第6話 開口、開眼


 数日の修行の後、僕はかなり精霊の力を感じることが出来るようになった。

 自在に魔力を操れる日が来るのも近いそうだ。


「まずはそうね……ユウォル。あなたと話がしたいわ」

「…………?」


 話しなら、いつも筆談でしているのに……?

 と僕は疑問に思った。

 でも、どうやらシェスカお嬢様の言いたいことはそうではないらしい。


「魔法を駆使して、発声をできるようになるはずよ」

「…………?」


 どういうことなのだろうか。

 魔法を使えば、僕もしゃべれるようになるのか……?


「魔法を複雑に操作すれば可能よ。音の出る仕組みを、魔法で作り上げればいいだけだわ」


 お嬢様はなにやら複雑な説明をした。

 こんなの、魔法大学で習うようなことなんじゃないのか!?

 お嬢様はいったいこんな知識をどこで身に着けたんだろう。


 でも、正直僕には難しすぎてまだなんのことやらといった感じ。

 僕は無言で困った顔をしてみせた。


「大丈夫よ。理解する必要はないわ。ただ、私の言った通りに真似してみて」


 すると、お嬢様は僕の手をとった。

 そしてお嬢様の口に僕の手を当て、塞がせた。

 なのに、お嬢様ははきはきとした口調で続けた。


「聞こえるかしら? 私は今完全に口を閉じているはずよ。魔法で音声を出力しているだけなの。これは電気の魔法を応用すれば難しいことじゃないわ」


 本当だ……。

 お嬢様の口はまったく動いてすらないのに、明瞭な声色で聞こえる。

 普段のお嬢様の声とは若干違った感じだ。

 電気の魔法で声を合成してるってことなのか……!?

 でも、とにかくこれが僕にもマネできるようになれば……。

 僕にも話をすることが出来る……!


「いいわ、そのちょうしよ。あなたの魔法の才能はホンモノだわ……!」


 お嬢様は付きっ切りで僕の修行に付き合ってくれた。





 その後、5時間くらい練習をして、ようやく僕はそれが出来るようになってきた。

 まだ音声が完ぺきではない。

 ぎこちない喋りだが、僕は初めて言葉で話をすることができた。


「お嬢サマ……! 僕、喋れています!」


 僕は感動していた。

 そしてお嬢様に感謝をしていた。

 まさかほんとに喋れるようになるなんて……!

 不思議だ……。

 

 僕は自分の声というものがわからないから……そこは想像でしかない。

 なんとなく、兄弟たちに似た声が合成されていた。


「すごいわユウォル! ほんとうに喋れてる! よかったわ!」


 僕とお嬢様は手を取り合ってよろこんだ。

 まだ喋れるのは日に数時間だが、それも魔力の制御が上手くなれば大丈夫だと言われた。

 僕は日に日にどんどん上達していった。





 そして迎えたその日――。

 ついに僕はお嬢様のお墨付きを得た。

 今の僕はかなりの精度で魔力の制御ができているそうだ。


「じゃあユウォル。いよいよ目を開けてみる……?」


 そ、そんなことが本当にできるんだろうか?

 でも、僕はお嬢様に言われるがままに従う。


「じゃあ、精霊に働きかけてみて。目が開くように、感覚を研ぎ澄ますの」


 僕は頷いて、言われた通りにする。

 お嬢様の指令を耳から聞いて、その通りに集中する。

 すると――。


「ほんとだ……! 少しづつ……見えてきました……!」


 僕は涙が溢れそうになりながら、視覚が広がるのを感じた。

 色って、こんなふうなんだ。

 世界って、こんなにも美しいんだ……!


「ねえユウォル……私のこと、気にならない?」


 シェスカお嬢様が、後ろから問いかけてくる。

 たしかに、僕はまだシェスカお嬢様の顔を見たことがない。


「き、気になります! もちろん……」


 僕を救い出してくれた少女……。

 その人が、どんな見た目をしているのだろうか。

 もちろん気にならないはずがなかった。


「でも、私がもし……もしもだよ……? すっごく醜かったら、どうする?」

「そ、そんなの……関係ありませんよ!」


「そう……? ホントに?」

「ほんとです! 僕はお嬢様を守るって決めましたから! それに……お嬢様のことが大好きなんです!」


 言っちゃった……。

 ま、いっか……。

 僕の気持ちは本当だ。


「そ。私もよ、ユウォル」


 お嬢様は後ろから、僕の後頭部にそっとキスをした。

 そして、僕の肩を掴んで、ゆっくりと身体を回す。


「お、お嬢様……?」


 だんだん、お嬢様の姿がわかってくる。

 そしてついに、僕の眼球がお嬢様の姿を捕えた。


「き、きれいです……」

「ほんと……? よかった」


 そこにいたのは……なによりも美しい少女だった。

 いや、僕はまだ他には女の子を見たことがないから、わからないけど。

 でも、きっと彼女より綺麗な女の子なんていないのだろう。

 なぜかはわからないが、その確信があった。


「気分はどう……ユウォル?」

「さ、最高です……」


 これから、僕はさらに強くなっていくのだろう。

 お嬢様のために……お嬢様の隣で。


 そう、この最高を、誰にも奪わせない。

 そのために僕は、世界一の執事になるのだ――。

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執事ランキング最下位の僕がお嬢様を護るために1位を獲るまで~目が見えず口もきけないせいで魔法も使えず、執事一家の恥と言われたけど、無詠唱魔法に目覚めました!実は僕にはすごい魔力が秘められてたんですよ? 月ノみんと@成長革命2巻発売 @MintoTsukino

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