洒落怖チェーンソーデスマッチ

劉度

シーズン1

猛スピード

 最近わかったことがある。


 ただの幽霊は怖くない。呪いとか祟りとか、そういうのは信じないからな。


 だけど、幽霊がチェーンソー暴力を持ってると、めっちゃ怖い。


 この前、そういうのに出くわしたんだよ。ちょっと聞いてくれ。


――


 俺にはちょっと変な趣味がある。夜にアパートの屋上に登って、双眼鏡で街を観察することだ。

 いつもとは違う、静まり返った街を観察するのが楽しい。酔っ払いを乗せて坂道を登っていくタクシーとか、ぽつんと佇む眩しい自動販売機なんかを見ているとワクワクしてくる。

 俺の住んでるアパートの西側には長い坂道がある。それはアパートの方に向かって下り坂になっている。だから屋上から西に目をやれば、その坂道全体を見渡せるようになってるんだ。

 その坂道の自動販売機を双眼鏡で見ながら、大きな蛾が飛んでるなー、なんて思っていたら、いたんだよ。


 坂道の一番上から物凄い勢いで下ってくる奴がいた。

 なんだ? と思って双眼鏡で見てみた。


 全裸でガリガリに痩せた子供みたいな奴が、満面の笑みを浮かべながらチェーンソー暴力を振りかざしつつ、猛スピードで走ってきてた。


 アイツは明らかに俺に気付いていた。目も合いっぱなしだ。

 ちょっとの間、あっけに取られて呆然と眺めていたけど、なんだか凄くヤバイことになりそうな気がして、急いで階段を下りて部屋に逃げ込んだ。

 ドアに鍵をかけて、おいおいおいおい、何だよあれ!? ってパニくってたら、ズダダダダッて屋上への階段を上る音がした。明らかに俺を探してる。

 凄いヤバいことになっちゃったよ、どうしよう、マジで、なんだよあれ、って心の中で呟きながら、防刃作業着に着替えてリビングの真ん中でチェーンソー武器を両手で握って構えてた。


 しばらくしたら、今度は階段をズダダダダッって下りる音。それとヴォンヴォンヴォンってエンジン音。

 もう、バカみたいにガタガタ震えていたら、ドアをダンダンダンダンダン!! って叩いて、チャイムをピンポンピンポン! ピポポン! ピポン!! と鳴らしてくる。


「ウッ、ンーッ!ウッ、ンーッ!」


 って感じで、チェーンソーの呻き声も聴こえる。俺の心臓が一瞬止まって、物凄い勢いで脈打ち始めた。

 深呼吸しながら必死で呼吸を整えてると、ドアに回転するチェーンソーの刃が突き込まれた。その瞬間思ったね。ヤバい、完全にバレてる、って。

 外からのチェーンソーがドアをぶっ壊したから、俺も覚悟を決めて自分のチェーンソーのエンジンを掛けた。そしたらアイツがドアを蹴破って満面の笑みで突っ込んできた。


 初撃は振り下ろしだったな。技も何もないただの振り下ろし。ただ、メチャクチャ速かったし、俺もビビってたから避けられなかった。自分のチェーンソーを振り上げて防ぐのが精一杯だったよ。

 で、金属同士が擦れ合う大きな音がした。知ってるか? チェーンソー同士を打ち合わせると、そういう音がするんだよ。

 アイツはその音にビビってた。それを見て俺は思ったね。


 こいつは素人だ、殺れる、って。


 俺は踏み込んでアイツの手にチェーンソーを突き出した。右手がザックリいったね。チェーンソー同士の戦いでは手足が命だ。これで決着がついたと思ったよ。だけど、アイツは笑ってたんだ。

 それでアイツ、どうしたと思う? 左手一本でチェーンソー振り回して襲いかかってきたんだよ。ビビったね。大人の俺でも両手でやっとのチェーンソーを、ガリガリの子供みたいな奴が片手でだよ? 初撃は何とか避けたけど、返すチェーンソーで右足に刃を受けちまった。


 え、何で足が残ってるのかって? 言っただろ? 防刃作業着に着替えたって。

 あれ、事故った時に繊維がチェーンソーの刃に絡まって止めるようにできてるんだよ。アイツも素人だから知らなかったんだろうなあ。俺の足が斬れなくて驚いた顔してたよ。

 そこに俺のチェーンソーを振り下ろした。顔の半分ぐらい叩き割って、まあ普通なら死んでるな。

 だけどアイツは、悲鳴を上げると、チェーンソーから抜け出して腰砕けになりながら逃げやがった。数十秒くらいでエンジン音もうめき声止んで、元の静かな状態に戻った。


 それでも当然、緊張が解けるわけがなく、日が昇るまでチェーンソーを構えて硬直していた。

 あいつはいったい何者だったんだ。作業着がなかったら足を持ってかれていた。

 もう二度と作業着無しでチェーンソーなんて使わない。

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