第6話 開口、開眼
数日の修行の後、僕はかなり精霊の力を感じることが出来るようになった。
自在に魔力を操れる日が来るのも近いそうだ。
「まずはそうね……ユウォル。あなたと話がしたいわ」
「…………?」
話しなら、いつも筆談でしているのに……?
と僕は疑問に思った。
でも、どうやらシェスカお嬢様の言いたいことはそうではないらしい。
「魔法を駆使して、発声をできるようになるはずよ」
「…………?」
どういうことなのだろうか。
魔法を使えば、僕もしゃべれるようになるのか……?
「魔法を複雑に操作すれば可能よ。音の出る仕組みを、魔法で作り上げればいいだけだわ」
お嬢様はなにやら複雑な説明をした。
こんなの、魔法大学で習うようなことなんじゃないのか!?
お嬢様はいったいこんな知識をどこで身に着けたんだろう。
でも、正直僕には難しすぎてまだなんのことやらといった感じ。
僕は無言で困った顔をしてみせた。
「大丈夫よ。理解する必要はないわ。ただ、私の言った通りに真似してみて」
すると、お嬢様は僕の手をとった。
そしてお嬢様の口に僕の手を当て、塞がせた。
なのに、お嬢様ははきはきとした口調で続けた。
「聞こえるかしら? 私は今完全に口を閉じているはずよ。魔法で音声を出力しているだけなの。これは電気の魔法を応用すれば難しいことじゃないわ」
本当だ……。
お嬢様の口はまったく動いてすらないのに、明瞭な声色で聞こえる。
普段のお嬢様の声とは若干違った感じだ。
電気の魔法で声を合成してるってことなのか……!?
でも、とにかくこれが僕にもマネできるようになれば……。
僕にも話をすることが出来る……!
「いいわ、そのちょうしよ。あなたの魔法の才能はホンモノだわ……!」
お嬢様は付きっ切りで僕の修行に付き合ってくれた。
◇
その後、5時間くらい練習をして、ようやく僕はそれが出来るようになってきた。
まだ音声が完ぺきではない。
ぎこちない喋りだが、僕は初めて言葉で話をすることができた。
「お嬢サマ……! 僕、喋れています!」
僕は感動していた。
そしてお嬢様に感謝をしていた。
まさかほんとに喋れるようになるなんて……!
不思議だ……。
僕は自分の声というものがわからないから……そこは想像でしかない。
なんとなく、兄弟たちに似た声が合成されていた。
「すごいわユウォル! ほんとうに喋れてる! よかったわ!」
僕とお嬢様は手を取り合ってよろこんだ。
まだ喋れるのは日に数時間だが、それも魔力の制御が上手くなれば大丈夫だと言われた。
僕は日に日にどんどん上達していった。
◇
そして迎えたその日――。
ついに僕はお嬢様のお墨付きを得た。
今の僕はかなりの精度で魔力の制御ができているそうだ。
「じゃあユウォル。いよいよ目を開けてみる……?」
そ、そんなことが本当にできるんだろうか?
でも、僕はお嬢様に言われるがままに従う。
「じゃあ、精霊に働きかけてみて。目が開くように、感覚を研ぎ澄ますの」
僕は頷いて、言われた通りにする。
お嬢様の指令を耳から聞いて、その通りに集中する。
すると――。
「ほんとだ……! 少しづつ……見えてきました……!」
僕は涙が溢れそうになりながら、視覚が広がるのを感じた。
色って、こんなふうなんだ。
世界って、こんなにも美しいんだ……!
「ねえユウォル……私のこと、気にならない?」
シェスカお嬢様が、後ろから問いかけてくる。
たしかに、僕はまだシェスカお嬢様の顔を見たことがない。
「き、気になります! もちろん……」
僕を救い出してくれた少女……。
その人が、どんな見た目をしているのだろうか。
もちろん気にならないはずがなかった。
「でも、私がもし……もしもだよ……? すっごく醜かったら、どうする?」
「そ、そんなの……関係ありませんよ!」
「そう……? ホントに?」
「ほんとです! 僕はお嬢様を守るって決めましたから! それに……お嬢様のことが大好きなんです!」
言っちゃった……。
ま、いっか……。
僕の気持ちは本当だ。
「そ。私もよ、ユウォル」
お嬢様は後ろから、僕の後頭部にそっとキスをした。
そして、僕の肩を掴んで、ゆっくりと身体を回す。
「お、お嬢様……?」
だんだん、お嬢様の姿がわかってくる。
そしてついに、僕の眼球がお嬢様の姿を捕えた。
「き、きれいです……」
「ほんと……? よかった」
そこにいたのは……なによりも美しい少女だった。
いや、僕はまだ他には女の子を見たことがないから、わからないけど。
でも、きっと彼女より綺麗な女の子なんていないのだろう。
なぜかはわからないが、その確信があった。
「気分はどう……ユウォル?」
「さ、最高です……」
これから、僕はさらに強くなっていくのだろう。
お嬢様のために……お嬢様の隣で。
そう、この最高を、誰にも奪わせない。
そのために僕は、世界一の執事になるのだ――。
執事ランキング最下位の僕がお嬢様を護るために1位を獲るまで~目が見えず口もきけないせいで魔法も使えず、執事一家の恥と言われたけど、無詠唱魔法に目覚めました!実は僕にはすごい魔力が秘められてたんですよ? 月ノみんと@成長革命2巻発売 @MintoTsukino
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