけてダンジョンで集めた鉄と外に置いてある木材の在庫は潤沢にあり、それなりの数は作ることが可能な状態であった。


「さすがに持っていないと思うが、50本ぐらいあると助かる」

「わかりました。あしたお店の方へお持ちしますね。」


ドワコは在庫量を計算し、対応できると判断したので依頼を受けることにした。


「あるのか。助かる。それじゃ頼んだぞ。」


ダメ元で尋ねたが、思わぬ高回答を得た武器屋の主人は満足そうな表情で帰っていった。


(さて、そうと決まったら今から製造開始かな)


素材はある程度まとめた個数を一度に作成できるが、武器や防具のような一点物はその都度材料をセットしないといけないので時間がかかる。早速作業に入り、納品する50本の鉄の剣を製作を始めた。

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