第6話 鉄を調達
ドワコは冒険者ギルドでの依頼を達成し、マイホームを確保し、さらにはベッドの制作などを1日で行ったため、とても疲れていた。今日はそのまま寝ることにした。だが、布団や毛布などは調達できていなかったので、制作したベットの上に寝転がり一夜を過ごした。食糧の確保も面倒であったため夕食はアイテムボックスの中にあったマンガ肉で済ませた。
翌朝、クリエイトブックを読んでみるとレベルの低い品物は、材料となる木材と鉄さえあれば製作可能なものがたくさんあることに気づいた。昨日も行ったように木材は森で確保できることを確認している。もう一つの素材である鉄は、どのようにしたら安定して確保できるかを考えた。クリエイトブックには一部の素材を作ることも制作リストを見る限り可能なようだ。鉄もその素材の中に含まれるようで、鉄鉱石、砂鉄などが揃えば生成できるようだ。もう一つの確保できる手段としては鉄製品を素材に戻すというやり方もあるようだ。どこにあるのかわからない鉄鉱石や砂鉄を集めるのは現段階で不可能なため、まずは鉄製品をどこかから調達し、鉄を回収することにした。
アイテムボックスの中を確認し、その中にある物で鉄に変換できそうな物は、武器として使用している鉄のハンマーがある。だが、それを鉄に変換してしまうと他の武器がないので後で困る可能性が出てくる。廃棄寸前くらいの見切り品として売られているような安い鉄製の武器や防具が素材として良さそうだ。ドワコは昨日歩いた村の中心に剣と盾の書かれた看板のお店があったことを思い出した。素材の回収ができるかは不明だが早速向かうことにした。
「ココハ、ブキトヨロイノミセダ、ナニカカウカネ?」
どこかで聞いたことがあるようなセリフで店の主人が話しかけてきた。
「鉄製の武器や防具を探しています。壊れてかけている物でも構わないのでお店にありますか?」
「そこの箱に入っている剣は、刃こぼれとか錆ついて見切り品として売っている物だ。武器として使うには少々アレだが、安いから武器がないよりはマシな程度のお守り代わりだな」
店の隅に無造作に放り込まれている剣の入った箱を指差し、武器屋の店主は言った。値段を聞くと武器としての役目を果たさないため、ほかの武器と違いタダ同然の価格となっていた。話を聞くとこの国には鍛冶職人がいない為、修理ができないらしい。取りあえず実験も兼ねてたくさんの素材が必要だと判断したので、箱に入っている剣の全部である30本を購入することにした。
「箱も一緒に頂いてもいいですか?」
「いいぜ。処分に困っていた物をたくさん買ってくれたから箱はサービスだ。持っていきな」
代金を払い有り難く箱も頂くことにした。それを箱ごとアイテムボックスへ入れた。そこで気が付いたのだが、アイテムボックスの上限は20個までだが、箱や袋に入っている物は中に幾ら入っていても箱又は袋がアイテム1個とカウントされる仕様のようだ。アイテムボックスから出して、更に袋などから中身を出さないといけない為その分時間がかかり、戦闘などで即時対応が必要なアイテムはこの方法では収納できないが、緊急性のないアイテムならこの方法で収納すれば相当数の物を持ち歩けそうだ。
「おわっ」
アイテムボックスに収納したことにより、急に物が消えたように見えたため武器屋の主人は驚いていた。
ドワコは工房に戻り、購入した30本の剣を壁際に設置している製作用の箱に入れて蓋をする。クリエイトブックを開き、鉄(素材)を選択すると箱が光り蓋が開く。箱の中には生成された約1キログラムくらいに小分けされた鉄の塊が数10個出現した。それ工房に設置してある棚に収納していく。そしてベットを作ったときに余った木材と鉄の塊を1個を製作用の箱に入れクリエイトブックから鉄の斧を選択し制作した。これを使えば木の確保も容易になるはずだ。ここで困ったことが発生した。アイテムボックスの中を確認すると食糧がないことに気が付いた。ここ数日お世話になったマンガ肉をいつの間にか全部食べてしまっていたらしい。食べる物がなくなったために食料の確保が急務となった。
(飲食店ってこの村にあるのかな?)
ドワコが考えていると、工房へお客さんがやってきた。
「おはよー。ドワコさんいる?」
聞き覚えのある可愛い声がした。エリーだ。
「いるよ、どうぞ。」
拒む理由もないので、ドワコはエリーを工房に迎え入れた。
「へぇ~。これがドワーフの工房なんだ。」
「昨日作ったばかりなので何もないけどね」
エリーが部屋の中を珍しそうに見ていた。宿料の確保で困っていたところ、ちょうどいいタイミングで村に詳しい人がやってきたのでエリーに尋ねてみることにした。
「この村で食糧の調達でどうすればいい?」
「食べるだけなら村の中心部にある食堂かなぁ。あとは宿屋でも品数は少ないけど食べることもできるよ。食材なら村の中央広場で開催している市場に行ってみると良いよ。毎週2回開催でちょうど明日がその日だよ。」
エリーが食糧の確保について丁寧に説明してくれた。
「ありがとう」
ドワコはエリーにお礼を言った。
(食材の調達は明日になりそうだな。今日は食堂へ行って済ませよう)
ドワコは今日の食事についての方針を決めた。
「ドワコさんは、ここに住むことに決めたんだね。村の人が噂してたから様子見に来ちゃった」
「今のところ他に行くところもないから、暫くここに滞在することにしたよ」
正直なところドワコは今後の予定が全く立っていない。3日前にこの世界へやってきて、右も左もわからない状態で今に至っている。当面はここに拠点を構え、生活基盤を整えつつ情報収集を行う予定だ。
「あっ、これお母さんから。」
エリーが籠から沢山の芋を取り出して渡してきた。
(確かこの芋は焼いて食べればよかったのかな?)
ドワコは貰った芋の食べ方を考えた。
「ありがとう。すごく助かる。」
当面の食糧が確保できたので、素直にエリーにお礼を言って受け取った。
「そろそろお昼ごはんを食べようと思うけど、一緒に食堂に行かない?」
エリーを食事に誘ってみる。前世も含めて生まれてこの方、女性(子供だけど)を食事に誘ったの初めてだったので、誘いを受けてくれるかと内心ドキドキしながら尋ねてみた。
「良いの?行く行く~。」
エリーは嬉しそうに即答した。女性を食事に誘えたことで、ドワコは少しテンション上がってきた。
(一応言っておくけど、そういう趣味はないよ???)
ドワコは誰に言い訳をしているのかわからないが、幼女趣味があるわけではないことを心の中で主張した。
それから2人は工房を出て、村の中心部へと向かい、エリーの案内で食堂へ入ってみる。入店した時間がお昼時とあって鎧を着た兵士と思われる人や、どこかで作業をしてきたような少し汚れた服装の人達で店内は賑わっていた。ドワコとエリーが店に入ってきたことに気が付いた店のお姉さんが声をかけてきた。
「いらっしゃーい。あらエリーが来るなんて珍しいね。お連れの方は噂のドワーフさんかな?」
店員のお姉さんから発せられたドワーフと言う言葉を聞いた店内の人たちが興味深そうに一斉にこちらを向く。視線が少し恥ずかしかったが、見ていた人達はすぐに自分の食事に戻り、何事もなかったような雰囲気に戻った。
「今日はドワコさんの付き添いみたいな感じかな」
エリーがそう答え、店のお姉さんにテーブル席まで案内してもらった。
「御注文が決まったら声をかけてくださいね」
メニューらしきものが書かれた木札が店内の壁に掛けてあるが、ドワコはこの世界の字が読めなかった。ここは素直にエリーに聞いてみることにした。
「私、ここに書かれている字が読めないみたい。エリーわかる?」
「えっとね。右から・・・」
エリーが木札を順に読んでいった。
(エリーがいてくれて助かった)
ドワコはエリーに感謝した。そして2人は何を食べるかを決めて注文することにした。エリーは芋の焼いたものと焼き魚のセット、ドワコは芋の焼いたものと焼いた鳥のセットを注文することにした。しばらくするとお店のお姉さんが注文の品物を運んできた。
「どうぞ、ごゆっくり~。」
そう言って配膳を済ませたおねえさんは、他の客へ注文を取りに行った。
「いただきます」
「いただきます」
いただきますを二人で言ってから食べることにした。
(んー。味は薄いけど不味くはない)
この世界の味付けは薄味が基本なのかな?とドワコは思いながら出された食事を食べた。
「ドワコさんの工房ってどんなことをするの?」
エリーが話しかけてきた。実のところドワコも良くわかっていないがわかる範囲で答えることにした。
「木材や鉄といった材料を加工して武器とか防具、あとは家具なんかを作ったりするよ。それ以外では工具や農機具も作れると思う」
「鉄とか加工できるんだ?すごいね。詳しくはわからないけど鍛冶屋さんって言うのかな?この国にはないんだって。鉄製の道具は他の国から来た商人から買ってるんだって。」
エリーが鉄製品の入手先について教えてくれた。
「そういえば武器屋でそういう話を聞いたかも」
正直なところ1から制作するには作り方はわからないが、スキルを使えばある程度の鉄を加工することも可能なので、これを使えば商売になるかもしれないとドワコは思った。と言うようなやり取りをしているうちに、2人は完食し支払いを済ませて店を出ることにした。
「ごちそうさまでした。それじゃ私は帰るね。また遊びに来るね」
「いつでもおいで。おばさんにお芋ありがとうて伝えておいてね」
2人は挨拶を交わしこの日は別れた。ドワコは昼ご飯も終わったので午後からは木材集めに行くことにした。
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